第3話 観覧車を目指して
「うそ……」
地図はびりびりに敗れ、何もわからなかった。
人に破られたのか、風雨に晒されて朽ちたのか……わからないが、ともかく遊園地の出口はどこかわからないままということだ。
「この後ろが入口ってことは、対岸が出口なのかな……?でも、遊園地って出口と入口、別れてたっけ……?」
そんなことを思いながら、入口を見るとわかりやすく“入口”とアーチに書かれていた。ということはきっと、出口もわかりやすく書いているはず。
これだけ大きいなら、高台から見ればきっと出口を見つけられるだろう。
遊園地の高台といえば、観覧車だろう。ここからも、ゆっくりと回る観覧車が見えていた。
「……よしっ」
相変わらず視線を感じるが、気にしないふりをして観覧車の方へと歩みを進める。
たまに遠くから『……ちゃん、どこ?』と聞こえた時は草陰や看板の後ろなどに隠れてなんとかやり過ごした。
何故かあのよくわからない存在はわたしの名前を呼ばない。もしかしたら、名前を知らないのかもしれない。
たくさんの楽しそうな遊具(というのかな?)が遊ぼう、遊ぼうと誘っているように魅力的にわたしの目に写る。それをひとつひとつ我慢するのはちょっと堪えたが、何よりも早くお母さんに会いたかったので我慢した。
自分がどこを通ったかわかるようにするため、遊具の入口にある名簿に“さつき”と名前を書いていく。
観覧車までの道を半分ほど進んだ辺りだろうか。
そこにあったメリーゴーランドがあまりにも楽しそうで、ちょっとくらい遊んでいこうかな?と気持ちが揺らぐ。
名前を書いている間も、なんだかだんだんと楽しそうな音楽も聞こえてくるようだった。
ごくり、と生唾をのむ。
「ちょっとくらい……」
そろり、と足を差し出そうとすると後ろから「さつきちゃん」と呼ばれた。
びっくりして振り向くも、誰もいない。
きょろきょろと周りを見渡しても、やはり人はいなかった。名前を呼ばれたのははじめてだったので、ドキドキと心臓が脈打つ。
気付けば遊びたい気持ちはロウソクの火が消されるようにしぼんでいて、忘れていたお母さんに会いたい気持ちがむくむくと湧き上がってきた。
そんなことを考えていると、また♪ ピーンポーンパーンポーンと放送が始まる音楽が聞こえた。
『ザザ……ザザザ……現在、観覧車付近に×××××が現れ……閉鎖中です。そのため、しばらく××たちの数が大幅に増加します。お越しの際はご注意を……ザザ……尚、お越しの際にはフリーパスをご入手の上、お越しください……ザザ……』
相変わらず雑音まみれ放送だったが、よくわからないものが観覧車辺りにいることはわかった。そして今からあの黒いのも増えるらしいことも。
思えば、確かになんだか見かける回数が増えた気がする。そして、やることが増えた。
「フリーパス……?」
どんなものかも分からないが、観覧車へ乗るためにはそれがいるらしい。
途中の道すがら、いくつか売店があった気がするので、いったん売店に戻るのもありかもしれない。
そんなことを考え、踵を返すとひぃ、と短い悲鳴が口から漏れた。
「引き返すこと、あたわずって……ここまで……?」
いつの間にか、通ってきた道は多くのもやに埋め尽くされていた。
ここから先に売店があることを期待するしか無さそうだ。
「……大丈夫、だよね……」
再び前へと向き直り、わたしは走り出す。
心から溢れそうになる恐怖を押しつぶし、自分を勇気づけるためにお母さん、お母さん、と心の中で叫びながらわたしは先へと急ぐのだった。
命をおう @Ren822
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