第13話 最終話
「大和、優奈はどこに連れられたか、わかるか?」
まさかこんな方法を使うなんて思っても見なかった。優奈は背も低く145センチしかない。スタンガンなどを使われて気を失わされれば、簡単に連れて行くことは可能だった。
「きっとホテルに連れて行ったのじゃないか」
大和と電話中、隣を歩く人の気配があったらしい。その後、優奈の叫び声と共に倒れる音が聞こえた。スタンガンを使ったようなバチバチという独特の音だった、と言っていた。
高校生を泊めるホテルと言えば、あそこしかないけれど、俺ひとりでは入れない。しかも、どの部屋かすら分からないのだ。
唯が俺の手を握った。
「私がいれば入れるよ。号室聞き出せるかは分からないけれど、やってみよう。こんなのってないよ」
ホテル前で呼び出しボタンを押す手が止まった。もし通報されたら終わりだ。
「大丈夫、優奈ちゃんのため、がんばれ」
俺は唯に感謝した。いつの間にか俺は唯を好きになっていた。
「じゃあ、押すからね」
思い切ってボタンを押す。
「お客様どうしましたか」
年配のおばさんの声が聞こえた。ここからは確実に言わないとならない。
「僕達、友人と待ち合わせしてまして、僕たちみたいな人来ませんでしたか。呼ばれたのですが」
明らかに制服姿だ。唯の手を握りながら、次の言葉が聞こえるのを待った。唯が俺の手を握り返してくるのを感じる。
「がんばれ」
小さな声で呟いた。
「調べますね、ちょっとお待ちください」
行けるのか、いやそのまま通報と言うことも充分にある。俺の親だけでなく、唯の親も呼び出される。うちの親は笑って終わりだろうが、唯の親はどうなんだろうか。
「405号室ですね、直接向かいますか」
「はい、お願いします」
ここが甘くて良かったと心から思った。ここまで甘いラブホテルも珍しい。
唯と一緒にエレベーターで上がる。隣に大和も一緒だ。
「なんか俺、損な役回りばかりだよな」
「そんなことないと思うぜ」
何となく俺が唯とまとまれば大和と優奈というカップルが出来るかもと思っていた。それがいいか悪いかは優奈の問題だ。
唯を好きになってしまった俺が言えることではなかった。
405号室の部屋の前に立つ。これで違ったら、と思いながら扉を開けた。鍵は一つ追加で借りた。ここまでうまくいくとは思わなかった。
「なんだよ、えっ」
進の顔がそこにあった。やはりここであってたのだ。優奈は眠ったまま、ベッドに寝かされていた。少し衣服がはだけていたが、まだ無事なのは間違いなかった。何とか間に合った。
「お前、ふざけんなよ」
大和と俺で進を羽交締めにする。警察に通報をした。今後はこのホテルの利用もできなくなるだろうが、現場を押さえないと話にならない。残念そうな顔に気づいたのか、唯が耳元で囁いた。
「わたしなら、大丈夫だよ。親公認だから」
俺は顔が紅潮するとともに下腹部が元気になるのを感じた
「なあ、そういうのは俺がいない時にしてくれないか。俺も好きだったんだからさ」
「ごめんなさい」
「ごめん」
俺と唯は大和に謝った。俺の独断から始まったこの一連の事件だが、もしあの時王様ゲームで勝たなかったら、あるいはそもそもあんなことを求めなければどうなっていたのだろうか。
もしかしたら、大和とカップルになっていたことも無いわけではなかった。
十分ほど待つと警察がやってきた。優奈が起きるのを待って、状況証拠と証言を求められた。事実を淡々と述べる俺たち4人。
進は警察が来た時から現実を理解して慌て出したがもう遅い。未成年なのと、一回目の未遂だから、今後の流れによっては起訴されない可能性もあるとのことだった。
ただ、こいつの場合は余罪が多すぎる。きっと起訴されて少年院送りだ。退学は免れないだろう。
「本当、女の1人歩きはやばいわ」
「何もなくて良かったよ」
「そこは感謝してるわ」
「もう、妹さんの護衛もこれで終わりだね」
四人は帰ろうとしたが、その前に俺は唯にどうしても伝えたいことがあった。
「ちょっと唯のところに送り届けてから帰るな」
ふたりは笑顔で見送ってくれた。
「なんか、緊張しますね」
「ふたりで歩くとか数回だもんな、まだ俺たち」
家に帰る途中、俺は唯の手を握った。言わないと帰ってしまう。今日じゃなくてもいいが、今日言っておきたかった。
唯の家がすぐ近くに見えてきた時に、唯は立ち止まった。
「これから、ずっと私だけを見てくれますか」
俺がいう前に言わせてしまった。唯もこの関係をはっきりさせたかったのだ。
「唯、お前が一番好きだ」
「優奈ちゃんよりも……」
「うん、実は優奈が好きなこともあった。けど今は誰よりも唯が好きだ」
「嬉しい」
唯は俺に抱きついてきた。俺を見上げて、瞳を閉じた。
俺は唯の匂いを感じながら、初めてキスをした。軽い唇だけのキスだったが、十秒以上そのままでいた。
唇を外すと、赤く紅潮した唯の顔があった。瞳が潤んでトロンとした表情が色っぽかった。
「感じた?」
「ばかぁ、知らない……」
そのまま拗ねるように後ろを向いた。
俺が前に移動すると、唯はちょっと背伸びをして俺の耳元で囁いた。
「感じたよ、好きだから当たり前だよ」
瞳を外して、真っ赤になって俯いた。
それから唯を家に送った。唯のお母さんは唯の顔を見て、嬉しそうに俺に言った。
「ああ、なんかあったね。はははは。いいよいいよ。これからもいい女にしてくれよ」
「もう、やめてよ恥ずかしいから……」
「キスした、ねキスしたよね」
母親は唯に責め立てるようについていき、やがて唯のドアが締められる大きな音が響いた。
まあ、喧嘩するほど仲がいいと言うし。俺は帰りながら唯の唇の感触を思い出していた。
可愛かったな。
その日、俺たちの青春が始まった。
おわり
目の前の唯に伝えた。「裸になってくれませんか」その一言が四人の仲を決裂させ、やがて幼馴染の本音を引き出す 楽園 @rakuen3
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