第2話 シエルとの出会い

 そこからは、毎日訓練が始まった。格闘技、銃の扱い方など敵を倒すことに必要なものすべてをハリスから学んだ。


 そして、それをするのは俺だけではなかった。ここで暮らす他の孤児たちも同じことをしていた。どうやら、他の孤児たちにも俺と同様に力を身につけたい奴らばかりらしかった。俺と同じ魔女に家族を殺されたものだけではなく様々な理由で彼ら彼女らはそれぞれ力を身につけようとしていた。ただ一つ共通しているのは、『魔女を憎んでいる』、それだけだった。


 そしてそれは彼女、シエルも同様だった。


 シエルは、俺がこの孤児院にやってきてから1年ほどたったあとにやってきた。普段、あまり人と話すことがない俺と同じで、彼女もあまり人とかかわりを持ちたがらない、物静かな少女だった。年齢が近かったこともり、それで気が合ったのだろう。俺とシエルはたまに話すような仲になっていた。


「じゃあ、レオ君は家族を魔女に…?」

「ああ。そうだ。今でもたまに夢に見るよ。あの赤い目をした魔女が俺の両親を殺したのを…!!」


 どうしても、昔のことを思い出すと感情的になってしまう。だから、ハリス以外には俺が戦う理由を話したことはなかったのだが、シエルにだけは俺の事情を話すことが出来た。なんとなく、シエルにだけは話しても良いと思ったのだ。


「シエルはどうしてここに…?」

「私は魔女に両親と弟を殺されたの。弟はまだ生まれたばかりだったのよ…」


 そういって手で顔を隠し、しくしくと泣き始めた。俺は彼女を抱きしめると、優しく彼女の背中をさすった。


 こんなか弱い少女からも家族を奪うなんて。俺の魔女を憎む気持ちはますます膨れ上がっていった。



 それから月日が経つのもあっという間で8年がたった。俺やシエルはかなり成長し、もう一人前になっていた。その年月の中でも魔女はたびたび現れ、人を殺していった。だが、いまだに魔女の素性は何もわかってはいない。魔女の家族を殺された生き残りからの証言からしか魔女についての素性はわかっていない。そう、たった一つ、赤い目をしていたということだけだ。


 その間、孤児院で訓練するだけではなく街に出て悪人を倒すなどの実践もこなした。その中で、魔女を倒すための準備を進めていたのだった。


 ある日のことだった。


「シエル、お前が好きだ」

「私もレオが好き」


 そして、俺とシエルはお互いを愛すようになった。訓練の合間を見つけてシエルに会いに行ったり、夜みんなが寝静まった後シエルの部屋を訪ねたりもした。


 そう、俺はいつしか、魔女への憎しみを少しずつなくしていき、幸せを感じるようにまでなっていた。


 ある夜、いつものように皆が寝静まった後俺はシエルの部屋を訪れた。そして、シエルをベッドに押し倒し、唇を重ねる。


 一通り愛し合った後、俺は脱ぎ捨ててあった服を拾い、それを着ながらまだベッドに横になっているシエルに一つの提案をする。


「シエル、一つ提案があるんだが…」

「どうしたの、改まって」

「い、一緒にここを出ないか?」

「ここを…出る?」

「ああ。俺はもう魔女に復讐することにこだわっていないんだ。それよりもシエルを幸せにすることを選びたいんだ。どこかここじゃない場所にいって、で幸せに暮らそう」

「……」


 そのままシエルは黙り込み、部屋が沈黙に包まれる。やっぱり駄目か。無理もない。シエルも俺と同じ、今まで魔女を倒すことだけを目的に生きてきたのだ。それなのに俺を選ぶほうがおかしいだろう。


「嫌だったらいいんだ。悪かった。また来る。体気を付けてね」


 そう言い残し、俺は部屋を出ようとドアノブを手にした時だった。


「待って!違うの」


 そう俺を呼び止めるシエル。声のしたほうに振り返ると、シエルは目を真っ赤にして涙を流していた。


「違うの。うれしいの。レオが私を選んでくれて…。うん、一緒にここを出て幸せになろう」


 シエルは流していた涙を拭きとると俺に向かって満面の笑顔を向けた。


「シエル…ありがとう」


 俺はその顔を見ると、シエルの元に戻りシエルの体を強く抱きしめていた。うれしい。家族を殺されてから、ただ復讐のために生きていた俺にこんな幸せが訪れるなんて。


 そして俺たちは再び唇を重ねた。



 次の日。俺とシエルは一緒にハリスのもとにこれからのことを話しに行った。


 長い時間をかけて俺とシエルで決めたことをハリスに説明した。


「ということなので、俺とシエルはここを出ようと思います。身寄りのなかった俺たちをここまで育ててくれたこと本当に感謝しています。いままでありがとうございました」

「私からも本当にありがとうございました」


 俺とシエルは深くお辞儀して今までの感謝を示す。


「…待て」


 部屋を出ようとした俺とシエルはハリスの低い声に呼び止められる。


「何を勝手に決めているんだ。まだ、お前たちは魔女を倒していないだろう」


 イスに座って話を聞いていたハリスが俺たちのもとに近づいてくる。


「身勝手なことはわかっています。それでも俺たちは幸せを…うっ!!」


 ハリスが俺の発する言葉を遮るように片手で首を絞める。


「ちょっと、離してください!」


 隣にいたシエルがハリスを俺から引きはがそうと手を伸ばす。だが、一瞬でシエルの体が吹っ飛び壁にたたきつけられる。そのまま地面に倒れこむシエル。そのまま動かなくなってしまった。


「お前たちに戦う術を与えたのは私だ。弟子が師に勝てるとでも思ったか」

「シ、シエル…!」

「殺してはいない、気絶しているだけだ」


 そのまま俺の首を絞める手の力をさらに強めるハリス。なんとかハリスの手から逃れようとするも身動きをとることすらできない。力の差は圧倒的だった。


「このまま生き残りたいなら、さっきの言葉を取り消せ。私に逆らうことは許さない」

「なんで、こんなこと…」


 力を振り絞りハリスに問いかける。ハリスは訓練の時には厳しさを見せることはたびたびあったが、普段は温厚な性格でこんな風に力で押さえつけるようなことはなかったはずだ。いったいどうしたというのだろう。


「口ごたえするな!!!」


 ハリスは俺の首をつかんだまま俺を投げ飛ばした。シエルと同様に壁にたたきつけられ、地面に倒れこむ。何とか残された力を振り絞り、起き上がった。


 その瞬間だった。ハリスの目が❝赤く❞光ったのは。


 そう、それは俺が一生忘れることがないあの両親を殺した魔女の目だった。


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