第8話 街へ

 その集団は、街を目指して森の中を突き進んでいた。


 ベンがリーダーを務めているパーティーは、商人を護衛している最中だった。街にある鍛冶屋まで素材を運んでいる途中でモンスターの大群に襲われて、荷物を載せた馬車を捨てて逃げようとした。しかし、逃げ切れずに捕捉されてしまった。


 一人が負傷してしまい、負傷した仲間を見捨てるのか戦うのか。覚悟を決めないといけなくなった瞬間に、ジェシカ達が現れてベン達は助かった。


 捨てた荷物を回収しに行くと、奇跡的に馬車は無事だった。馬も生きていたので、再び走らせることが可能だった。商人は大喜びで、早く街へ向かおうと皆を急かして出発する。これほどまでに危険な道中になるとは予想していなかった彼は、次回から別のルートで移動しようと考えながら、商品を無事に街へ届けられるように祈った。


 負傷した冒険者一名と商品を載せた馬車が走る。その周りを、まだ戦える冒険者とラウラ、ジェシカが歩きながら周囲を警戒していた。進むスピードは、かなり遅い。街に到着するまで、数日かかる予定だった。




 その数日間、ジェシカは一緒に過ごしている冒険者の様子を観察していた。


 戦闘能力は低い。ラウラが4対1で戦って、絶対に負けないぐらいの実力。それが冒険者の平均的な強さなのか。それとも、このパーティーのメンバーの実力が特別に低いだけなのか。それは分からない。他の冒険者を見て、比較してみないと。


 とにかく、彼らに対して警戒する必要はなさそうね……。ジェシカは判断する。


 旅の経験は豊富そうだ。慣れた様子で森の中を進み、周囲に目を配っている。戦闘中の判断にも迷いがない。気を抜かなければ、モンスターの大群にも対処することは可能。休憩になったら、素早く野営の準備をする。ジェシカには真似ができないほど手際が良い。




 一方でベン達も、女性二人の様子を念入りに観察していた。


 信じられないぐらい高い実力があって、美しい容姿をしている。自分達よりも明らかに年下だが、中堅冒険者として一目置く存在だと判断した。


 しかし、不自然な点も多くある。


 あれだけの実力があるのに、ただの旅人を名乗っている。遠くから来たと言っていたのに、服や装備の損傷が少ない。使い込まれた様子がない。まるで、新品のようにダメージが無いぐらい。


 それから、街の位置も分からないまま魔の森付近を彷徨っていた様子。あんな危険地帯に、よく無事でいられたものだ。あれ程の実力があるから、問題は無いのか。


 それに、一緒に過ごしている間に感じる違和感があった。けれども、その違和感の正体が分からない。なんとなく普通とは違うような気がする、という曖昧なものだ。いくら考えても、分からない。


「………どうしました?」

「いや、なんでもない」

「……?」


 ジェシカの問いかけに、彼女を凝視していたベンは慌てて首を振る。助けてくれた人達を疑い続けるのは良くない。これから、彼女達と仲良くなりたいから。あれほどまでの実力者と知り合いになれたのだから、この機会に交流したいと思っていた。


 しかしジェシカは、街に到着して報酬を受け取ったら、すぐに彼らと別れるつもりで居た。気まぐれに助けただけの存在でしかない。ラウラは色々と話していたけど、他愛も無い話を適当にしているだけ。ジェシカの考えと同じように、彼らとの関係を深めようとは思っていない。


 そんな感じで一定の距離を保ちながら、ようやく街に到着した。

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