損保業界をAIでDX!?デジタル人材の俺が損保業界のDXを目指したけど現場の反発が強くてもう限界です

ぽんこつAIくん

第1話 正しいAIは嫌いですか?

「は?誰もこんなん使ってねーよ」

やさい損保広島支店の支店長補佐である山本興毅が冷たく言い放つ。


今日は新しく導入した損保営業支援システム"教えてくん"のユーザーインタビューの日だ。教えてくんにはAIが搭載されており自然言語処理を介し、損害保険の営業マンが入力した質問に対して瞬時に適切な回答をレコメンドするシステムだ。このシステムを導入することで、保険へ加入したい顧客からの質問を営業マンが"教えてくん"に入力し、適切な回答を得ることで顧客満足度の向上や、営業効率の改善が見込まれていた。


「ほ、本当に誰一人として利用されていないんですか?"教えてくん"を使うと営業マンの皆様が顧客から受けた質問にAIが答えを探してくれるんですよ。事前の業務調査では顧客からの質問の8%は営業が正しく回答できていませんでした。ここに"教えてくん"を導入することで、大きな費用対効果が見込めるはずなんです!」

"教えてくん"の導入プロジェクトのリーダーを担当していたイノベーション推進室の檜山太郎は狼狽していた。


「あのさぁ、AIが返す回答って綺麗事なんだよ。俺たち現場の人間はさぁ、君たちのような本社の連中が考えるほど単純じゃないってこと」

山本支店長代理は剃りたてのツーブロックをなでながら得意げに言い放った。


山本の回答は檜山の予想と大きく異なっていた。


「こっ、このプロジェクトにいくら予算がかけられてると思ってるんですか?」

檜山は絞り出す。


「いくらかけたかじゃなくて、どれだけ役に立ったかじゃねーのかよ。金さえかければ何もかも上手くいくの?」


「でも当初の業務分析に協力してくれたのは山本さんじゃないですか!確かに"教えてくん"はデトロイトコンサル社の提案から開発がスタートしました。でも、このプロジェクトは損保業界に変革をもたらすとキックオフのときに山本さんがいいましたよね!」

やさい損保広島支店は"教えてくん"を全国の支店に展開する前段階としてテスト的に導入が行われる対象となった支店だ。企画段階では山本も乗り気だった。


「うーん、たしかにそうだな。もしあのデトロイトなんとかみたいなコンサル様の提案通りほものができたら損保業界は変わったかもな。でもな、こんなポンコツAIが俺たちの仕事をとって代われる分けないんだわ。結局お前達本社の人間はよくわからないコンサル様の指示に従って意味のないものを生み出しただけなんだよ。保険の成約1件とるのに現場の営業マンがどれだけ苦労してるか知ってるか?満期の保険を継続させるために顧客とクソみたいな関係性を維持し続ける苦労がわからねーだろ。相手は人間だ。時と場合によって顧客からの質問にどう回答するか変わるんだよ。そこにイチイチAIが関与する余地なんてねーんだよ。」

山本が早口でまくしたてる。

檜山は何も言い返せなかった。しかし、イノベーション推進室の目玉案件である"教えてくん"導入プロジェクトが手痛いスタートを切ったことは言うまでもなかった。



広島から東京へ戻る新幹線。檜山はレッツノートを開き今日ののレポートを作成していた。

本来ならユーザーインタビューを元に今回のプロジェクトがいかに上手く行ったかを記す、まるでウイニングランのような時間になるはずだった。しかし結果は散々だ。檜山は悩みに悩んだ末、レポートにはこう記した。


「広島支店はITに関するリテラシーが極端に低く、今後も本社からの継続的なサポートが必要。"教えてくん"の導入効果を高めるには先ずはITリテラシー向上が必須である。」




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