幕間 ある内親王の日常②

※※※※※※※※※ 1331年4月下旬 ※※※※※※※※※



ちゃーんちゃらちゃちゃちゃ 腕を前から上にあげてのびのびと背伸びの運動から。

・・・

わたくしの一日は、九郎様に教わった「らじお体操」から始まります。

寒い冬も毎日続けていましたのよ。

わたくしの体調が良くなるにつれてお付きの女御達も一緒に体操をしてくれるようになったのですよ。

わたくしが健康になったことで女御達は魅力的な体になれるといったらしい九郎様の言葉を信じたためという噂もありますが・・・

次に九郎様にお会いできるのはいつになるのでしょうか。健康になったわたくしの姿を見て頂きたいですね。

お父様に今度聞いてみましょう。


いつも静かに淡々と進めていましたのに、今日は周りがとても騒がしいです。


そうこうしているうちに口煩いお付きの女御が部屋に駆け込んできました。

いつも私がドタドタ歩いていると苦言を言ってくるのに本人が煩いなんて。

後で苦言を言って差し上げましょう。


「内親王様、大変です。鎌倉幕府からの使者として、武士が大勢集まっています。

お逃げ下さい。」


部屋に転がるようにやってきた女御が、息を切らせ叫んだ。


「何を言っているのです。たとえ鎌倉幕府といえども内裏に襲い掛かることはありませんよ。

お父様に用があるのでしたら、そちらへ向かうでしょうに。」


わたくしは、ここぞとばかりに優雅に女御に返した。

いつも言われていることを言い返せたのでちょっといい気分です。


「そんなことを言っている場合ではありません。武士達が押し寄せているのですよ。

逃げましょう。」


「どこに逃げるのです?牛車で馬に勝てると思っているのですか?」


わたくしは淡々と答えます。わたくしだって怖いですが、どこにも逃げる場所なんてありません。

わたくしが落ち着いて受け答えしたので、件の女御も少し落ち着いてきたのか、気が抜けたのか床にペタンと座り込んでしまいました。


さてどうしましょう。

九郎様であればこのような時、どのような機転を利かせるのでしょうか?

九郎様は情報が大事といわれていましたかね。状況をもっと知らねばなりませんね。


あら、あちらからお母様がいらっしゃいました。

何か知っているかもしれません。

それにこのような時であっても優雅さを忘れずに出迎えましょう。


・・・・・・


「祥子や。鎌倉幕府から大勢の武士が来ている。今上に幕府に対して謀反の疑いがあるとのことじゃ。

取り調べが終わるまでわらわ達は、寝殿の奥に押し込められるそうじゃ。」


お母様も淡々としていらっしゃいます。こういうのを年の功というのでしょうか。

頓珍漢なことを考えていたら顔に出ていたのでしょう、お母様が微妙な顔をしていらっしゃいます。


「祥子。奥に行きますよ。遅れると何をされるか分かりませんよ。」


「はい。お母様。」


わたくし達は、自主的に奥に籠ることになりました。


押し込められている間も食事の世話をしてくれる女御を通じて情報を集めましたの。

どうやらお父様の側近であった吉田定房という人物がお父様を裏切って六波羅探題へ情報を漏らしたらしいです。


取り調べの結果、謀反の計画があったとされお父様は隠岐の島へ、お兄様(尊良親王)は土佐国へ流されることになったみたいです。

わたくしは伊勢神宮の斎宮として伊勢へ下向することになっているらしいとのことでした。


斎宮になると数年は伊勢神宮での祭事があるそうなので出来れば行きたくないですが、母上達のことをことを考えると断ることは難しいかもしれません。

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九州の覇者は生き残りたい ~ 肥後の国に安寧を ~ pierrot @sige1821

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