第2話 右の道へ

私は腕を引かれる気持ちのまま、右へと歩みを進める。


どんどんと進んでいくうちに、何故か足が軽くなっていく。そして、暗闇だった世界が少しずつ道脇に背の高い草が生えていく。

何故か、周りのもの全てに興味がそそられるがまずは行き着くところまで行こう、と決めて足取り軽やかにわたしは進んで行った。


「わぁ……!」


行き着いた先は人の気配のしない遊園地だった。

そっと中を覗いてみるが、やはり人はいないようだった。しかし、黒っぽいもやが行ったり来たりしている。


「なんだか……怖い……」

お父さんと、お母さんはどこだろう?


そんなことを考えていると、♪ ピーンポーンパーンポーン、と軽やかな音楽とともに呼び出しの放送がかかった。


『ザザ……からお越しの……ザザザ……至急、遊園地出口までお越しください……ザザ……お母様がお待ちです……尚、くれぐれも……ザザ……胸にあるネームプレートを……無くさないよう……お気をつけください……ザザ……園内のものは誰も……ザザ……ついて行かないよう……ザザ……』


雑音まみれの放送はブツン、とコンセントを引っこ抜いたように急に途切れてしまった。胸元を見てみると、放送で言っていたらしきネームプレートがかかっていた。


「えっと……さつき……?」


わたしの名前は、さつき……らしい。

無くさないように、と言っていたので服の中にしまっていると、なんだか視線を感じた。しまい終わって周りを見ると、黒いもやもやがこちらを見ている気がした。

居心地が悪く、わたしはサッと走って目の前にあったトイレに飛び込んで鍵をかけた。


「すー……はー……」


わたしは深呼吸して、放送をもう一度思い出す。

1つ、ネームプレートを無くさない。

2つ、園内の人は呼びに行かない。

3つ、出口でお母さんが待っている。


大事なのはこの3つだ。

とりあえず出口を探すために地図を探そう……と、思っているとヒタヒタ、と足音が聞こえた。何となしに息を潜めていると、コンコン、とノックが聞こえた。


『……ちゃん、ここかな?』


……園内のものは、探しに行かない。

じゃあ、この人は誰なんだろう。


コンコン、コンコン。ノックが近づいてくる。

息が漏れないように、口元を手で押さえるとどくん、どくんと大きな自分の心臓の音が聞こえてくる。


あの人にばれたら……ぎゅっ、と瞼を固く閉じる。見つかってはいけない気がした。ノックが近づくにつれ、なんだか寒気もする。


耐えて、耐えて……どれくらいたったかわからないけれど、気付いたら謎の人はいなくなっていた。

ほっ、と息をついてトイレの扉から外を覗く。人がいないのを確認し、そろそろとトイレの入口へと近付き、そして外を伺う。

あれだけうろうろしていたもやは1つ残らず消えていた。


遊園地の地図はだいたい入口にある気がする。

見つからないように、隠れ場所を探しながら入口に戻ろう。


「……早く会いたいな、お母さん……」


お母さんの顔すら思い出せないが、優しく撫でてくれたことはある気がする。そして、柔らかい声も覚えている気がする。


その記憶を励みに、わたしは遊園地の入口へと走っていった。

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