第3話 魔女の正体
「その目…。ま、まさか…お前が魔女だったのか…!!」
違ってほしいと思い問いかけた言葉だったが、ハリスは俺の聞きたくなかった言葉を吐く。
「ああ、そうだ。私が魔女だ」
なんてことだ。ハリスが、魔女だって?理解が追い付かないまま、質問を投げかける。
「じゃあ、俺の家族やシエルの家族を殺したのも…」
「ああ、私だ」
「…この野郎ぉ!!!!」
俺は常備していた銃をハリス、いや魔女に向け、引き金を引いた。狙いは正確だったはずだ。何年も訓練したのだ。外すわけがない。だが…。
「銃ごときで私を倒せると思ったか」
目の前に立っていた魔女は何の痛みも伴っていないようでにやりと笑う。
「どうして、こんなことをした…」
「それはお前たちの家族を殺したことに対してか?それとも、お前たちを拾いここまで育てたことに対してか?」
「その全部だ!」
再び俺は銃を向け引き金を引くが、やはり魔女には銃弾はきかない。
「人は目的がないと強くなれないんだよ」
「なにを言って…」
「だから、私は目的を与えた。私が魔女として家族を殺せば、生き残った者は魔女を殺すことを目的とし、強くなることができる」
「人を強くして、どうするつもりなんだ?」
「簡単なことさ。私がこの世界を征服するための駒として使うのだ。私が戦う目的を与え、私が力を与え、私がお前たちを利用する。簡単なことだろう?」
「世界征服って…そんなことのために、家族を殺して、子供たちを利用してきたっていうのか!?」
「そんなこととは失礼な話だ。私にとっては大事なことなんだよ」
「魔女めぇぇぇぇぇ…!!!」
俺の怒りは最高潮に達していた。とにかくこいつを殺さなければ気が済まなかった。拳にありったけの力を込め殴りかかる。
「だから無駄だって」
そんな俺の攻撃を魔女はいとも簡単に受け止める。ここまで力の差があるとは…。そして再び俺は一瞬で弾き飛ばされる。
「殺してもいいのだが…、せっかくここまで育てたのにそれはもったいない。レオは筋がよいからな。記憶を消すとするか」
「記憶を消すだと…?」
「ああ。今まで正体がばれるたびに記憶を消して、再び利用してきた。便利なものだろう?」
「くそっ!そんなことまでできるのか…」
もう、俺には少しも動ける力が残されていなかった。残念だが、今の俺では魔女には勝てない。ただそこでじっとしていることしかできないのだ。こんな無力な自分が嫌になる。だが、このまま奴のいいようにされるわけにはいかない。シエルだけでもどうにかしないと。
「お願いがある」
「ほう、なんだ?」
「シエルだけでも逃がしてやってくれないか?シエルのお腹には今…、子供がいるんだ」
これは少し前にわかったことだがシエルは妊娠している。
『レオ、今日は報告があるの』
『どうした?』
いつものように夜、シエルの部屋で会っていた時のことだ。シエルが突然話を切り出した。
『あのね、できたの』
『できた?』
『私たちの…子供』
一瞬、シエルの言っている意味が理解できなかったがすぐに状況を把握する。そう、俺たちの子供が出来たのだ。
『シエル!おめでとう!』
俺はシエルを抱きしめる。今まで生きてきてこんなにうれしいことはない。
『生まれるのはまだ先なんだけどね』
シエルが顔を赤らめながらそう言う。
『そうだ、名前どうしようか』
まだ早い気もするが居ても立っても居られなくなり、俺はシエルに尋ねた。
『私、考えてあるんだ。私たち家族を殺されて、今こんな生活してるでしょ?でもこの子にはそんな悲しい生き方をしてほしくないと思うの。毎日が喜びに満ちた生活をしてほしい。だから、その思いを込めて
『いいじゃん!いい名前だよジョイ!』
「だから、シエルだけでも解放してやってくれ…。俺はどうなってもいい」
「いつの間にか子づくりしていたとはな…。まあ良いだろう。今回私の正体がばれたのは私のミスだ。それぐらいは良いだろう」
「ありがとう…ございます」
まさか魔女にお礼を言う日が来るなんてな。人生何が起こるかわかったもんじゃない。
「だが、お前の記憶は消させてもらうぞ」
「ああ、好きにしろ」
俺にはもう抵抗するだけの力は残っていない。だから、しょうがないんだ。これでいいんだ。シエルとジョイさえ助かってくれるなら…!
数年後。
「今日も頑張ってるな。レオ」
「はい、ハリス。ご期待に答えられるように頑張ります」
俺は今日も毎日の訓練に励んでいた。これも、俺の家族を殺した魔女を倒すためだ。ハリスに拾われたこの命を使い、いまだに正体の分からない魔女だがいつか俺が絶対に倒してやる。そのために、今は訓練をするだけだ。
「そうだ、レオ。また街に魔女が現れたそうだ」
「本当ですか、ハリス」
「ああ。今回も子供だけ残して家族が殺されたそうだ。まったくかわいそうなことだよ」
「くそっ。また罪のない人が…」
「幸いといっていいかわからんが、父親はおらず母親と子供の二人暮らしだったらしく殺されたのは母親一人だけだ」
「そうですか…」
「だから、その子供を引き取ってこようと思ってな。確か名前は……ジョイとかいったかな」
俺が魔女に復讐するはずだったのに 腐ったみかん @orange1110
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます