ソウゾウ絵描き屋はじめました
蒼夜
第1話 ソウゾウ師、店を開く
生まれながらにして何かしらの特殊な能力をもつこの世界で、俺はソウゾウする力を持って生まれた。
その能力が初めて発現したのは三歳の頃、親に買ってもらったクレヨンで車の絵を書いたら絵そのままの車が紙から現れた。幼かった俺は気にせずその車で遊んでいたのだが、母がそれを見つけて目玉を落していたのを今でもよく覚えている。基本的に発現する能力は親と一緒か親の能力に近い能力だった為、親は感情がそのまま体現される能力だろうと予想していたらしい。ちなみに父親の能力は物に想像した色を付ける能力だ。まさかそのハイブリッド的能力が生まれるとは思わなかったのだろう。父は驚きで落とした母の目玉をカラフルにしていた。
そんなこんなで、絵を学ばされ画家顔負けの絵のスキルを手に入れることができた。まあ、その道のりも描いた絵が全て現れてしまう為、簡単では無かったわけだが…。
「ソウゾウ絵描き屋、これはきっと儲かるぞ」
二十歳になった俺は意気揚々と自分の店を持った。店は沢山の人が来るだろうと他の店に迷惑をかけてもいけないと思い街中を避け、少し離れた丘の上にポツンと建てた。
しかしこれからの忙しさに胸躍らせ開店してみるも、待っていたのは暇、ひま、ひ、ま……
「なんでだあ!?!なぜこんな便利な能力を誰も利用しない!!!」
行列どころか、人っ子一人来やしなかった。俺はがらんとただ広いだけの店内で打ちひしがれていた。
するとカランコロンと扉の鈴が鳴った。俺は勢いよく顔を上げる。
「いらっしゃいませ!何をお求めで…ってサヨか」
視線の先には腰に手を当てむすっとした表情を浮かべる幼馴染のサヨが居た。
「サヨかとはなによ!せっかく来てあげたのにごあいさつね!」
「どうせ、建屋代の催促だろうが」
机にゴンと額を付けた。豪快な笑い声にげんなりとする。
「ご名答!ってことでリオ、早く払いなさいよ」
「幼馴染だろ、もうちょい多めにみてくれよ…」
「何言ってんの!幼馴染だから先払いしか受け付けて無いところ後払いでも受けてあげたんじゃない!は・や・く・し・て」
はぁと大きなため息を吐いてから机に顎を乗せ顔を上げた。
「今俺が大金持ってるように見えるか?」
「見えないわね」
「そういうことだ、商売の邪魔だ帰ってくれ」
サヨはズカズカと店内へ入って来ると俺が伏せたカウンターに音を立て手を着いた。
「何が商売の邪魔よ!お客さん一人も居ないじゃない!
お金が払えない以上ここは私の店よ!あんたが出て行きなさい!」
「はああ?」
「客の一人でも連れて帰ってくるのね!」
そう言ってサヨは持ち前の腕力で俺の首根っこを掴むと店の外へぽーいと投げ捨てた。スケッチブックとペンが俺に向けて投げられると、無情にも店長を締め出しバタンとドアは閉まった。俺は肩を落しお客さんを探す為、一緒に締め出された仕事道具を持って街へと向かった。
ぶらぶらと街を歩く。お昼のピークはすぎたのだろう。目に入るカフェはどこもゆったりとした雰囲気が流れていた。
「客連れて来いったってなぁ」
接客なんてしたことが無いし、呼び込みなんてもっと分からない。今まで絵しか学んでこなかった。
公園を見つけ適当なベンチに座り込み、俺はうーんと頭を悩ませていた。すると子供の泣き声が風に乗って聞こえてきた。顔を上げると大粒の涙をボロボロと溢しながら公園の前を歩く一人の少女がいた。ひしゃげてしまった白い箱を大事そうに抱えている。
俺はスケッチブックに簡単な絵を描きそれをちぎると、握りしめて少女の元へ向かった。
「お嬢ちゃん、そんなに泣いてどうしたよ。転んだか?」
そう言って屈むと少女はその涙でいっぱいの瞳を俺に向けた。
「ころん、で…っそれで…」
転んだことよりも悲しいことがあったらしく、少女は話そうとするも再びうわああんと泣き出してしまった。俺はそんな少女に先ほど握った拳を見せるように前にだした。
「見ててごらん」
俺は拳をひっくり返し、掌の方を上に向けると少女の視線を拳に誘導してからぱっと手を開いた。
するとさながらマジックショーのように俺の手の平から白い鳥が現れ空に向かって飛んで行った。
「わっすごい!」
涙で濡れていた少女の瞳が輝いた。それに俺はにっと笑みを浮かべた。
「すげぇだろ!
お兄さんね、魔法が使えるんだ。お嬢ちゃんの泣いてた理由、お兄さんに聞かせてくれれば解決できるかもよ?」
少女の頭に手を乗せ「話せるか?」と尋ねると小さく頷いた。
どうやら母に頼まれケーキを受け取りに来たが、ケーキを受け取って帰る途中に転んで落としてしまったらしい。しかもその頼まれたケーキは事前にオーダーしたもので市販で買う事は出来ないらしい。
「中見ても良い?」
「うん…でもぐちゃぐちゃで、」
俯く少女から箱を受け取り中をのぞくと確かに形は崩れてしまっていた。しかし、崩れたケーキを見て俺はこれなら形が分かるぞと安堵していた。昔、俺が絵のコンクールで賞をもらった時、親が用意してくれたケーキと同じ祝いのケーキだった。きっとこの子の家でも何かのお祝いがあるのだろう。
「…もとにもどせるの?」
「戻すわけじゃないけど大丈夫だ!任せろ」
心配そうにこちらを見る少女にぐっと親指を立てた。
そして俺は崩れたケーキに人差し指を突っ込んだ。その指をペロリと舐め味をインプットするとふぅと軽く息を吐きスケッチブックを開いた。昔食べた思い出の味、今食べた味、おめでとうと言う祝いの気持ちを込め祝いのケーキを描いていく。板チョコ部分の文字は書かずに完成だ。
「これちょっと持っててくれる?」
「お兄ちゃんすごい!」
絵から飛び出たケーキを少女に持っててもらい、新しい箱を描いていく。こちらはついでに可愛く仕上げた。遊び心だ。
そして可愛らしい箱にケーキをしまって少女にしっかりと持たせた。
「もう落とすなよ」
「うん!ありがと!」
眩しいくらいの笑顔を浮かべる少女に俺は満足感を覚えた。
少女が何度も振り返りながら帰路へとつく背中を見えなくなるまで眺めていた。きっと帰ったらみんなでお祝いをするのだろう。お客さんは捕まらなかったがまぁこういう日も偶には良いだろうと俺は客の代わりにケーキを買って帰った。
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