第51話 後日談

 ノアが目を覚ましたのは、戦いの影響でボロボロになったイデアとブルーノのログハウスの寝室。


「知らない天井だ……」


 天上に空いた穴から外の景色が見える。

 そんな前衛的な天井を見て思わずそう言葉が漏れる。


「ふえっ、ふえっ、ふえっ……言ってくれるじゃないか。私たちのログハウスを破壊したのは他でもない、ノアだというのにねぇ」

「そう言ってやるな。ワシらの力が及ばなかった結果がこれじゃ。まったく、歳は取りたくないのぅ」

「キュイキュイ!」


 イデアやブルーノ、ホーン・ラビットの声に目を見開くと、ノアはガバリと起きる。


「――イ、イデアさん? ブルーノさん? ホーン・ラビット⁇」


 ホーン・ラビットの姿に変わりはない。

 愛らしい表情を浮かべ、ノアのお腹の上で「キュイキュイ」と鳴いている。

 問題は、イデアとブルーノの姿。


「あ、あれ? おかしいな……(――もしかして、ここは、夢の中だったりするのだろうか⁇)」


 ノアの目に映るイデアとブルーノの姿が、夢の中の世界で邂逅した若い時のイデアとブルーノに酷似している。


「(――いや、でもほんの少し老けているような……)痛っ⁉︎」


 そう考えた瞬間、イデアに額を弾かれる。


「ふえっ、ふえっ、ふえっ……老けてて悪かったね。安心しな、ここは夢の中じゃない。現実世界だよ」

「えっ、じゃあなんで……」


 ノアが不思議そうな表情を浮かべると、イデアは笑みを浮かべる。


「それは、こいつが私たちと『共有』しステータスを『リセット』したからさ」


 イデアは自分の影に手を突っ込むと、中からグルグル巻きにされたダグラスを取り出した。


むむー放せむむ俺をむむー放せ!」


 ダグラスは影から出されるや否や身をよじり暴れまくる。

 その姿はまるで、釣られた魚が逃げるため、身を捩って暴れているよう。

 イデアはダグラスを再び影の中に放り込むと話を続ける。


「――どこから話をしようかねぇ……まず呪体になったダグラスがなぜ、生きているのか話そうか……こいつはね。用意周到なことにライフを一つ残していたのさ……」


 ライフというのは、ダグラスが『同族殺し』の効果で奪い取った傭兵団の団長、ミギーのスキル『リライフ』により作られる仮の命。


「……ノアが呪体を倒した後、ダグラスは自分に付与していたライフの効果により蘇生したんだ。ただ、呪体にされた際、スキルとステータスを奪われてしまったんだろうね。爺さんがステータスを確認した時には、すべて初期化されていたよ」

「……そうなんですか」

「ああ、本当は殺してやりたかったが、こいつにはまだ聞かなければならないことがあるからね。とりあえず、聞きたいことすべてを聞き出すまでの間、影の中に軟禁しているという訳さ」


 複雑な心境だ。とはいえ、ダグラスが生きていたことで、レジーナたちの遺体の在処を聞き出し弔うことができるのも確か。

 ダグラスは決して許されざる行いをした。

 それは、国法に基づいて処罰して貰うとしよう。


「……ダグラスの件についてはわかりました。それで、イデアさんとブルーノさんが若返った理由はなんですか?」


 そう尋ねると、イデアは嬉しそうな表情を浮かべる。


「ああ、それはね。私たちに掛けられていた老化の魔法が解けたためだよ。他でもない。ノアのスキルのお陰でね……」


 話によると、イデアさんたちは、悪い魔法使いに不意を突かれ解呪不能の魔法『老化』を身に受けてしまったようだ。

 その老化の魔法は術者死亡により解呪不能となり、イデアさんたちの体を蝕んでいた。

 死を覚悟し俺を育てる過程で今回の戦いが始まり、ダグラスがイデアさんとブルーノさんのステータスを『共有』し、『リセット』したことで、解呪不能の魔法『老化』の効果も無くなり、本来の寿命となったことで若返りを果したと、そういうことらしい。


「ふえっ、ふえっ、ふえっ……総括するんじゃないよ。だがまあ、概ね、その通りだけどねぇ」


 しかし、それだとまだ疑問が残る。


「『リセット』により老化が解呪されたことはわかったのですが、イデアさんも、ブルーノさんもステータスが『リセット』されているのにどうやってあの場に駆け付けることができたんですか?」


 ステータスがリセットされたということは、すべてのステータス値が1になったということ……歩くことすら叶わないはずだ。


 ノアがそう尋ねると、ブルーノが髭を撫でながら答える。


「丁度、ワシの手元にステータスが付与された『同化の指輪』が二つあってのぅ。それを使わせて貰ったんじゃ」

「えっ……なんでそんなものが二つも……?」


 詳しく話を聞くと、ブルーノの戦斧、大蛇ヨルムンガルドの腹から二つ『同化の指輪』が出てきたらしい。

 ダグラス傭兵団には二人の準到達者がいた。

 おそらくこれは、その二人が身に着けていたものだろう。


「さて、大体の話は終えたし、そろそろ行こうか……」

「えっ? どこに行くんですか?」


 ポカンとした表情でそう尋ねると、イデアはノアの腕を引きながら言う。


「ふえっ、ふえっ、ふえっ……決まっているだろう? 死者を弔いに行くのさ」


 そう言って、連れて来られたのは、サクシュ村跡地。

 村の中心にある教会前には、十字が刻まれたプレート型の墓石が無数に並べられている。


「三日……ノアが寝ている間に、埋葬は済ませておいたよ。もちろん、あの娘の遺体もね」


 ダグラスから聞き出したのだろう。

 教会の近くの一番日の当たる所に、ノアが『付与』のスキルを賜った日に出会ったウールと、ダグラスにスキルを奪われ呪の元となったレジーナの墓石が設置してある。


「さて、ノアよ。私にできるのはここまでだ。最後は、ノア自身の力で皆を弔ってやりな」

「えっ? でも、どうやって……」


 そう呟くと、イデアはノアの左耳を指差す。

 ノアの左耳には『同化のピアス』が取り付けられていた。


「それを使って弔ってやればいい。私なんかよりも、ノアに弔われた方が、あの娘も喜ぶだろうよ」

「――はい」


 教会で故人を弔う時、神父様が使用する魔法がある。


「ホーン・ラビット、少しスキルを借りるよ?」

「キュイ?」


 ノアは、いつの間にか足元にいたホーン・ラビットの『聖魔法』を『共有』し、ありったけの魔力を込めて呟いた。


「『聖域』」


 そう告げると、村全体を囲むように地面から光の柱が立ち上り、埋葬された村人たちを弔っていく。


『――ありがとう、ノア』


 ふと、耳元に聞こえてきたレジーナの声。

 しかし、振り向いてもそこには誰もいない。


「さて、そろそろ、帰ろうかねぇ。ノア」

「そうじゃな、ノアにはまだまだ伝えたいことが沢山あるしのぅ」

「キュイキュイ!」


 いつの間にか肩に乗っているホーン・ラビット。

 イデアとブルーノに手を引かれると、ノアは一度だけ村に視線を向けただ一言。

「行ってきます」と呟いた。


 第一章・完


 ─────────────────────


 あとがき


 これで、第一部完結です!

 読んで頂きありがとうございます。

 第一部完まで長い時間が掛かってしまいました。


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『付与』して『リセット』!ハズレスキルを駆使し、理不尽な世界で成り上がる! びーぜろ @b090057

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