第16話 平和な毎日
わたし達はアリサと共に北の山脈の西にある凍結湖に来ていた。この凍結湖は何らかの術式よって溶ける事のない湖である。湖の真ん中にある島に宮殿が建っている。凍った湖を進むとアドギス皇帝が待っていた。
「ようこそ、我が永遠の命を得る瞬間に。そして、旧世界の神に一番近くにある存在の神龍をわが手にするのだ」
神龍の伝説か……。旧世界の戦争で魔導を使う側が負けそうになり、魔導の全ての力を神龍の封印に使い、魔導と神龍を同時に失った世界が滅びた伝説である。
神龍も大変だ、凛銀が残り少なり、魔導の力が再び無くなりかげて、結果として復活するのだ。
「アリサ、三日月銀を……」
「はい、アドギス皇帝」
アリサはわたしの三日月銀とアリサの少し小さめの三日月銀を祭殿に置く。
「姉さんはご存知でして?三日月銀が純度の高い凛銀であるのです」
「さあな、わたしには関係の無いことだ」
わたしは軽い返事を返す。そうか、アリサは魔導の力を使い暗殺を行っていたのか。少し小さめなのはアリサの罪の数なのか……。
そんなわたしに紗雪が寄ってきて。
「お姉様、このまま、神龍を復活させていいのですか?」
「あぁ」
紗雪はわたしの腕をブルブル振るう。しかし、わたしは神龍の事よりせっかく会えた双子の妹のことばかり考えていた。
「お姉様!」
「あ、すまぬ、答えが出ないのだよ、妹への接し方が……」
そんな事を考えていると。三日月銀がチョコレートの様に融け落ちて蒸発する。地震が起きて神殿が壊れ始める。そして、崩れた神殿の中ら神龍が現れる。よく見ると、左側がボロボロである。
「くっ……アリサの凛銀の分が足りなかったか」
そう、アリサの罪の数だけ不完全であった。
「まあ、いい、神龍よ、我に永遠の命を与えたまえ、そして、アドギス・ラ・ラフエルに従い世界征服だ」
神龍はアドギス皇帝の言葉に頷き光を放つと……。
一瞬、目の前が真っ白になる。
気がついた時にはアドギス皇帝は石化していた。
「何故?」
わたしの問いに神龍は「魔導を使いし者に従うのだ」と答える。
「アリサ逃げて、神龍は魔導の使い手を敵視している」
再び、光が放たれるとまた真っ白になる。すると、アリサは赤ん坊の姿になってしまう。
「我の復活は不完全なものである。二人目を石化する力はない。そして、我は崩れ落ちるだろう」
皮肉なものだ、アリサが暗殺の為に魔導の力を使い、結果的に凛銀を減らしたおかげで助かったのだ。わたしは赤ん坊と化したアリサに近づくと天使の様な笑顔である。
「きゃ、きゃ……」
アリサは背負った罪など消えてしまった様に可愛い。
「神龍よ、これで良かったのか?」
「そうた、これでいいのだ、我は信仰の対象でもあったのだ。民の願いを叶えるのも我の役目」
そうか……だから、魔導の力と神龍の存在が一度に消えて旧世界が滅んだのか。
すると、神龍はボロボロと崩れ落ちる。
「紗雪、帰ろう、古都、リズムに」
わたしは赤ん坊と化したアリサを抱き上げると紗雪に言う。
「はい、お姉様」
始まりの都のリズムに戻る事にした。
***
わたしは古都、リズムに帰って来ていた。盗賊仲間や親代わりのベルサーからは氷目の紗雪に赤ん坊のアリサと一緒に帰ってきたので驚かれたものだ。そして、あの凍結湖での出来事から1ヶ月……。
紗雪はかき氷を売る商売を始めた。しかし、ここリズムは夏でもカラットしているので売れいきはイマイチである。わたしも権力者の護衛のバイトを始めた。消して盗賊がイヤになった訳ではない。
赤ん坊のアリサには光の当たる世界で生きて欲しいからだ。今、思えば神龍が崇拝の対象になっていた理由が分かる気がする。
そう、アリサに生きる道を開いてくれたからだ。凛銀がこの世界から無くなり。もう、復活することもない。
そんなある日……。
「よう、姉ちゃん達」
現れたのはゴールドマウンテンである。
「リズムの街に何用だ」
その言葉の後にわたしは空き地に呼び出されていた。
「全くだぜ、アドギス皇帝は嫌な奴だった。他国にはオレが動いていると見せかけて、実際は自分で三日月銀を探していたらしい」
「それで何用だ」
「まだ、決着をつけてなくてな」
そう言うとゴールドマウンテンはレイピアを抜く。
負けじと、わたしも短剣を抜くと……。
一瞬の間の後でゴールドマウンテンはヤレヤレとして。
「あーダメだ、殺気が全然出ない」
ゴールドマウンテンはレイピアを収めて去って行く。
「何故、わたしに会いにきた?」
「ただ、引退する理由が欲しかっただけだ。これからは酒場でも開くつもりだ」
ゴールドマウンテンは街の中に消えてゆく。これで良かったのか?と首を傾げる。
「お姉様、こんな所にいた、アリサの面倒をみて下さい」
おっと、今日当番はわたしか……。
活気ある日常は平和そのものであった。
世界は広く血族の女盗賊は旅に出る。 霜花 桔梗 @myosotis2
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