第7話 僚友に立つ者たち

俺たちに話しかけてきた立派な甲冑や剣を携えた青年の後ろには、長い杖を持った色白の女性と、バンテージを巻いた褐色の少女、そして大きな盾を持った大男が立っていた。


「あなたたちは?」

俺が問いかけると青年が答えた。

「僕らは君たちの先輩。つまり冒険者でパーティを組んでいるヨルトという者だ」

「パーティ?」

「そうだ。後ろの杖を持った彼女はリオン。こっちのがアスカ。そしてこの大きい男がテインと言って4人で共にクエストをこなしている」

紹介を終えると後ろの三人はそれぞれのタイミングで軽く会釈をした。


「それで…その先輩たちが俺らに何の用なんだ?」

「『デッドバイトワイライト』、それが僕たちのパーティ名さ。DBTのメンバーは現在この4人全員で、基本的には討伐系のクエストを担当している。」


討伐系担当ということは、やはり戦闘に自身のある人たちなのだろう。

「実は君たちがさっき討伐系のクエスト受けた話が聞こえてきてね。ちょっと気になって声を掛けさせてもらったというわけさ」

「…俺たちそんなに声大きかったですか?」

「はは!それほどではなかったけどね。あのクルミさんが怒ってるのが珍しくてつい聞き耳を立ててしまってね」

「クルミさんって言うのはあの受付の?」


青年が「ああ」と答えると、入れ替わるように褐色少女が青年の腕の裾を引っ張りながら話に入ってきた。

「ねぇヨルトー!そんな奴らのことより、早く次のクエストを探しに行こーよー」

「アスカ、わかったからもう少し待ってくれないか」

「そんなやつの事なんて気にしなくてもいいじゃん…。新人なんて今更珍しくもないのにー」

「それはそうだけどね。ただどうしても気になってしまって」

青年はアスカと呼ばれる少女の頭を撫でながら、またこちらに向き直る。




「じゃあ単刀直入にいうけど、僕らにその討伐クエストを手伝わせてくれないか?」

「あぁ…」「えぇ!?」

俺の相槌と同時に、後ろの三人から吃驚きっきょうの声が上がる。

「ちょっと何考えてるの!」

「本当によろしいんですか…?」

「だっはっは!こりゃすんごいこった!」

青年の提案はどうやら彼の独断だったらしく、他の仲間からの賛同は得られていなかった。


「あなたの仲間からは反対されてそうですが…」

「あはは!みたいだね」

「そんな無謀な方、一回痛い目見させりゃいいじゃないの!わざわざ助けてあげる必要なんてありませんわ!」

「まぁまぁそう言わずに」


「僕らはこれでも魔獣討伐には結構覚えがあってね。是非とも同行させてほしいと思っているんだけどどうかな?」

「どうって言われてもな…」

俺今度は自分の仲間の様子を見てみた。

「え?なに?私はいらないわよ?これ以上荷物が増えても庇いきれないわ」

おーい。火に油を注ぐのやめい。

「あなた喧嘩売ってますの?ヨルトがせっかく親切にしてあげているのに…」

「あぁ、いやごめんごめん!彼女はちょっと人見知りで…」


後ろの女子二人がバチバチにやり合っていると、ヨルトと呼ばれていた青年が俺の肩に手を置いてこそっと話しかけてきた。

「お互い苦労するね」

「えぇまぁ…」


「おいおい、もうそれくらいにしとかんかい!」

「そうだぞ!リーダーの事なんだからきっとなにかあるんだって」

後ろで見ていた二人が喧嘩をおっぱじめようというような仲間とユカリを引きはがしに来た。

「あんな失礼な方、いくらヨルトの頼みでも行動を共にするなんてできませんわ!!」

「あたしだってあんたみたいなザコと一緒に外行きたくないわよ」

ユカリに言い返されてプクーっと赤くなっている彼女は屈強な大男に引き下げられていく。


「すまないね…うちのパーティメンバーが」

「いえいえ、こちらこそすみません」

「…で、依頼の同行の件についてなんだけどどうかな?」

「うーんそうですねぇ…」

正直、あんだけバチバチの二人を見て良いですよとは答えづらい。

「あ、もちろん報酬については全額そちらが受け取ってくれて大丈夫だよ」

「ちょ、ちょっと!?それじゃあただ働きになるじゃない!!」

大男に抑え込まれながらもこっちの話には聞き耳を立てていた彼女が騒ぎ立てる。


しかし、それは至極当然の主張であり、かくいう俺もさすがにどうなんだと思わざるを得ない提案だった。

「ははは!まぁいいかいいから。これでもうちのパーティは結構稼いでるからね。正直クエストの一つや二つ、無報酬でも問題ないのさ」

「はぁ…」

この世にはタダより高い物はないなんていう言葉があるように、正直何か裏があるんじゃないかという疑念を拭えないでいる。


「報酬が無くてもいいのは分かりますが、そうまでしてって何なんですか?」

「……」

青年は一瞬黙ってしまった。

やはり何か隠しているのかと思っていると、彼がこっそり耳打ちしてきた。

「ここではちょっと言いづらいから、もし引き受けてくれたら道中で話すって事じゃダメかな?」

うむ。この提案をどうとるかは結構重要な選択になりそうだ。


疑う気持ちを重視するなら、これはどう考えても怪しい提案だ。

後でもっともな理由をつけて納得させるため、今は一旦手を結ぶことで心理的に油断させるといったところか。


逆に、これが本当の意味で内密な話だとすると、おそらく新人であることやこちらの何かしらの魅力的な条件で持ち掛けてきた話かもしれない。

もしそうなれば、むしろこちらに有利。というか、事と次第によってはいろいろと都合の良い展開が待っている可能性もあるか…。




「わかった。ここは一つよろしく頼むと致しましょうか」

「おお!そうか!!」

パッと喜ぶ青年の向こうで、呪詛を掛けるようにこちらを睨む女の存在が気になって仕方がない。


「ねぇ、どういうつもり?」

自分仲間を納得させるために青年ヨルトが離れると、後ろからユカリがこっそり話しかけてきた。

「まぁ見た感じそれほど悪いことを企んでる感じはしなかったし、何より俺たちは今あまりに情報不足だ。ついでに彼らからいろいろ話を聞いてきたくてね」

「つまり「じょうほうしゅうしゅう」ってやつね?」

「う、うんまぁそうだな」

相変わらず語彙が怪しいユカリは、ちょっと鼻高々とさせながら納得してくれた。




「じゃ、じゃあとりあえず今回は彼らのクエストを全力でサポートするってことでみんないいかな?」

「おう!」「うん!」「えぇ…」

約一名あまり賛同を得たか怪しい声もあったが、どうやらあちらも話はまとまったようすだ。


「では改めてよろしく!えーっと…」

「ケイヤです。こっちはユカリ」

「ケイヤとユカリさんだね。これからよろしく」


俺とユカリはそれぞれ青年と握手を交わすと、二人の仲間とも続いて握手をした。

「…一応、よろしくですわ」

「はい、よろしくお願いします」

距離を置かれ握手こそしていないものの、挨拶だけはしてくれた杖持ちの彼女のことはこれから徐々に慣れていくしかなさそうだ。


そうして俺たちは、冒険者としてパーティを組むことになったのだった。



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シビトノトモシビ はじかみ あおい @P-man2308

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