幕間 菊池武士

僕の名前は、菊池武士きくちたけひと12歳だ。

僕は、正室の子と言うことで他の兄弟たちより早く元服している。

母上には武重兄上を補佐する立派な武士になるように期待されているが、僕は争いが苦手だ。

その代わり学問は好きだ。剣術は駄目ダメだが、弓術はまぁまぁと師範からは言われている。

そうこうしているうちに1つ違いの九郎兄上が面白いことを始めたと聞いた。

寺子屋なるものを作って河原者や武士の三男以降で家での立場のない者達に学問を教えるようにしているらしい。

さらに川の治水も始めたようだ。

僕はこれだっ と思い10歳の時に父上にお願いして九郎兄上が作った寺子屋に通わせてもらった。

母上には大反対されたけど、父上が強引に推し進めてくれたのでなんとか通うことができたんだ。

父上からは、九郎兄上の知見を学び、超えられるように努めよとだけ言われた。

頑張らねば。

父上は僕が弓術以外の武芸全般が苦手なことや争いごとが苦手なことを見抜かれていたようだ。


寺子屋では農地整備や治水や領地経営手法を主に勉強した。

特に治水は素晴らしい。

僕は、小さい時から城を抜け出して村の子と遊んでいることがあったのだが、野分の度に家を流されたり、田が壊滅する様も何度も見てきた。

九郎兄上の治水は、野分や長雨による川の氾濫を抑え、家や田が壊滅するのを防いでいた。

僕は川の氾濫は龍神様の怒りだと聞いていたので、龍神様の怒りを乗り越える九郎兄上はすごい人だと思った。


寺子屋に通っているときに父上に頼み込んで九郎兄上が領地経営している八代郡に連れて行ってもらった時などは、川の傍まで田んぼが迫っていてビックリした。

父上に大丈夫なのかを聞いたら、笑って九郎が大丈夫と言っているから大丈夫だろう。と答えてくれた。

なぜ大丈夫なのかをもっと知りたかった僕は九郎兄上に尋ねると、詳しく聞きたければ寺子屋で学べと言われたのでさらに熱心に寺子屋で勉強するようになった。


寺子屋では、九郎兄上を礼賛する授業がありビックリしたが、治水の仕組みや農業、税金の仕組み等とっても為になった。

九郎兄上に礼賛授業の事を話した時は苦笑して「まぁ忠誠心を育てることは必要だから・・・武士は染まるなよ。」と言っていたことは覚えている。

僕と1歳しか変わらないのにしっかりと考えを持って進めている。僕も九郎兄上と肩を並べられるよう精進しよう。

他にも「寺子屋の仲間でこれから一緒に働きたいと思える仲間を集めておけ、これからの財産になる。」と言われていたので、仲間を作り一緒に勉強に励んだ。

九郎兄上に自慢したら、卒業時に近習として雇うように勧められた。

身分的には近習だが僕の仲間達だ。仲間内だけの時はため口だが、九郎兄上から他の人がいる場ではきちんとするように言われた。

面倒ごとが起きるのはいやなので仲間と話し合って九郎兄上の助言に従うことにした。

身分の低い者を金重とすることに対して父上は笑って許してくれたが、母上は身分がとかガミガミ言ってきたが聞き流しておいた。

上下関係がしっかりしているところを母上に見せたらあまり小言を言わなくなった。九郎兄上の助言はこういった時に良いのかぁととても納得できた。

近習として雇うことは九郎兄上から父上の了承を取っておけば問題ないと言っていたから問題ないだろうし。


寺子屋を卒業した後は、父上に頼み込んで八代郡の頼隆兄上の元で仲間とともに領主修行をさせてもらっている。

農業に興味を持っていた数人は茜殿の下で修行をさせてもらっている。

僕が領地を運営するときまでに茜殿から免許皆伝を貰ってほしいものだ。

僕も頼隆兄上の免許皆伝を貰えたら菊池郡へ戻り、父上の内政補佐をする予定になっているので頑張っている。

菊池郡も九郎兄上の工作班が入って治水や農地改革を行っているのでその取りまとめとなる予定らしい。


