健気で可愛そうな少女が段々と自我を取り戻し癒されていきます。そして……

 母親から見放された少女が家を追い出されたところを、主人公が拾う話です。

 凄惨な過去が窺える少女の気持ちを慮って、主人公は少女に丁寧に寄り添います。慎重に慎重を重ねており、これ以上無理だというくらい主人公はサポートするんですが、主人公が思う以上に少女が利発的で、自罰的で、精神を病んでいて、主人公の気持ちが中々うまく伝わりません。主人公視点、少女の視点ですれ違うその様は見ていてもどかしくなります。

 ただすれ違いながらも少女が主人公を信頼しはじめ、恋慕に変わっていくという変容は、思わず拍手してしまいたくなります。そして少女は主人公の邪魔にならないよう加減しながら、アプローチしはじめます。少女は自分には100円の価値もない、いやむしろ存在することが邪魔だと思っており、少女の行動は健気でとても応援したくなるものばかりです。

 ここまで少女が捻じれてしまった経緯や、ネグレクトなのになぜこんなに賢いのかもすでに作中で判明しており、作者、エテンジオール氏の巧妙さが窺えます。

 ぜひともすれ違い特有のもどかしさ、そして少女の成長と、2人の信頼関係が育まれていく様をお楽しみください。

 ……上記だけでも十二分に面白く、万人受けする素晴らしい小説なのですが、実は、これらは序章にすぎません。中盤以降、とんでもない展開が待ち受けており、読者は間違いなく驚愕します。読むのをやめてしまう人も絶対にいます。
 ただ、私は、この小説を唯一無二たらしめているこの要素に、虜になりました。ぜひネタバレなしで、読者に体験してほしいです。沼に引きずり込まれる方も出てくるでしょう。

 癖が強く、合う人にはとことん刺さる、カクヨム屈指の作品となっております。ぜひお読みいただければ幸いです。

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