短編小説 片思い
H.K
短編小説 片思い
結局のところ、僕は君を愛していなかったんだ。好きでいたのは確かだ。
僕は君と同じ空間にいたいと思ったし、同じ時間の流れに乗りたかった。
その空間と時間の中で、セックスさえしたいとも思えるようになっていた。
僕は君に好きだということだけは伝えることができた。
でも、君は僕の全てを受け入れられないみたいだ。君は遠回しに優しく、僕を諭してくれた。でも、その理由が分かっているようで分からないようで。
僕のある一面だけしか見たくないみたいだ。『あなたのそんなところ尊敬はしてます』とはいってくれた。
抗おうとしたけど、やめた。君に嫌な想いをさせたくないと思ったから。
いや、ただ嫌われたくなかっただけ、自分の身を守っただけなんだ、きっと。
ただただ、保身に走っただけなんだ、僕は。
最初から、君のことを愛してはいなかったのだろうか。
今になっては、もう、分からない。
僕は、今になって、異性を愛することがどういうことなのか、分からないんだ。
諦め、妥協、きっかけ、どんな手立てで心の中に落とし込めばいいのか、分からない。
分からないまま、朽ちていくのかもしれない。
もう少し、時間が経つと、分からないまま、朽ち果てることを受け入れそうだ。
そうなってくれないと苦し過ぎる。
君と会えて、得られたことは、僕自身が君を愛してはいなかったことがわかった。君に恋はしたはずなのに、恐らく。
君に会えて、嬉しかったことは、君が困っていて、僕が手を差し伸べて解決する糸口がみつかると、君は感心した眼差し、納得した安心な表情、喜んだ笑顔を見せてくれた。
これは癖になってしまう。
だから、僕は君に嫌な想いをさせないように、工夫して手を差し伸べていた。君は益々、輝いていった。でも、僕の苦しさは増すばかり、辛くなった。
だから、君から離れることを決意した。君には何も告げず。
それと、いろんな場面で、君のあんな表情が見られるようになったから、少しだけ、僕の辛さが減っていた。
飛行機に乗って、遠くにきてみたものの、偶に、君の笑顔が後頭葉から前頭葉に通り過ぎていく。
君が好きであることは絶対口にしない。
墓場に持っていくようにすることを決めた。
終
短編小説 片思い H.K @st3329
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