第二話 紅華黒纏

 コンクリート特有のひんやりとした硬質の感触が、早く起き上がれと俺を急かしている様に感じた。


「んしょ…………」


 上半身を起こして手のひらを地面につき、両足で立ち上がろうとするも、バランスを崩し後ろにコテンと倒れてしまう。


「うがっ!」


 視界が体につられて上向きになり、光を反射してきらめく、紅の糸が何十何百と視界のふちで舞い広がった。


 いや待てよと。


 これは糸ではない、毛だ、それも髪の毛か?


 であれば、この髪の毛は一体誰の……。


 寝転んだまま、なんとなしに自分の髪の毛を軽く掴み、すぅーっと自分の目の前に持ってくる。


 うん、綺麗な紅色。


 俺はガバッと体を起こして叫んだ。


「俺の髪の毛だぁあああああ!!!! って、なんだこの声! 本当に俺の声なのか? すっげぇロリロリしいな!」


 元々そこまで男らしくも無かった俺の声ではあったが、まるでエロなゲーで聞こえてくる様な、見事なまでのロリボイスへと変貌へんぼうしていた。


 しかし、エロなゲーの声優さんには失礼だが、正直ロリ度の格が違う。


 この声で「おなかへったお!」などと言えば、世界中のロリコンどもがこぞってオムライスを作り始め、海を越え山を越え次元すらも超えて届けに来てしまうほどの、そんな破壊力を持つ声だと確信できる。


 そして、視界の端に映り込む、光に反射してキラキラと煌く紅の長髪。


 たおやかでどこか凛としており、身体の横幅を超えてしまうほどふわりと広がっていて、かつ形が崩れない。

 

 いつか浦治うらぢが、『ロリの中でも爆毛量ふわふわ長髪はロリ四天王の一人だ』と言っていたが、ついに俺も四天王になってしまったのかと思うと感慨深いものがある。


 極め付けは、触れれば折れてしまいそうで、立ち上がれるか心配になるほどほっそりとした手足。


 血色の良い肌はシルクの様に滑らかであり、指で肌を突いてみればしっかりと肉がついていて、弾力がある。


 胸は言わずもがな、手を当てずとも見ればわかり、皆無と言っていいだろう。


 俺的には今のところは完璧なロリだ。


 あとは顔、この部屋に鏡は無く、ツンツン系なのか、あまあま系なのか、一体どういう系の顔になるのかが気になるところだが……。


「そういえば浦治のやつはどこに行ったんだ?」


 しばらく自分に見惚れていて気づかなかったが、浦治の気配が無い。


 街に出ると真っ先にロリを視姦しかんしだす、危ないロリコン筆頭の浦治が全裸のロリに寄ってこないとはどういうわけか……。


 どうにか重心を掴んで立ち上がり、周りを見渡すと、すぐに浦治は見つかった。


 超ロリ部屋の入り口へと続く梯子に寄りかかる形で座り込み、血だらけになってそのままピクリとも動かない浦治を。


「う、浦治! どうした、何かに襲われたのか?」


 俺は浦治のすぐそばまで駆け寄るも、すぐにある事実に気づいてしまう。


「これは……鼻血なのか…………⁈」


 床に池を作っている血液の出所を見ると、それは両の鼻の穴。


 体の大きさほどもある血溜まりは全て鼻血で出来ており、浦治の顔をよく見るとこれ以上ないほどの清々しい微笑を浮かべている。


 推測するに、浦治はこの部屋に入ってすぐ、全裸のロリ(俺)が視界に入り、鼻血を吹き出しながら梯子から転落。


 また、ショックにより気絶し、一見すると殺人現場の様なモノが出来上がったと言う事だ。


 一瞬、俺の追っ手に居場所がバレて、浦治がやられてしまったのかもしれないと、罪悪感を感じた俺が馬鹿みたいだ。


「はぁ……」


 浦治が無事で心底安心したのと、アホヅラをさらす浦治に呆れきったので、俺は軽くため息をつく。


 とりあえずだ、また全裸を見られて鼻血を出して倒れられても困るので、俺が着られる服を探す事にした。


「昔は確かこの辺に……お、昔のままか、良かった良かった」


 俺はロリボイスを撒き散らしながら、もう一階分下、超ロリ部屋の下にある、極ロリ部屋への通路を開くボタンを探し出す事に成功した。


 ボタンを押すと開かれる更なる魔境への入り口、超ロリ部屋が【ロリカ】を稼働するための作業部屋だとすれば、極ロリ部屋はロリ部屋を超える趣味全開の空間。


 照明をつけると現れたのは、あらゆるロリサイズのマネキン、特に30センチ前後の人形サイズのものが無数に安置されており、その全てが、違ったジャンルの服を着こなしている。


