文字が読めないヨぉ
渡されたマニュアル本らしきものを、捲れど捲れど文字が読める気はしない。
「まいったなぁ」
どうして会話は出来るのに文字は読めないのか。この世界に飛ばした神様は馬鹿なのか、どこか抜けているのか。そもそも、オレがこの世界に来たのが神様のお陰かどうかもわかないが、責任の所在を作りたかった。
どうにかして解読できないかと四苦八苦していると、とんとん、と誰かが扉をノックした。
店長であればそのまま入ってくるだろうが、一向に部屋に来る様子がない。そうなれば店長以外の人物か。
「どうぞ」
一声入れてみると、恐る恐ると言うようにゆっくりと扉が開いた。
「し、失礼します」
怯えた表情で部屋に入ってきたのは、この世界に来た時、初めて出会った少女だった。先日は学生服のようなものを着ていたが、現在は店の制服を着ている。
「……先日は泥棒と勘違いしてしまって、申し訳ございませんでした!」
少女は深々と腰を曲げた。
「あ、いや、そんな、謝らないでください」
あの状況であれば、強盗——あるいは、変態だと思われても致し方ないことだ。
「店長から新しいアルバイトの方だと聞きました。部屋で待っているように言っていたのに、泥棒だと勘違いしてしまう店長も店長ですけどね」
「そ、そうですねー」
どうやら店長は上手く話を進めているようだ。であれば、その方向で話を進めるしかない。
「ちょっと色々手違いがあったようで、すみませんでした」
「いえ、こっちもすみません」
なんだか申し訳ない気持ちになってきた。彼女には不本意ながら、俺のブツを見せつけているわけだし。
「ところで、この店のマニュアル本って読んだことある?」
「はい、ありますけど……目を通しただけですよ? あの分厚さのものを覚えろっていう方が無茶です」
「ってことは、文字が読めるんだね?」
「え? 質問の意図がわかりません」
「ごめんごめん。実はさ、オレもマニュアル本を渡されたんだけど、文字が読めなくてさ」
机に置かれたマニュアル本を、触れてはいけないもののように指で弾く。
「なるほど、そういうことでしたか。無礼を承知でお尋ねしますが、学校には行ったことありますか?」
「……いや」
勿論と頷こうとして、首を横に振った。日本の学校には行っていたが、この世界の学校には行っていないからだ。
「あなた、もしかして遠い国から来たんですか? 周辺国では教育保障がきちんとしていますので」
「そうです。遠い、もの凄く遠い国から来たものですから」
「なるほど。ですが、文字が読めないと色々困りますね。マニュアルも読めないのはかなり困ります」
「困ります、ね」
「…………」
「…………」
「………………」
「………………」
「……………………よかったら、学園に来ませんか?」
<あとがき>
はっぴー
コンビニ店員だったオレが異世界転生したらバイト先が神ってたので無理なく平穏に暮らす 四志・零御・フォーファウンド @lalvandad123
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