紅のロリは反抗期

サンピングチルド

第一話 罪人幼化

 俺が足を踏み入れた部屋は足元が見えないほど薄暗く、部屋の中央に浮かぶ色とりどりの立体映像ホログラムの光だけが、部屋の中を騒がしく照らしていた。


 その光を遮る影、立体映像に向かってせわしくなく六本の手を振りかざす、一つの影がある。


 その影は俺がある程度の距離まで近づくと手を動かすのをめ、椅子をゆっくりと回転させてこちらを向いた。


「そろそろ来るんじゃ無いかと思ってたよ大間是おおまぜ


 椅子の背もたれが影になることで姿は見えないが、その声色から、そこにいるのが俺の幼馴染だというのが分かる。


「しばらくぶりだな浦治うらぢ。それにしても良く俺だってわかったな。幼馴染の勘ってやつか?」


「ここの場所とパスワードを知ってるやつなんで幼馴染のお前とあと一人しかいねぇよ。それに……極め付けは


 浦治はくるりと一回転すると、後ろにあった立体映像ホログラムの一つを手元に呼び寄せて拡大。


 音量を最大にして俺へ見せつける。


 それと同時に、立体映像ホログラムによって浦治の顔が照らされ、黒髪丸眼鏡の痩せ男が現れた。


「お前、嘘だよな?」


 浦治は手の上に浮かぶニュース映像を見せつけながら、真剣な表情で俺に真偽を問いた。


昨日さくじつ第一世界で起こった、未曾有の大災害。推定107億人が行方不明となったこの災害ですが、容疑者の[大間是 露市おおまぜ ろいち]氏は現在も逃走を続けている模様です……』


