第16話 これもよくあること……

 真夜中に目が覚めた。

 夜明けにはまだ少しほど遠く、部屋の中はレースカーテン越しに入る外の光で仄暗く浮かび上がっている。


 寝ぼけまなこの私はとりあえず電気のスイッチを入れた。

 点かない。


 ん……。

 何度かスイッチをカチカチといわせるが、天井の照明はまったく反応しない。

 んん、まさかの停電?


 ふと窓に寄って外を見ると、濃紺色の空の下、家々の窓灯りや玄関の灯りか、ポツポツと灯っている。


 ウチだけなのか? 

 薄暗がりの中、小テーブルの上にあった懐中電灯をつけてみた。


 ライトはもう電池が無くなりかけているのか、LEDなのにうすぼんやりとした光しか発しない。

 そこで見回して気がついた。


 自室のドアと玄関に通じるドアは、L字型に隣接している。

 だからこの自室の中から、その玄関廊下に出るドアがすぐに見えるのだが、この時そのドアが開いており、暗闇がぽっかり口を開けていた。


 私はいつも寝る時に自室のドアを開け放しておくが、このドアは閉めている。

 夏場は風通しのために開けたりするが、基本は閉めていることが多い。そうしてこの時もまだ日中20℃いかない、まだ朝は肌寒い時期だった。


 あれ、閉め忘れたのかな。

 などと思いつつ、一歩閉めに出ようかと思ったが、さっきから電気が点かないことといいい、なんだか妙である。

 別にトイレにも行きたくないし、朝になればどうせ明るくなる。

 なのでそこでまた布団に戻った ―― ようである。

 何しろそこから先はよく覚えていない。


 朝 目が覚めて、昨夜の事を思い出した。


 うん、あれは夢だな。

 私が良く見る、明かりが点かないパターンだ。


 まずウチだけ停電なんて、以前の電子レンジの漏電くらいでそうあるもんじゃないし、思い出してみたら窓の外の風景もおかしかった。


 アングルとしては、川かそれなりの平地が間にあるように、少し距離を置いた向こう側に家々の黒いシルエットと明かりの中景があった。

 しかもみんな2階か3階建てだ。


 ここら辺は下町とはいえ、マンションだって近所に1つや2つはあるものだ。ウチだって古いが7階以上はあるし。

 それにあんなに間に何もない空間が長々と見える場所は、川沿いとかに行かないとまず見られない。 


 本来ならクリームシチューのCMに起用されそうな、どこか懐かしい町の情景。自分の家から眺めることが出来るなら嬉しいのだが、残念ながら現在のこの窓の向こう側は隣のマンションの壁で塞がれていた。

 つまり風景など見る事など出来ないのであった。


 やっぱり夢って願望が出るんだなあ。などと思って体を起こした。


 ふと見るとドアの向こう、玄関に通じる扉も開いていた。

 あれ……?


 確か昨日も閉めておいたはず……なんだけど、私の勘違い?? 

 しかし横になっていても、開いているドアから白いドア枠が見えるから、開いていたら分かるはずなのだが。


 まあ、たまたま昨日だけ閉めなかったし、気がつかなかったのかもしれない。


 そう思いながら、例の懐中電灯が気になった。

 これもいざという時にあんな風に電池が少なかったら困る。


 点かなかった。

 え? まさかの電池切れ。

 

 おいおい、だからいざって時にこれだと――なんか夢と同じじゃん。

 

 偶然なのか、ドアと懐中電灯の状態が同じだった。

 まあ、だからどうなんだ、という程度の話なのだが、あの時 部屋から出ていたら何かまた違う事になっていたのだろうか。


 なんとなく見たくもないモノを見そうで、出ないで正解だったと思う。


 とりあえず懐中電灯は時々チェックした方がいいという教訓にはなった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ちょっぴり奇妙……❓な日々是々 青田 空ノ子 @aota_sorako

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

参加中のコンテスト・自主企画