 その中から自分と背丈が同じくらいのマネキンを探し出すと、マネキンをゆっくり倒して服を剥ぐ。


 結構リアルなマネキンなので、側から見ると全裸のロリが服を着たロリの服を剥ぐという、少し犯罪チックな事になっているが、あまり深く考えない事にした。


「うおっ、ご丁寧にパンツまで……」


 小さい頃にここに来た時は可愛い人形が沢山あるなーくらいで特に何も思わなかったが、浦治は本当にヤバい奴だと、心の底から再認識しながら、剥ぎ取った服を着る。


 ちなみに黒パンツだった。


 パンツの前後が分からなかったり、頭を突っ込む場所を間違ったりと、なかなか苦労したが、よく妹が嵩張る様な服を着るのを手伝っていた経験が幸いして、なんとか服を着る事に成功。


「でけたー」


 早速姿を見てみようと、極ロリ部屋の奥へと向かい、全面鏡張りの壁で自分の姿を確認した。


「うん、かわいい……。かわいいじゃん!」


 まずは気になっていた顔。


 目は吊り目気味だがぱっちりとしており、長い眉毛も相まって少し大人な雰囲気だ。


 鼻筋はスッと通って主張が激しい訳でもないが、横から見るとしっかり高さがある。


 唇は薄い桜色で、派手な髪色を緩和する役割を上手くこなし、口本体は小じんまりとしている。


 こう見ると顔は全体的に、他の部位と比べて少し大人びている印象を感じた。


 着ている服はというと、黒を貴重とした軍服ロリータで、金属製の装飾も多めでカッチリ目な雰囲気がある。


 また、紅い髪が無彩色の黒によって生え、吊り目、腰に携えた鞭、ヒールのある靴も相まって、強めのツンツン感を醸し出していた。


「おう、おうおう」


 幼女になった事で興奮している俺は、鏡の前でポーズを決めてみた。


 手櫛によって髪をかき揚げ、斜め下を見下す様にしてポーズをとる。


「ひれ伏せ……ロリコンの分際でこちらを見るな。蹴り殺すぞ……」


 数秒経った後、急に自分のやった事が恥ずかしくなり「ふへっ、へっへへっ」とロリボイスだからこそ許される笑い声を上げた。


 服も着たので梯子を登って超ロリ部屋に戻り、未だ気絶している浦治を起こすために浦治の上に乗って、頬をペチペチと叩く。


「おい、浦治。起きろ、お前の大好きなロリが、お前の顔をペチペチしてるぞ〜」


 浦治はその言葉に反応し瞬間的に覚醒した。


「うおっ、起きたか。大丈夫か浦治」


 浦治は数秒呆けた後、目をうるめて号泣し出した。


「ど、どどどうした⁈ 転んだ時にどっか怪我したのか? おい、なんか言えよ!」


「……が」


「なんだ⁈」


「ロリが……俺に馬乗りになっている………!」


 その瞬間俺は真顔になり、心配した気持ちをドブ川へと投げ捨てた。


 そのままスッと立ち上がると、ヒール履いた足で、鎧の上からゲシゲシと浦治を蹴る。


「人が……! 心配……! してんのに……!」


「……ロリに……足蹴にされている……!」


「…………!」


 俺は顔を歪めると、無言で浦治に対する蹴りを止める。


 それでも浦治は泣くのをやめない。


「ロリが……俺の幼馴染……!」


 とうとう俺は呆れを通り越してもはや感情が抜け落ち、重力に身を任せて膝から床に崩れ落ちた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

紅のロリは反抗期 サンピングチルド @thanpingchird

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