 それに対し、俺ははっきりと答えた。


「真っ赤な嘘だ。濡れぎぬでしか無い。俺の妹にかけても良い」


「…………そうか……」


 浦治はニュース映像を消し、ゆっくりと目を閉じると、背もたれに体重を預ける。


 指を前へ軽く振り、立体映像ホログラムの一つを後ろから呼び寄せて、おもむろにその中に指を突っ込んだ。


 それに同期して、途端に照らされる部屋の中。


 そこで初めて、床や天井に敷き詰められた無数の西洋人形が銃口を俺に向けているのがはっきりと見えた。


 そしてそれらが、規律をて列をなし、壁にある小さな扉へ入っていく姿も。


「いやぁーよかったよかった。あの生真面目な幼馴染が狂っちまったかと思ってよ。俺が何とかするしかないかもって、マジで焦ったんだぜ」


 部屋が明るくなることで、ようやく浦治の全貌が明らかとなった。


 黒髪丸眼鏡の痩せ男。


 だが首から下のシルエットは太く、まるで宇宙飛行士の様な鎧を身につけ、機械式の腕四本を合わせて六本の腕を持つ。


 それが、電脳世界のどんな場所にでも入り込み、誰にも気づかれずに情報を抜き出すことが出来る、超天才ハッカー『妖精ロリコン』の正体であった。


「狂うわけねぇだろ馬鹿が。いや、でも狂ったっていうのもあながち間違いじゃあ無いかもな」


 その言葉に反応した浦治は腕を横に振って西洋人形の格納を中断し、即座に銃口を俺へ向ける。


「待て待て、そういう意味じゃ無いって。俺ももういい子ちゃんを卒業しようかなって話だ」


 俺は今まで、皆の為、家族の為、真面目に変に目立つ事もなく生きてきたつもりだ。


 地位の高い両親と優秀な妹のために、優秀な兄になれる様に常に気を張り、家の評判を落とさない様に努力してきた。


 別にこれが変な事だとも思わなかったし、これからもそれが続くのだと考えていた。


 しかしが起きた。


 両親が死に、妹は意識不明、さらには家族をメチャクチャにした未曾有の災害の元凶として、公務機関から追われる始末。


 それまで頑張ってきた事が無に化して……。


 頑張ってきた理由が無くなって。


 もう好きに生きてみても良いんじゃないかなと。


「そりゃあいいな。いいぜ、手伝ってやるよ。ここに来たのも理由があるんだろ?」


「話が早くて助かるな。まずは少しの間匿って欲しいってのが一つ目」


「それくらいなら余裕だ。後は何だ?」


「【ロリカ】を使わせてくれ」


 その単語を聞いた途端、浦治は椅子を高速稼働させて俺に肉薄し、目を爛々と輝かせて、前のめりで聞いてきた。


「本当か? 本当ならそれは願っても無いが、前に進めた時は相当嫌がってたじゃないか……」


「……あの時はまだ気にする事が沢山あったんだよ。世間体とかな? でも本音を言うと興味はあったし、前の戸籍を捨てるのにこの上ない装置だからな」


 浦治は俺の言葉を聞くと椅子から転げ落ち、顔を歪め、涙を垂れ流しながら叫んだ。


「今まで生きててぇ……良かったぁ……! 」


 浦治は床にへたり込みながら本気嗚咽を繰り返す。


 ────なぜこの変態はこんなに喜んでいるのか。


 それは、この部屋の壁に貼られているものや、棚の中に飾られている物を見て貰えば誰にでも理解してもらう事が可能だろう。


 壁に貼られたロリポスターにロリグッズ。


 棚に飾られたロリフィギュアやロリバッジ。


 なんなら部屋の中央で展開された立体映像ホログラム十一つのうち七つはロリの立体映像である。

 

 お察しの通り、こいつは重度のロリコン、いや、それどころでは無く、ロリコンすぎて神をも恐れぬ蛮行を成し遂げた、究極のロリコン。


 高校時代の同級生の男共からは『ロリコンの神』呼ばわりされて、一部の層から崇められてさえいる超絶変人だ。


 そして、こいつが開発した、神をも恐れぬ究極装置【ロリカ】は、魂の形を変質させて、肉体を幼女に変化させる。


 つまり、『ロリ化』させるという恐ろしい装置である。


「いやぁー、完成したはいいけど適合者が全然いなくてなぁ。今だに適合者は大間是しかいないんだよ……」


 昔、おふざけで【ロリカ】の適合検査をしたところ、なんと俺は1500%という馬鹿げた記録を叩き出し、以来、浦治にやってくれと付きまとわりつかれてうるさかったのだ。


「確か浦治も適合者だよな? お前はロリにならないのかよ」


「俺は愛でる専門だ。ロリコンがロリになると自我が崩壊して爆散して、最終的にはイデが暴走して全宇宙の生物が死滅する」


「どういう理屈だよ」


 俺と浦治は軽口を叩きながら、先ほどまでいたロリ部屋の下にある隠し部屋、超ロリ部屋へと移動し、【ロリカ】の起動準備を進めていた。


 既に【ロリカ】に繋がれ、されるがままになっている俺と、ウッキウキで準備をする浦治。


 コイツはロリ画像を追い求めて、電脳世界のどんな場所でも入り込める様になった超天才というか煩悩ぼんのう権化ごんげ


 とはいえ、魂の形を変えるという、神にも不可能な超技術が成功するのかはやはり心配で、気を紛らわすため、俺は浦治に話しかける。


「そういやよ。どんな幼女になるとかってわかるのか?」


「おっ、気になるか。実は【ロリカ】はな、幼女になる事は確定してるんだけど、どんな容姿になるのかまでは決められないんだよ」


「おい、初耳なんだけど。どんな姿になるのかは完全にランダムって事か?」


「そうだ。……しかし、大丈夫だ。適合率1500%とかいう馬鹿げた数値のお前なら、きっと、超絶美幼女になってくれると信じてる! 頑張れよ!」


 励ましてくれる浦治だが、顔が気持ち悪いほどニヤけているのが玉に傷だ。


 そこからはしばらく他愛のない会話が続き、とうとう浦治が最後の準備を終え、【ロリカ】を起動させる準備が完全に整った。


「よし、準備終わりだ。大間是、準備はいいな?」


「おうよ」


「行って来い! ロリの果てへ!」


 レバーを下げた時の「ガキン」という小気味いい音と共に、俺に装着された【ロリカ】が物凄い音を立て始める。


 それに反する様に俺の意識は、段々と薄れてくる。


 自分と世界の境界があやふやになって……まどろみの中…………ロリの果てへと────



 ────どれくらいの時間が経ったのか分からない。


 ぼんやりと意識を取り戻しつつある俺は、生まれたままの姿で、コンクリート打ちっぱなしの床に伏せていた。

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