願い下げ

高黄森哉

こちらから


 最近、話題のマッチングアプリ。ワイもやって見ようかな。といっても、女じゃない。女を探すなんて、下品な。出会いはもっと神聖であるべき。それに、女性は潔白でなければならない。マッチングアプリの女は、百、使用積みだろう。んな、ことじゃなくて、ワイがいま試みているのは、友人探し。

 子供の頃から、孤独だった。いじめられっ子だったのだ。不良が憎い。アイツが居なければ、ワイは幼馴染から見捨てられず、友達の輪からハブられず、頭は殴られず、成績は鳴かず飛ばずというわけにはいかず、…………。くそ。

 ワイは、アプリのガイドに沿って、ワイと気が合うような、素晴らしい人間を探し始めた。それは、飲食店の待合室でのことだった。スマホをかざすと、画面に、まるで本当に、その人がそこにいるかのように、出会い求める人間が、合成されて浮かび上がった。ワイも、あちらから、そう見えていることだろう。



 〇



 ワイは、これは外れだな、と思った。そいつは、ぶ男だった。こんな奴が、隣に居たら、女の子なんぞ、永遠に寄ってこない。そいつの顔は、皮膚病に冒されたゾウアザラシと、ゾウアザラシ学会に紹介しても、受け入れられそうな、見てくれなのだ。

 ワイは、素直に気味が悪いと感じた。ワイは、人に容姿についての、差別を受けてきたのだが、それは妥当なのかもしれない、と考えさせた。容姿差別は、正しい。ここに、認めよう。


「あの、こんにちわ」


 低く、唸るような、低音だった。文末に行くほど、その音階は下がっていった。不協和音を、人間の喉は、発せられるのだろうか。答えは yes だ。この男が証明してくれた。


「あん、ちくしょう」


 ワイは、直ぐに連絡を絶った。



 〇



 次に浮かび上がってきたのは、ギャルだった。見るからに、頭が悪そうだった。しゃべり方も甘えていて、知性がとろけている。ワイは、低能、と罵りたい気持ちを押さえて、推定売女に自己紹介を始めた。


「僕は、二十三歳の、クリエーターです」

「へー、くりえーたーなんだ。すごーい。私は、〇〇大学の、現役大学生」


 ワイは驚愕した。〇〇大学は、日本で一番の大学だったのだ。しかし、ワイは自頭では負けていない。


「僕は、実は、IQが180あるんですよ」

「へー、小学校ではかったんですか」

「いえいえ。ネットです。いやぁ、びっくりしましたね」


 ワイは、話が盛り上がりそうな予感がした。最近、あまたの悪い人間が、周りにいて、うんざりしていたのだ。ワイは、転勤で、文転させられてから、勉強の意欲を無くし、今では、Fランクの大学にいる。


「くりえーたー、とは、どんなことをされてるのですか」

「そうですね。小説の執筆をしています」

「それは、凄いですね。何万部売れましたか」

「インターネットで発表しているので」

「ははぁ」


 ワイは、この人とは、うまくやって行けそうだな、そう思った。しかし、連絡は途絶えてしまった。電波が悪かったのだろう。



 〇



 オカマ。というのは、差別的なのだろうか。しかし、オカマ、ということが、この人に向けて、ならば、それほど、問題にならない気がした。それほど、こってりとした、オカマが、ワイの前に顕現化された。


「なによ」

「オカマ、の方ですか」

「失礼じゃないかしら」


 なんだこいつ、と思った。見た目と、中身が一致していないのは、病気だ。誤解を生む方がいけない。ワイに、誤解を与えるな。


「あなた、もしかして、関西人じゃないの?」

「え? ええ。そうですよ」

「でも、プロフィールは、関西弁なのね。憧れてるんでしょ」

「いや、これは、ネットのノリで。掲示板とかによくいくんですよ」

「ふーん。あなた、紛らわしいわね。文章と、中身が一致してないわよ。文章では、あんなに男らしいのに。といっても、小物感、拭えてないわね。まあ、後知恵というやつかしら」


 それから、奇妙な沈黙が生まれた。


「まあいいわ。私、友達になってあげてもいいけど」

「こちらから、願い下げだ!」




 〇



 どいつもこいつも、糞みたいな、物件ばかりだ。だから、こんなアプリを使うんだ。程度が知れてる。くそ、くそ、くそ。根暗、病気、雌犬。くそ、くそ。デカい態度、取りやがって。現実世界で、高圧的な態度一つ、とれやしないくせに。あんな奴ら、ずっとぼっちだ! くそ、くそ。あんなのに、紛れてたまるかよ。と、そこまで、考えて、ワイはすっきりした。

 その時だった。店のベルが鳴り、三人の客が入ってきた。それは、あの三人で間違いなかった。ワイは、辱めを受けた気持ちになり、相手の短所を並べたい、気持ちがした。オカマ、売女、根暗。しかし、喉仏は命令に背いて、首を絞めた。ワイは遺伝子を憎んだ。こんな喉にした、親を憎んだ。

 団体客として、直ぐに案内される。ワイが、先に並んでたのに、という店に対する怒りと、あのゴミ共が待合に居なくて良かった、という気持ちが交差した。、のカウンター席があいたのは、それから、ニ十分が経ったときのことであった。

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願い下げ 高黄森哉 @kamikawa2001

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