第9話 なんで俺の貯金はたまらないんだ!


「メディシ、どうして通信水晶に対する故意的破壊を通報しなかったんだ。」


 上司のリョウヤクが苦虫をかんだような顔をして問いかける。


「通報しなくても他の市民からの通報があったんじゃないですか。」


「それとこれとは別だろうが!お前が通報しなきゃならん!」


「では今からします。」


「もうトキシカくんがしたわ、礼を言うんだな。」


「はい……。」


「最近のお前は自暴自棄が過ぎるぞ!どうした!休むか!」


「すみません、態度を改めます。」


「やすんでいいんだぞ、お前は記憶喪失で」


「お気遣いありがとうございます、すみませんでした。」


 リョウヤクが言葉に詰まると一礼して自分のデスクに戻った。


 デスクには"病気ケガ等の事由説明書"や"通信水晶破壊行為の発見時に行うリスト"が散乱していた。


「トキシカ、もしかしてこの書類関係全部終わってたりするの?」


「当然です、メディシ先輩のしりぬぐいは後輩としての義務ですから。」


 そう憎まれ口が帰ってきて一安心した。


「ごめん、ありがとう。」


「いえ、先輩はケガを負って混乱していましたから。」


 そんな会話をしていると目の前が急に紙で覆われた。


「うわっなんだよ。」


 そういってはねのけるとホスピが覗き込んでいた。


「これ、新しくできた水族館のチケット。」


「へぇ、よく予約取れたな。」


「そーなんだけど、俺と彼女がさー予定合わなくて。」


「それは残念だったな。払い戻しできないのか?」


「いやさーそれがたまたまお前とトキシカちゃんの休暇日なんだよなー。」


「へぇ。」


「ああ駄目だわこいつ、トキシカちゃん明後日暇だよね。はいチケットあげる。」


「はい。ひまです。先輩もひまだっていってました。ありがとうございます。」


「俺は明後日は家の掃除をするから俺の分は別の人間にチケット譲れよ。」


 そういうと俺はホスピに引きずられて外に出された。


「お前さ、トキシカちゃんをねぎらうために水族館とか一緒に行こうって思わないのかよ、あのさぁ。」


 ホスピの狙いをようやく理解してからこういった。


「でもセクハラになっちゃうだろ。」


「今回はセクハラには値しないと思います。」


 驚いて目線をやるとトキシカがチケットを握りしめていた。


「メディシ先輩はだいぶ疲れているようなので水族館に一緒に行きましょう。」


「あ、うん。わかった。」


 ホスピに軽い腹パンをされて「ちゃんとエスコートしろよ」と耳打ちされてやっぱり休日勤務じゃないかという気持ちを押し殺した。


――


 そして水族館に行く当日、待ち合わせの噴水広場に向かっていた。


「一時間前行動……何もすることないな。」


 すると背後から袖を引かれて振り向くとトキシカが居た。


「メディシ先輩偶然ですね。私も一時間前行動です。」


 そういうとピョンピョンジャンプを始めた。


「そっか、早めに馬車に乗れるな。」


――


 新規に開店した水族館だけあって人が込み合っている。俺はこういう場所が昔から苦手だ。


「メディシ先輩、顔色が悪いですけど深海生物初めてでしたか。」


 そう顔を覗きこんでくるトキシカをよそに「風に合ってくるから待っててくれ」と言ってお土産コーナーへ速足で向かう。


「トキシカはクラーケンが好きだって言ってたからぬいぐるみ……銀貨7枚!?うそだろ……職場へのお土産も買うと、俺の貯金……いつになったらたまるんだ。」


「メディシ先輩のセンスは悪いです。ぬいぐるみはいりません。」


 驚いて後ろを振り向くとトキシカがついてきていた。


「え、いいの?ぬいぐるみ……ほしくないんだ。」


「はい。こどもじゃないのでほしくありません。」


 そうきっぱりと言い放つと俺の腕を引っ張って歩かせようとする。


「メディシ先輩はお疲れですから私がお勧めの癒しを紹介します。クラーケンの占いです。あたるんです。行きましょう。」


「占うって何を……。」


「決まってるじゃないですか、未来です。」


 俺は腕を引かれるまま、未来に身をゆだねるのもありかな、と思いながら足を進めた。

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魔法?魔術?俺たちのおかげだな。 梅本らく @umemoto_raku

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