第9話 罪と罰に向き合って
「獲物ハ……ドコダ……」
大広間に迷い込んだのは、一人の男。男はスーツを着ているが、ボロボロの布切れに近くなっていた。おまけに髪もぼさぼさで整えられていない。傍から見れば不清潔な人間だと思われる。
「アルファ班、突撃!」
ドアを破って現れたのは、武装兵士の小隊。小銃はもちろん、ランチャーやガトリング、ライフルを持った兵士までいる。小隊は男の周りを囲むと、リーダーの男が一歩前に出る。
「我々はお前の殺害を容認されている。大人しく降伏しろ」
「…………」
黙る男に向けてリーダーが威嚇射撃をした。
「聞いているのか。我々は――」
リーダーは、男の周りを何かが囲んでいることに気づいた。毒か? それとも瘴気? リーダーは一瞬考えたものの、小隊に命令する。
「その男を撃ち殺せ!」
鳴り響く銃声。ガラスは砕け、家具も形状が保てないほどに壊れていく。そんな中、男の体は傷一つ付いていなかった。
驚きを隠せず硬直する小隊の前で、男の体が変化していく。足、胴体、顔と、鬼のような、狼のような“ナニカ”を纏う。
「グオオオオオオオオオオン!」
雄叫びを上げた“ソイツ”は小隊を瞬く間に殺害すると、天井を突き破って逃げて行った。装鬼と恐れられる存在が誕生した瞬間だった。
「装鬼……?」
「そうだ。昨日、アルファ小隊が全員惨殺される事件が起きた」
装鬼が現れたのは昨日。ハイネストにふらりと現れたスーツの男がそいつではないかという噂が立っているが、定かではない。
どうやら集められたのはそれについての報告だけだったそう。まあ、ついて行ったヨイトは話を聞かなかったせいでファルンに説明を受けているのだが。
「王子のくせに話聞かないとか最低ぴょん」
「失礼だな! 僕は君臨もしていないし統治もしていないんだよ!」
「お前がいなくても国が成り立つという意味だ、第二王子」
「ああ……つまりはそいつが現れるかもしれないから気を付けるようにということだろう?」
「物分かりがいいな」
ファルンの説明のお陰だが……。ヨイトはベッドで眠り続けるヨイヤミを見ながらレイルに話しかける。
「ヨイヤミくんは寝ていないのかい? 疲れが溜まっているのはわからないじゃないが」
「“地”の五十階層まで行ったとか聞いたときは流石に驚いたぴょん。あいつがそんなことできるって思わなかったけど」
レイルは眠るヨイヤミに近づいて呼吸を確認する。
「生きてる。大丈夫ぴょん。そのうち目が覚めて変なこと言い出すからほっとけばいいぴょん」
ファルンもなにか言おうとしたが、家の裏から強烈な憎悪を感じた。
「外に鬼がいる」
「……!」
ファルンは物音を立てずに外へ出る。続いて二人も外へ出る。裏庭に入ると、スーツの男がこちらをじっと見つめていた。
「…………」
男は無言でその場を立ち去った。
レイルは大きなあくびをして家に戻る。ファルンもヨイトもレイルに続き戻る。
「寝る」
一言残してベッドにダイブしたレイルは、ヨイヤミの上で寝息をたて始めた。
ファルンとヨイトは椅子に座ると、真面目な顔で相対する。
「私は闇を追いかけていたのだが、正体を掴めていない。お前が知っていることがあれば教えて欲しい」
「ヨイヤミくんがそうだ」
ヨイトの言葉に首を傾げるファルン。
「そんなはずはない。あいつは闇ではないと言った。自分は知らないと、そう……」
「闇はね、思う以上に力を付けている」
ファルンは一度黙り、ヨイトの話に耳を貸した。
「君の記憶と本の情報から僕なりの定義を組ませてもらった。確かに闇はヨイヤミくんだ。ただ、リネールは滅ぼしていない」
「……なに?」
「闇は眷属を生み出せる。過去に一人生み出され、リネールを滅ぼした。リネールは後にハイネストとなり、復興した」
「……府に落ちた」
「そりゃあどうも」
ヨイトは礼を言うと、外を歩くと言って出て行った。
焦っている。正直な感想はそれだ。自分の近くに闇がいる。でも気づくことが出来なかった不甲斐なさ。ヨイヤミを信じかけていたこと。
復讐すべき相手が、側にいたというのに……!
「……私は、お前を許せないな。ヨイヤミ」
「グオオオオオオオオッ!!」
悲鳴が聞こえる。ハイネストが壊されていく。装鬼が現れた。
「お、俺が……相手だ!」
装鬼の前に現れた冒険者。自分を奮い立たせて装鬼に立ち向かう。が、気づいたときには意識が消えていた。
それを見た冒険者は次々に逃げていくものの、装鬼によって殺されていく。血が広がり、人が赤く染まる。
冒険者も、住人も関係なく死んでいく。男も女も子供も、装鬼に見つかれば殺される。
いつしか、死体の山が出来上がっていた。
「ヤミハ、俺ガコロス……!」
装鬼はハイネストの中心へ歩き出す。闇を、殺すために。
「冒険者はすぐに集まって下さい! 緊急です!」
本部はてんてこ舞い。装鬼が現れた。それだけで一大事なのに、冒険者も住人も関係なく殺していくのだから、手が負えない。
「……どうしましょう。冒険者の十分の一が殺されてしまったみたいです」
職員の一人が私に報告する。ああもう! せめてゆっくりさせてよ!
「住人の避難をお願い。エルフの里の近くなら安全だからそこで。冒険者には私から事情を説明するから急いで!」
今出来る最大限のことをする。私に出来るのはそれだけ。ヨイヤミくん達が何とかしてくれると願うしかない。
冒険者が段々集まってきた。さて、大仕事を始めよう……!
「レイル嬢、ファルン嬢。ギルド本部前にある大橋に集合だ。装鬼と戦う」
「……兎、行くぞ」
ファルンはレイルを起こし、ヨイトと共に家を出る。
装鬼との決戦が、幕を開けるのだった。
異世界転生して勇者パーティーに誘われたけど追放された俺のスキルは最強なのでぼっちでも戦えます 誘惑のカラメル @asert
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