【あとがき――という名の簡単な解説】



 はじめましての方ははじめまして、そうではない方はいつもお世話になっております。

 吹井賢です。


 この『タブー』という作品は、元々、掌編の連載をやっていた頃に、その一つとして書き上げたものです。その辺りの経緯は、拙作『時計の街』のあとがきをご覧ください。

https://kakuyomu.jp/works/16817139557326170486

 端的に纏めると、「過去に書いた作品が面白かったので再公開しようと思った」「折角、再公開するのだから、あとがきくらいは付けよう」と考えた次第です。

 何よりこの掌編、「解説がないと何の話だか伝わりにくい」という、致命的な欠点を持っているので……。ぶっちゃけ「読者を楽しませる作品」という観点からすると、完全な失敗作です。意図してやったことではあるんですけどね(後述します)。


 さて、この掌編のジャンルは「ホラー」にさせて頂いているのですが……。もう全然、全くと言って良いほど、ホラーらしくありません。幽霊や化け物の類は出てこないし、主人公が呪われるわけでもないし、どころか怖がることすらない。尚のこと悪いのが、謎や真相が何も分からないままであること。

 これ、何の話だったの?という感想を抱いた方も多いのではないでしょうか。

 じゃあ吹井賢は何故、こんな掌編を書いたのかと言うと、「アンチ・ホラー的作品を作ってみたいな」と思ったからです。


 ところで、僕はたまーにゲームをするのですが、アドベンチャー系のゲームにおいて、物凄く好きなネタが一つあります。

 それは、例えばホラーゲームの冒頭、ヒロインや友人に「お化けが出ると噂されてる屋敷に行こう」と誘われた主人公が、“いいえ”と返答し、そのままエンディングになってしまう……、というルートです。「ED① ハッピーエンド?」とか出ちゃったりしてね。

 このネタが、吹井賢は大好きなのです。

 怪しい場所には行かない方が良いですし、禁足地には足を踏み入れるべきではない。それが自分達の日常を、大袈裟に言えば命を守っていく上で大切なことだと考えています。


 武道をやっている人間として断言します。

 最も有効な護身とは、空手や合気道を習うことではなく、「治安の悪い地域を把握し」、「夜間のような人気のない時間は出歩かない」というものです。危険な存在と相対した際にどうするか、ではなく、まず「危険な目に遭わない為にどうするか」を考えるべきなのです。


 閑話休題。

 つまり、上述したような、「ジャンルはホラーのはずなのに何も起こらない」という話を作ろうと思い、書き上げたのが、この『タブー』です。

 「タブー」とは、「してはいけないこと」を意味する言葉です。『見るなのタブー』は有名ですね。「見るな」と言われているのに、見てしまう。結果として、良くないことが起こる。神話の類型の一つですね。

 今回の“タブー”は、「部屋から出ること(玄関の扉を開けること)」です。いえ、本当のところは分からないのですが、そう推察できるようになっています。そして、作中では、このタブーを破らせようと、様々な事象が発生します。

 テレビは勝手に点くわ、シャワーの水は赤茶色に変色するわ、寝室や和室の扉はいつの間にか開いてるわ、夜中に異音はするわ……。これだけ見ると、完全にホラーですね。もしかしたらカーテンを閉めたから分からなかっただけで、ベランダに何かいたかもしれません。

 また、悪質なのが、「トイレの紙がない」「宅配便が届く」「終了時間の直前にチャイムが鳴る」という、ごく日常的な出来事も混ざっている点です。

 トイレットペーパーがなければ買いに行きたくなるでしょうし、宅配便の人には対応してしまうでしょうし、終了予定時刻の少し前にインターホンを鳴らされれば、「ああ、早めに終わりになったんだな」と外に出てしまうでしょう。


 ある大学生が、奇妙なバイトを引き受ける。ここまではホラーの文脈なのですが、この掌編の語り手、“俺”は全く動じず、部屋に居続けます。そして、見事に仕事を完遂して帰宅します。

 彼が赴いたあの部屋には、何かしらのタブーがあった。恐らく、“俺”が部屋から出てしまった場合、何か良くない事態に陥ったでしょう。タブーができた真相も明かされたと思います。しかし、そうならずに物語は終わる。言わば、起承転結の“起”の後、ずっと日常が続いて、何も分からないまま、いきなり“結”になる感じです。

 面白いことに、“俺”は、仕事上の注意事項として伝えられたタブーを守ると同時に、タブーを守ったが故に、メタ的には『ホラー』というジャンルのタブーを破っている(≒お約束を全部無視し、何も明かされないまま話が終わってしまう)のです。

 だから、この掌編のタイトルは、『タブー』なのです。


 さて、最後に裏設定を。

 “俺”に仕事を紹介したのは、『ぷれかりあーと!』に登場した長谷です。事件屋として、厄介な仕事を信用できる“俺”に回したんでしょうね。なお、若宮四季とも友達です。

 また、本当にどうでもいい話なのですが、“俺”が読んでいたのは『東京喰種トーキョーグール』という設定だったりします。“俺”の言う「スゲー良いシーン」が何処か、分かる方も多いんじゃないでしょうか。


 「作中のタブーを守ったが故にメタ的なタブーが破られる」というのが面白く、好きな作品ではあるのですが、奇を衒い過ぎたかな、という思いがあることも確かです。

 この先、何が起こるんだろう!?と期待して読み進めていただいた皆様には、この場を借りてお詫び申し上げます。

 こういう、「何も起こらないこと」をテーマにした作品は、暫く自重しようと思います。


 この作品が、皆様の一時の楽しみになれば、それが作者にとって最高の喜びです。

 それでは、吹井賢でした。


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『タブー』 吹井賢(ふくいけん) @sohe-1010

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