第3話【杖作り2】
「この後はどうするんですか?」
マリーは目をキラキラさせながら、食い入るように俺の持つシラカンバの枝を見つめている。
さっきの出来事で俄然興味が沸いたようだ。
俺の杖作りはほとんど独学で、人にきちんと見せることはあまりなかったから、この反応は正直楽しい。
「芯が通ったら、この埋まった穴を隠すように触媒となる石を置くんだ。今回はこれだな」
「わぁ! 真っ赤で綺麗ですね! 宝石か何かですか? あれ? 私の杖には石なんてついてないですよ?」
マリーは自分の持っている自身の杖を見ながら不思議そうな顔をする。
「ああ。それは、ちょっと貸してごらん。ここを……こうやって……ほら。ちゃんと入ってる」
「え!? そこって外れるんですか!? なんで!?」
手渡された杖の仕掛けをいじり、主材に隠された石を見せる。
マリーの杖の先端には青の輝石が嵌めてある。
魔力の質や様々な要因で、それぞれ得意な魔法の属性や種類が異なってくることが知られていて、俺が調べた結果、マリーは水属性とすこぶる相性がいい。
だからこそのこの杖なんだが、それでも
「その疑問は、何故わざわざ石を隠しているのか? ってことでいいか?」
「はい! こんなにキレイなのに。私隠さない方が好きです!」
「あっはっは。マリーは素直でいいな。ただ、この触媒の色ってのが相手に知られるとちょっと厄介なことになる。だから隠してるんだ。相手ってのはまぁ、簡単に言えば敵だな」
「あ! もしかして、色で得意な属性がバレちゃうからですか!? 私のは青だから……あれ? 青って水属性ですよね?」
しまった。
すっかり忘れてたが、マリーにはまだ自分が何が得意属性か教えないって話だったのに。
まぁ、知られてしまったものは仕方ない……後で来るはずのバーバラにとりあえず謝っておくか。
「なんで黙ってるんですか……この杖を作ったのはノーランドさんなんですから、当然知ってたんですよね?」
「まぁ、その、なんだ。実はマリーは火属性が一番苦手で、水属性が一番得意……だと俺は思ったんだがな」
「え!? 私の得意属性って火属性じゃなかったんですか!?」
「マリーに素直に得意属性を教えると、すぐにそればかり使おうとするだろうから。というバーバラからの説明があってな」
「そんな!? それに得意属性を練習しようとするのは、別におかしな話ではないのでは?」
確かにマリーの言うことには一理ある。
一理あるが、マリーに関して言えば、そうではないから難しい。
「マリーは、まぁ端的に言うと、まだ子供だ」
「なんですか急に! 騙されませんからね!?」
「さっきの
「というと?」
「マリーが威力をコントールできないまま、得意属性の水魔法を、水属性の増幅を主として作ったその杖で放てば」
「放てば?」
「町に水害が起きる」
「そんな!?」
ということで、マリーの母親バーバラと話し合って、しばらくの間は得意属性を偽ることになったんだが。
「ということで、知ってしまった以上は仕方ないが、バーバラが良いというまでは、水魔法禁止だ」
「もし使ったら?」
「そこに抜かりはない」
「もしかして?」
「ああ。ぶっちゃけ、マリーの杖は今、
「ああぁ!! なんてこと!!」
その場で膝から崩れ落ち、右手に持つ杖を恨めしそうに見つめるマリー。
これも教育の一環ってやつなんだろうなぁ。
と、子供のいない俺は勝手に納得した。
「それはそうと、杖作りの続きをしたいんだが、初めていいか?」
「あ! そうでした! お願いします!」
「相変わらず立ち直りが早いな? 得意魔法を偽られてたのはもういいのか?」
「いいえ! それについてはお母さんに文句を言ってやります! そして使用許可をすぐにでも!!」
マリーは握り拳を作って何やら強い眼差しを中空に向ける。
あのバーバラがそう簡単に自分で決めたルールを変えるとは思えないが、無事に許可を取れたら、杖職人としてすぐにでも使える様にはしてやろう。
「そうそう。話の途中だったな。相手に得意属性を知られるってのは、色々と対策を練られやすいという点で、不利になる。だからばれないように隠す。ってのがほとんどの杖でやってることだな」
「なるほど!」
「ひとまず今回は火属性特化の杖だから、赤の輝石を嵌める」
石を杖に嵌めるといっても、ただ付ければいい訳じゃない。
すでに杖の主材の中には魔力の道筋である芯が通っている。
この芯から流れてくる魔力を効率よく受け取れるように、石のスイートスポットと呼ばれる位置に芯の先端を当てるのがコツだ。
全く同じ石がないのと同じで、スイートスポットも石によって違う。
それがどこなのかを見極めるのも、優秀な杖職人の技能の一つらしい。
「よし! これで、杖としての最低限は完成だ。どうだ? 意外と簡単だったろう?」
「そうですね! でも、簡単そうに見えるのはノーランドさんが凄いからなんですよね?」
「あっはっは。それはお世辞か? まぁ悪い気持ちにはならないな。ただ、杖作りはここからが一番大変なんだ」
「石を隠すところですか?」
「いや、微調整をしていくんだ。このままだと、いわゆる火属性が得意な人のための杖な
「だけ、ですか?」
「そう。ここから誰が使うか、どんな魔法をよく使うかなんてのに合わせて、微調整していくんだ」
マリーは自分の杖をまじまじと見る。
「私の杖もその微調整をしてあるんですか?」
「うん? ああ、マリーのはやってはいるが、少しだけだな。マリーはまだ成長段階だから、変な癖が付かないように、杖の調整は必要最低限の方が逆にいいんだ」
「ということは、魔法をどんどん覚えていけばその内微調整が必要に?」
「もちろんだ。その時はぜひ我がノーランド杖店をお願いするよ。というか、その杖の微調整は俺しか出来ないだろうな」
「はい! もちろんです! 頑張らないとっ!」
なんだか異常なやる気を感じるが、最強の魔術師を目指すって言ってるんだからそのくらいがちょうどいいか。
さて、そろそろ……
「ということで、杖作りは今日はここまでだ。もういい時間だし、そろそろ家に帰りな」
「え!? あ! ほんとだ! ノーランドさん、今日はありがとうございました! とっても楽しかったです!!」
「そう言ってもらえるとこっちも嬉しいよ。また、いつでもおいで」
「え!? いいんですか!? はい! また来ます!! おやすみなさい!!」
元気に杖を持った手を大きく振ったまま、笑顔でマリーは返っていく。
それを見送った後、今日作った杖をどかし、作業台を空ける。
これから来る
辺境暮らしの杖職人 黄舞@9/5新作発売 @koubu
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