「好きだったんだ、高校のとき」

第1話

「好きだったんだ、高校のとき」


 彼のつぶやきに、私の可憐なハートは一瞬にして、跳ねて飛び出しそうになった。


 今日は青空デート。

 映画館とか、おうちとかより、久しぶりに外でって。

 それに素直にうなずく私。


 公園で、彼の目の先にあったのは……。


 きれいな女の人!


「な、何を言い出すのよ!」

「へ? いやあ、高校んときにさ……」

「むかしのことに、まだ未練たらたらなわけ?!」

「なにを、怒ってるんだよ」

 腹立つ……。

 へらへら笑っているのがなおさら!


「わ、私が、今は、私を……」

「好きだったんだよなあ、高校に迷い込んでくる猫が」


 へえ?


 猛然と立ち上がった、私のこぶしは宙をさまよう。


 よく見れば、タイトスカートもきれいにしゃがんだ彼女は、猫を撫でている。

 地域猫かな? ゴロゴロ喉を鳴らして、お姉さんにすり寄ってる。

 そういえば彼、猫アレルギー。


「ああ、思いっきり、猫を撫でたいなあ」


 猫を撫でるより、私を撫でなさいよ。


「ん? どうした?」

「なんでもない!」


 プイと横向いて、すねちゃったりしたら、彼、今度はスマホをいじりだした。


「好きだったんだ、高校のとき」


 今度は、なに!!


「このゲーム、まだやっていたんだよなあ。俺もまあ、飽きもせず続けてるもんだよ」

「そ、そうね」

「これのイベントの時さ、おまえのことをほっておいたりもしてさ」

「あ! もしかして、あの時って……!」

「いやあ、悪い悪い」


 悪いじゃない!


 今度こそ、立ち上がり、怒りのこぶしを彼に……。


「これももう、卒業する」


 スマホを置いた彼は、神妙な顔で……。


「結婚しよう」


 捧げられた指輪。


 私の答えはもちろん……。

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