悪役令嬢は前世の記憶を取り戻したのに全然悔い改める気がない。いっそどこまでも突き抜けてみたら、一周回って王子と結婚しそうな話。
悪役令嬢は前世の記憶を取り戻したのに全然悔い改める気がない。いっそどこまでも突き抜けてみたら、一周回って王子と結婚しそうな話。
悪役令嬢は前世の記憶を取り戻したのに全然悔い改める気がない。いっそどこまでも突き抜けてみたら、一周回って王子と結婚しそうな話。
越智屋ノマ@魔狼騎士2重版
悪役令嬢は前世の記憶を取り戻したのに全然悔い改める気がない。いっそどこまでも突き抜けてみたら、一周回って王子と結婚しそうな話。
侯爵令嬢リザリアは、化粧が濃かった。
しかもドレスが結構エグい。本人は「モード系」だと信じているが、周りから見るとどう見ても痛いゴスロリだ。
性格もかなりキツくて、思ったことは秒でズケズケ言ってしまう。使用人や学友の令嬢に対しても、まぁそれなりにぶっちゃけた批判をぶちかましていた。歯に衣着せない物言いから「ワガママないじわる女」と悪評を受けている。
そんなリザリアだから、とうとう婚約者のアルマ王子に婚約破棄を言い渡された。
「リザリア=フォートナイト、そなたとの婚約を破棄する!」
聴衆たちが「とうとう、この時が来たか」と納得顔で見守る中、リザリアだけはテンパって大騒ぎしていた。
「殿下、わ、わたくしのどこが気に入らないのですか!? まさか他に好きな女性が!? わたくしというものがありながら……!?」
アルマ王子は聞く耳持たずにリザリアを捨てた。正直、ケバすぎて彼女を直視したくない。
ショックのあまり、リザリアは気を失って三日三晩寝込んでしまった。
意識不明の闇の中。リザリアは前世の記憶を取り戻した。――あぁ、この世界は前世に私が読んだ小説そのものだ。悪役令嬢リザリアは、第二王子のアルマに断罪され、実家の侯爵家からも勘当されて、貧民街で平民として生きるのだ。
前世の彼女は、地味で堅実な性格だった。小説家志望の誠実な社会人男性と同棲しており、彼と2人でつつましく幸せに暮らしていた。派手で孤独な今のリザリアとは、まるで、真逆の人生を――――
目が覚めた。
今までこんなケバい化粧と、こんな恥ずかしいドレスでよくオモテを歩けてたものだ……と彼女は自身にドン引きしていた。そして何より、これから自分を待ち受ける運命を知ってふるえた。
だが……自身の性格や身なりを悔い改める気は全然なかった。結局、原作小説そのまんまのルートで、実家から愛想をつかされ勘当されてしまう。平民落ちして、貧民街での生活を余儀なくされた。
それでもリザリアは自分のキャラを変えようとはしなかった。ゴスロリ・ケバ化粧のまま歓楽街の芝居小屋までレッツゴー。
「貴方がこの安っぽい芝居小屋の支配人ですわね? わたくし、貴方に雇われてさしあげてもよろしくてよ!?」
芝居小屋の支配人はリザリアを大歓迎した。安っぽい平民役者ばかりの歌劇場で、『悪役令嬢感』満載のリザリアはかなり浮いている。良い意味で、浮きまくって突きぬけていた。
ギャグみたいな濃い化粧も舞台化粧だと思えば意外と『アリ』だし、ゴスロリっぽい痛ドレスも平民的には『むしろ貴族っぽい!』と大絶賛された。ワガママでえらそうな口ぶりも、『これぞ、お貴族サマ』という感じで、平民のニーズをがしっと掴んでいる。
リザリアは、あっという間に芝居小屋で一番人気の役者になった。ヘッドハンティングされてワンランク上の劇場へ。さらに人気を高めてもうワンランク上へ。何度か上位互換を繰り返すうちに、王室が直営する歌劇場の筆頭女優になっていた。
「貴族役なら彼女の右に出る者はいない!」という絶大な支持を受け続け、リザリアは女優として成長していった。前世の彼女は地味な努力を怠らない堅実な女性だったのだから、地味にコツコツ頑張るなんて朝飯前だ。
*
そんなある日、彼女は歌劇場の支配人から呼び出しを受けた。
「リザリア! 君のパトロンになりたいという男性がいるんだが――」
パトロンとは、芸術家に対して金銭的な支援を与える貴重な存在。しかし裏の意味では、金銭的な支援を与える見返りに性関係を求めてくる男のこともパトロンという……
リザリアに会いたいというそのパトロンは、果たしてオモテか、裏なのか。
「喜んでお受けいたしますわ」
と、リザリアは即答した。
支配人は大喜びで、パトロン男性とリザリアの顔合わせの日時をセッティングしていた。
*
パトロン男性との、顔合わせの日。
リザリアは、ケバい化粧をしなかった。ゴスゴスしていたドレスもやめた。
すっぴんに近い自然な化粧と、平民に寄せた地味で清潔感のあるドレスに身を包んでいる。
「おや。――舞台で見たときとは、ずいぶん印象が違うようだね」
と、パトロン男性は目を見開いていた。
パトロン男性は、20代前半の美しい人だった。コートの生地や刺繍のグレードから察するに、子爵・男爵階級の令息といったところ……
だがこの男、実はこの国の第一王子ユードヴェルデなのである。
原作小説のストーリーを結末まで知っていたリザリアは、「これが正解」などだと確信していた。
これは、悪役令嬢リザリアの物語。
ケバくて痛くてワガママなリザリアは、第二王子に断罪されて平民落ちする。それでもキャラを貫き通して舞台女優としての道を切り開き、正体不明のパトロン男性との恋に落ちる。
パトロン男性とベタ甘な感じのラブロマンスを展開してから婚約に至り、最後は彼が第一王子ユードヴェルデであることが判明してハッピーエンド。
(そう。これが、この人生の最適解なのよ。……そうでしょう? 優人)
死に分かれた最愛の恋人に、リザリアは心の中で別れを告げた。
(さよなら、優人。あなたの作った物語の中で、私、幸せに生きるから――)
「お別れは、まだ早いよ?」
とユードヴェルデにいきなり言われ、心の中を見透かされたかのような気持ちになってリザリアはうろたえた。
「な、なにがですか、旦那様……?」
「僕とリサの人生は、こっちで続いていくということ」
リサ?
前世の名前で呼ばれてしまった。
「原作小説は、残念ながらエタっちゃったよ。君が事故で亡くなったショックで、僕も後追いしてしまったから……絶筆だ。アップ前の結末を知っているのは、世界でたった一人。リサだけだよ」
苦笑しながら、ユードヴェルデはそう言った。
「書籍作家はあきらめたけど。君と夫婦になる夢だけは絶対に、こっちの世界で叶えたい」
原作小説は、書籍ではなかった。投稿サイトにひっそり掲載されていた、無名な作者の底辺小説。だが、リサと優人にとっては大切な物語だった。
リサは笑った。
「叶うよ、優人。どっちの夢も叶えたら? 王様やりながら、小説も書けばいいじゃない。私だって、トップ女優になる夢、こっちで叶えたよ?」
前世に道半ばで果てた恋人たちは、次の世界で物語の続きを紡ぎ始めたのだった。
悪役令嬢は前世の記憶を取り戻したのに全然悔い改める気がない。いっそどこまでも突き抜けてみたら、一周回って王子と結婚しそうな話。 越智屋ノマ@魔狼騎士2重版 @ocha
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