今日も寺子屋時代の仲間達と一緒に新たな治水計画や開墾計画、現地の進捗確認を行っていると頼隆兄上から呼び出しがあった。

頼隆兄上の元へ馳せ参じるとそのまま頼隆兄上、武澄兄上、城隆俊と共に田浦村へ一揆鎮圧に向かうように指示された。

どうやら父上からの指示で僕に初陣をさせようとしているらしい。

頼隆兄上からはくれぐれも前に出ないようにと諭され、頼隆兄上の副将として現地へ向かうこととなった。


・・・・・



争いは嫌だなぁと武士にあるまじき事を思いながら田浦村へ向かったのだが、一揆勢を説得するだけで降伏したため争いにはならず、僕は頼隆兄上について隣の村の説得に向かった。


隣村もすぐに降伏したので争いはなかった。

それも九郎兄上の名前を出し、食料を分けるので治まるように言っただけで治まってしまった。九郎兄上の名声はすごいと思った。

頼隆兄上は、百姓の噂は良い噂も悪い噂も近隣の村へもすぐに広まるいい例だぞ。と教えてくれた。

ここでも九郎兄上の凄さが感じられる出来事だった。

僕は九郎兄上に追いつけるのだろうか。不安はあるが父上の期待に応えるために一歩ずつ頑張ろう。


僕は、頼隆兄上からの命で武澄兄上と共にこの2村を復興することとなった。

武澄兄上は治安維持を主に行い、田畑の復興は僕の役目となった。

寺子屋で学んだことや頼隆兄上の元で学んだことを生かし、立派にやり遂げるぞ。


・・・・・


僕は非常に困っている。

武澄兄上が軍事を一手に担ってくれているので見回りなどの治安維持や害獣駆除等は任せてしまえるのだけど、何この入会権争いや水利権争いは。

2つの村の中でも争うって何?

南にある他の村はちょっと離れているから争いはないけど同じ地域の同じ領主の村の中で争うってなんだかなぁ。

治水をするにも村の有利になるように訴状がくるし・・・

治水後の田んぼを増やしたら村の中で取り合いが始まるし・・・

そんなに欲張っても耕す人がいないじゃないか。

農家の次男や三男の数を数えて耕せるだけの田んぼを渡して、家も作って・・・

分からないところは九郎兄上の腹心の茜さんに手紙で確認したり、茜殿の元で修行していた仲間に戻ってきてもらい、手伝ってもらってやっとこなしている。

僕一人じゃとてもこなせなかっただろう。



九郎兄上が八代郡を占領したときはどうやって処理したんだろう・・・


九郎兄上が八代港に帰ってきたと聞いたので手紙で聞いてみよう。


・・・・・


手紙が返ってきた。

何々 領主の仕事は揉め事の裁定が9割だ。頑張れ。

裁定は基準をきちんと守ること。裁定毎に基準が変わるのはダメ。

一度起こった問題と同じ場合は同じ裁定となるように記録を取って置き、そこは部下が決定できるようにしておくと少し仕事が減る。

お前はこれからもっと大きな領地を運営していくんだからこれは良い修行だから頑張ってやれ。

などが書かれていた。


領主って大変だなぁ。

でも治水計画は立ってきたし、簡易的な作業は始まっている。

ここで頑張れば来年の収穫が増えるだろうから頑張りどころだな。



・・・ 九郎視点 ・・・


弟の菊池武士から手紙が来た。2村の統治に苦労しているようだ。

頼隆兄上の元で修行していたようだから何とかなるだろう。

史実でも武力より知力の人だったみたいだし。


でもアドバイスを求められたので必要最低限は返信しておいた。

親父殿や武重兄上が存命のうちに色々経験ができていると菊池家当主になった時に生きてくるはず。

ここで成長して一緒に肥後国を大きくしていければいいなぁ。


あっ 親父殿に呼び出されているのだった。菊池城に向かうか。

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