第3話

賢一母)「そんな事許すわけないでしょ?

教師なんて、そこそこの大学を出れば、なれる職業じゃない!」


 空)「分かった風な事を言うな!母さんが実際に教師になった事も無いくせに...。それに、何で法律関係の仕事に就いて欲しいんだよ?俺は、興味すらないんだけれど。」


 賢一母)「賢一!言葉遣いが悪いわよ。それに、一人称も"俺"って何よ?前の方が上品だったのに...。」


 空) 「話を逸らすな、今は何で法律関係の仕事に就いて欲しいかを聞いているんだよ。」


 賢一母)「それは...稼ぎがいいし、弁護士とか、検察官なら世間体も良いでしょう?」


 空)「まさか、あまり深い理由は無いのか?」


 賢一母)「理由なんて、大きな問題じゃないわ。私は、賢一の将来を考えて言っているの。」


 俺の意志は全否定するし、母さんの考えばかり押し付けてきて、話にならない。ひとまず、話を終えるしかないだろう。


 空)「分かった、ひとまずその事は置いておいて、夕食にしないか?」


 賢一母)「そうね、今日は賢一の好きなチキンカレーよ。たくさん食べてね。」


夕食後...


 まさか、教師を目指す事に反感を持たれるとは思わなかったな。明日、優子先生に相談してみるか。

 

 気持ちの整理がついていなかったが、徐々に強くなっている眠気には勝てず、俺は眠りについた。


学校にて...


 優)「それで、相談したい事って何かな?」


 空)「実は、俺は教師を目指したいと考えていて、母に打ち明けたのですが、猛反発を食らって...。」


 優)「空木くんは、先生になりたいんだね。夢が出来たのは、とても良い事だよ。でも、お母さんに反対されているとなると...。」


 空)「どうにかして、母を説得したいんです。協力してもらえますか?」


 優)「う〜ん、どうしようかな?空木くんのお母さんに納得してもらうには...私が同伴して話せる場が必要だから、次の三者面談で話し合ってみようか。」


 空)「分かりました、よろしくお願いします。」


 優)「でも、その前に空木くんも教師について、調べておく事!根拠が無ければ、説得なんか出来ないからね。」



 空)「はい、もちろんです。」


 そして、俺は帰宅後、教師になる方法について調べ尽くした。

 同時に、自分が小、中、高のどの学校の先生になりたいか?また、何の教科の先生になりたいかを考えていた。


 俺は、優子先生に憧れて教師を目指そうと決めた。でも、数学は大の苦手教科だし、高校よりも、中学校の教師の方が興味がある。

 なので、得意教科である英語の中学校教師を目指すことに決めた。


 数日後、三者面談にて...


 優)「空木くんの成績は、全体的に平均以上で優れています。ただ、数学は若干苦手のようですね。」


 賢一母)「そうなのよー、うちの子は、数学以外は出来るのだけれど...。確か、大原先生は、数学担当の方ですよね?賢一が、数学の成績を上げられるように、ご支援よろしくお願いします。」


 優)「はい、精一杯頑張ります。それでは、学校内の話はここまでにして、進路の話に移りましょう。空木くんは、将来の夢や希望の大学は、あるのかな?」


 俺が、優子先生からの質問に返答しようとした時、横から母が小声で囁いた。


 賢一母)「分かってるわよね?W大の法学部と答えるのよ。」


 この期に及んで、まだ俺を思い通りに操れると思っているのか?悪いけど、言いなりになるつもりはない。そう思い、俺は発言をした。


 空)「俺は、K大の教育学部を志望しています。そこで、英語の教師になるために、勉強していくつもりです。」


 優)「なるほど、志望理由までしっかり考えられているね。良い目標だと思うよ。」


 優子先生の返答後、ちらりと横を見て、母の反応を確認してみると、一瞬で分かるくらい苛立っていた。


 賢一母)「賢一?あなたは、W大の法学部に行きたいんじゃなかったかしら?私は、K大に行きたいなんて初耳だけれど?」


 優)「本当に初耳なんですか?大学の話は初耳でも、空木くんが教師を目指しているという事は、聞いた事があるのではないですか?」


 賢一母)「えっ、確かに教師を目指すとかは言っていたかもしれないけど、それは一時の気の迷いかと思っていました。」


 空)「母さんは、俺の真剣な訴えを、その程度にしか捉えていなかったのか?」


 賢一母)「だって、私は賢一のためを思って、法律関係の仕事を勧めたのに、まさか反対されるとは思わないじゃない。」


 母さんの発言の後、場は凍りついたかのように静まり返っていた。しかし、優子先生が沈黙を壊した。



 優)「空木さん、それは本当に息子さんの為になると思っているのですか?親のエゴで、将来を決められて、果たして空木くんは嬉しいのでしょうか?」


 賢一母)「エゴって何よ?私はただ、賢一の将来を心配して...」


 空)「母さん!本当に俺を心配しているのなら、俺を操るのではなく、影ながら見守ってくれよ。」


 賢一母)「...賢一を操るつもりなんてなかったの。もしかして、賢一は私に操られていると思っていたの?」


 空)「そう、思っていたさ。それに、縛られて、矯正されている気もしていた。俺は、母さんに、何でもかんでも口出しして欲しくない。自分の将来は、自分で切り開いていきたい。」


 賢一母)「賢一がそこまではっきりと、私に対して意見をぶつけてくるなんて、初めてね。分かったわ、この先の将来、貴方の好きにしてみなさい。」


 空)「うん、そうさせてもらうよ。」


 優)「無事に話がまとまって、良かったです。では、三者面談はこれで終わりに...」


 賢一母)「少し待ってください、大原先生に伝えたい事があります。先程、私を諭してくれてありがとう。多分、貴女の言葉が無かったら、賢一の話をきちんと受け止められなかったわ。」


 優)「いえいえ、私は大した事はしていません。今回は、空木くんが頑張ったんですよ。」


 賢一母)「そうね、賢一の意志がよく伝わったわ。これからも、何かあれば遠慮せずに

伝えてね。」


 空)「分かった、何でも相談するよ。」


 こうして、俺は、優子先生のお陰で変わる事が出来た。そして、今はK大で教育についての勉強をしている。

 まだ、教師になれると決まったわけでは無いけれど、いつか...いつかは優子先生にのような、立派な先生になれるように努力していこうと思う。

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賢一が変わるきっかけ 一ノ瀬 夜月 @itinose-yozuki

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