第9話 任務完了

 街に到着して、護衛していた商人と別れる。パーティーのリーダーであるベンが、任務が無事に完了したことを証明するサインが書かれた依頼書を受け取る。そして、商人の中年男性が別れる間際にジェシカ達に話しかけてきた。


「ありがとうございました! お蔭様で無事に助かりました!」

「気にしないで」

「よかったね、商人さん!」


 商人は何度も丁寧に頭を下げて、ジェシカとラウラの二人に感謝を伝える。


「この街に店舗を構えているので、もしよかったら来て下さい。商売の話なら大歓迎なので、是非よろしくお願いします!」


 商人の男はそう言って、ジェシカ達にアピールすると早々に去っていった。


 さて、こちらもお別れだ。そう思っていたジェシカだったが、ベンがあるお願いをする。


「すまないが、冒険者ギルドまで君たちも一緒に来てくれないか。今回の依頼の報告と報酬を受け取る。その中から、君たちに謝礼を渡したいんだ」


 面倒だな、とジェシカは思った。早く、ラウラを服屋に連れていきたいのに。街に到着することが出来たから、謝礼は受け取らずにさっさと別れて先に行こうかしら。


 そんな事を考えていたが、ラウラがそれを止めるようにジェシカの腕を掴んだ。


「ジェシカちゃん、行ってみようよ。冒険者ギルドに興味があるの。ちょっと、見てみたいわ」

「ラウラがそう言うのなら、行きましょう」


 ラウラが見てみたいと言ったので、ジェシカは付き合う。今回の旅の主役は彼女。だから、彼女の望むようにしてあげる。


 こうして、冒険者ギルドに行くとこになった彼女達。ベンのパーティーと一緒に、ジェシカとラウラの二人もギルドの建物まで向かうことになった。


 生まれて初めて、人間が住んでいる街の中を歩くラウラとジェシカ。拠点と比べて小さな街。だけど、拠点と違って人が多く居る。


 珍しそうに街のあちこちを見るラウラ。まるで小さな子供のように、キョロキョロと。


 そしてジェシカも、さり気なく周囲を観察していた。人間達の動きを観察する。街の賑わい、建物の位置、住人達の様子など。どんどん情報を収集していく。この情報を拠点に持ち帰ろうと考えて。


 そんな風に街の中を歩きながら、ベンの後ろについて行くと目的地に到着した。


 冒険者ギルドという看板が見える。


「着いた」


 ベンがそう言いながら、建物のドアを開ける。ベンに続き、皆が建物の中に入る。扉の向こう側には広い空間があった。そこに冒険者達が集まっていた。


 彼らはテーブル席に座っていたり、受付のカウンター前に並んでいた。


 建物の中に入ったジェシカが、冒険者達の注目を一斉に集めた。彼らの視線が彼女に突き刺さる。しかしジェシカは何も気にせず、ベン達の後ろをついていく。むしろ彼女以外のパーティーメンバーが、周りからの視線を気にしていた。


「かなり見られているな。やはり、後ろの二人が注目を集めるか」

「さっさと報告を済ませてしまおう。面倒なことが起きる前に」

「そうね」


 いつもと違う周りの雰囲気に戸惑うメンバー達を引き連れて、ベンは急いで受付の女性の元へと移動する。


「すみません。依頼完了の報告を」

「依頼書は、お持ちですか?」

「これです」

「確認しますので、少々お待ちください」


 ベンが受付嬢に依頼完了の報告をする。パーティーメンバー達の後ろに立って、黙ったまま様子を眺めているジェシカとラウラ。


「……はい、確かに受け取りました。これで、今回の依頼は達成となります。お疲れ様でした」

「ありがとうございます。あと、他にも報告することが」

「はい、なんでしょうか?」


 依頼を達成したことを確認した受付嬢は、笑顔を浮かべてベンに話しかける。まだ報告することがある。ベンが続けて話すと、受付嬢は少し首を傾げて聞いた。


「我々はモンスターの大群に襲われて、かなり危ない状況だった。魔の森付近にある危険地帯から、少しだけ離れた場所だ。商人達がよく利用している、あのルートだが危ないぞ。まだ、モンスターの大群が潜んでいるかもしれない」


 ベンの話を聞いた受付嬢は、とても深刻そうな表情になる。そして、依頼書をもう一度見てから、その詳細を確認した。


「なるほど、あのルートですね。もう少し状況を詳しく説明して下さい」

「地図で説明すると場所は、ここで──」


 ベンが、モンスターの大群に襲われたことをギルドに報告する。


 モンスターに襲われた位置と状況、種類や数などを詳しく説明して、そのルートの危険性をしっかり伝えていた。




「すまない、待たせてしまって」

「いいえ」


 その通りだと思ったが、何も文句を言わずに会話を先に進めるジェシカ。


「これが、我々を助けてくれたお礼だ」


 お金の入った袋を渡してくれるベン。ジェシカが受け取ろうとした、その瞬間。


「ちょっと待ってください! 勝手に何をやっているんですか!?」


 受付嬢が、ジェシカ達の会話に割り込んできた。

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【未完】元勇者が創った最強の魔導人形~敬愛する御主人様のために行動する、彼女達の活動~ キョウキョウ @kyoukyou

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