研修開始と大問題
「さて、何から教えようか」
例の倉庫に再びやって来たオレは店長のムジートさんから直々に研修を受けることになった。
コンビニバイトを始めた頃を思い出す。当時もこんな感じだったな。この世界に飛ばされてからまだ数日しか経っていないが、もう10年は過ぎ去ったように懐かしく思えた。
「コンビニバイトの経験はあるのか?」
「……えっと」
ここは、はいと答えるべきなのだろうか。経験はあるものの、それはオレのいた世界での出来事であってこの世界で働いた経験はない。勝手が大きく異なるかもしれないと思い、首を横に振る。
「ないですね。田舎者だったので家の手伝いぐらいしかやったことはありません」
「なるほど。それじゃあゆっくり教えていくから安心してくれ」
「はい、ありがとうございます。これからよろしくお願いします!」
「じゃあ、このマニュアル読み込んでおいてくれ。分からなかった箇所は後で聞いてくれ。それじゃ!」
店長は辞書のような分厚い本を取り出すと、ドスンと机に置いて部屋から出て行ってしまった。
「……はぁ?」
新人を放置しやがった。なんだその教育方針は? ゆっくり教えてくとは何だったのか。とんでもない店長がいる店に来てしまったようだ。この先が思いやられる。
とりあえず未来のことを嘆いても仕方がないので、分厚い辞書らしきものを読んでみるか。
おそらく業務マニュアルだろが、こんなもの渡されたのは初めてだ。もっと単純化されたマニュアルはなかろうか。
ページを捲って、あることに気づいた。
何も違和感なく今まで過ごしてきたが、その問題に行き付くことはなかった。どうして今まで気が付かなかったのかと言われればそれまでだが、これは巧妙に隠された罠であり、大胆な落とし穴だった。
異世界人とは難無く会話が出来ていた。
しかし、――オレはこの世界の文字が読めなかった。
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