第52話:先の分かる話
俺の話を聞いてくれる筈だった帰り道は、ろくに発言も出来ないまま終わった。
要は俺に悩む時間はないということだった。今更小手先も通用しないと。
何にも解決してねぇと思ったが、でも田川の言うことはもっともだった。
だって相手は告白を決めているのだ。今更俺が何か仕掛けたとしても、それはもう遅い。
かと言って、傍観者ではいたくない。となれば、俺が『頑張る』のは告白しかないだろう。
恋というものに種類があるかは分からないけど、過去の自分の思いと今の瑠奈への思いは、あまりにも違った。同じ『好きな人』の筈なのに、抱く感情は初めてのものだった。
瑠奈が誰かを思うなんて考えたくもない。
誰にも触れさせたくない。
瑠奈が俺以外の男の隣にいる姿なんて、想像しただけで吐き気がした。
好きって気持ちはこんなに痛いもんなのかな。
昔クラスの女子が読んでた少女漫画の主人公は、『好きな人がいるだけで楽しい』みたいなことほざいてたと思うんだけど。
こんなドロッとした嫌な気持ちあんの?
凄く、苦しい。
♢♢♢
「小柴、いるよ」
昼休み、廊下から校庭を見ていると田川が肘で突いてきた。いいよそんな報告。言われなくとも既に見つけているのだから。
「おーっ、はやち! わっち!」
「千早くーん!」
眼下で手を振るのは二人いるのに、俺の目は瑠奈にしか向けられない。山本さんが嫌なわけじゃないぞ、目が勝手に瑠奈だけを見つめてしまうんだ。
ひらりと小さく手を振り返すと、瑠奈はぶんぶんと手を振った。
あぁ、その笑顔好きだな。そう思うと口角があがるのに、でも心臓がきゅうっと掴まれたみたいに少しだけ苦しい。だけどこの苦しみは嫌じゃない。
「小柴だけだったね」
「へ?」
「水城さんが呼んだの」
「……」
そんなこと言うなよ、ニヤけるだろ。
拳で口元を隠せばすぐさま田川は「キモ」と言ってきたのでふくらはぎに軽く蹴りを入れた。
「あ、キノコ」
「え?」
「今瑠奈の隣に来た奴」
「あぁ、頭ね」
蹴り返されて更にもう一発入れた時だった。瑠奈の隣に男が現れた。それはいつぞやのキノコ。一緒に日直だったっていう……なんだっけ。
「アイツ、瑠奈と仲いいの?」
「え、知らないよ」
そりゃそうか。いかんな、田川は何でも知っている気がしていた。
窓枠に頬杖をついて眺めても瑠奈はもうこちらを見ていない。キノコが何か話しかけてそれに応じている。
「アイツさぁ、瑠奈のこと好きだと思う」
「へぇ、そういうのは分かるんだ?」
若干、嫌味を言われた。が、それについては何も返せないので流しておく。
「分かり易いじゃん」
「まぁ確かに。顔は緩んでるね」
「……ちょっとくっつきすぎだよな」
「そう? 適切な距離を取っているように見えるけど」
「どこが。隙あらば触るぞ、アイツ」
そりゃ今はどこにも触れていない。でも前科がある。アイツはふら~と瑠奈の頭に手を伸ばしたことがあるのだ。
同時に自分のことを思い出した。……俺あん時むかついてたな。もしかして俺は随分前から瑠奈が好きだったのだろうか。
「あ、次移動じゃなかったっけ」
「……」
「ほら小柴、行くよ」
「……」
あぁ、何で俺は隣のクラスなんだろう。
同じクラスならもっと、理由もなく一緒にいられるだろうに。
後ろ髪を引かれる思いなんてのは大仰な言い方かもしれないが、そこから離れると教室へ戻った。
教科書を脇に抱えるとブレザーのポケットから振動を感じてスマホを取り出す。
新着メッセージを表示させれば、それは瑠奈からだった。『今日、一緒に帰れる?』との文字に俺の顔がニヤけたのは言うまでもない。
だけど誘われる理由はすぐに行き着いて、あの話をされるのかと思うと親指がなかなか動いてくれなかった。
♢♢
靴箱で待ち合わせをした。指定したのは俺だ。
麗華が日直なのだ、アイツが残っている教室で落ち合うのは少々嫌な気分がした。気にし過ぎなのかもしれないけどさ。
先に待っていた俺の元に駆け寄ってきた笑顔は昼休みと同じで、俺の心臓はいちいち反応する。
「お待たせしましたぁ」
「いえいえ」
「なんか久しぶりな気しない? ちょっとドキドキするー」
こうして向き合うのはいつぶりだろう。最近は挨拶ばかりだった。
だから俺は少々緊張しているし、浮かれてもいた。来る前にトイレに寄って髪をチェックするという気持ち悪い行動をとったのもそのせいだ。
ちょっとドキドキなんてもんではないけれど、瑠奈も同じかよと思うと嬉しかった。でもそんなのを素直に言えるわけもない。
昇降口を並んで出て正門へ向かう途中で瑠奈の鞄にぶら下がってるものが見えた。それは見覚えのある、あのくまだった。よぅ、久しぶり。
もうお分かりだとは思うが俺の顔には笑みが生まれている。
どんだけニヤければ俺の口角は落ち着いてくれるのか。田川じゃないけどまじで「キモ」だよ、俺。
「すっかり冬だねぇ」
「さみぃよな」
天候の話題というのは特に話が思い浮かばない時や、何かタイミングを窺う時にするものではないかと俺は思っている。
この場合、多分後者だろう。
下校する生徒にどんどんと先を抜かれ、そばに誰もいなくなった時、瑠奈は切り出してきた。
「言うのが遅くなっちゃったんだけど」
遂に言われる。
「お母さん、再婚決まったんだ」
「……。おー、良かったな」
間が空いてしまったのは別に再婚を喜んでないわけじゃない。
この話題の終着点が分かっているからだ。
期間限定フィアンセ~出会って5分でギャルからプロポーズ!?しかも幼馴染の距離感もバグってきてる~ なかむらみず @shiratamaaams
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