ほな、知らんけど
部屋の中には高値が付きそうな絵画や壺、食器などが飾ってある高貴な空間だった。
中央の安楽椅子には足を組んで座る金髪の女性が座っていた。透き通った赤い瞳がこちらをじっと見つめている。
「あのぉ……」
恐る恐る尋ねる俺に、彼女は威圧的な声で返答した。
「なんや、あーしに話しかける時はハキハキと喋らんかい」
関西弁訛りのような強い口調。見た目に反して随分と威厳があるようだ。
「……俺は一体どうなるんですか?」
「ほなそれはジブンの回答次第やな。どない理由であーしの店の倉庫にいたんか言うてみいや」
足を組み替え、眉間にシワを寄せて俺のことを凝視する。
「そ、それが、気が付いたらそこにいたんです」
「……はァ? ホンマに言うとるんか? ジブンがどない状況に置かれてるかぎょーさん考えや!」
「信じてください!」
「……ほな、どこの出身や」
「日本です」
「どこの国や。聞いたことないなあ」
「夜中に仕事をしてたら、車が突っ込んできて、気が付いたらあの倉庫にいたんです」
嘘偽りのない言葉だった。
だが、この話を信じてくれるかは彼女次第だ。
「――まさか転移魔法。いやまさか。そんなはずはあらへん。あれは王族のみが扱える品物。魔王との戦いも終わった今、あんな魔法を使う意味もないやないか」
「ああ、アカン。分からんくなってもうた。おい、店長!」
『はい! 何でございましょうか!』
扉越しに彼の声が聞こえてきた。
「例の水晶持ってきてくれ」
『御意!』
しばらくすると、店長が戻って来た。大慌てだったようで、息も絶え絶えに膝に手を突いていた。
「お持たせ……しまし……た……」
「そうそう、これや。この水晶を使えばステータスを見れるんや」
ミーシェは水晶をテーブルに置いて両手を水晶の上に近づけた。
「ふーむ。これは……ホンマかいな」
ミーシェは少しかんがえこむように首を捻る。
「いかがでしたか?」
「出身地は不明。犯罪歴無し。体力やら魔力やらの数値も不明。なんやキモイやっちゃなあ」
「そうなれば、本当に召喚されたのでは?」
「そうとも言い切れないのがなぁ。でも、ジブンは牢屋に入るべきでは無かったことは分かったわ。それは素直に謝罪しとくわ。すまんかったな」
膝に手を突いて上半身を傾けた。長い髪が肩からさらさらと落ちる。
「いえ、誤解が解けたのであればこちらも――」
「――それはそれとして……」
ミーシェが顔を上げて口角をにっと上げる。
「倉庫の品物が何個か壊れててな。一体誰が壊したんか、ジブン、知っとるか?」
「い、いいえ。知らないです」
「ほーん、ジブンが現れる前には、綺麗な状態で置いてあったんやけどな。ほーーーーん、えらい可笑しな話もあるもんやなぁ?」
「……そうですねぇ」
「ところで、このポンコツの店はえらい人員不足でな。そのせいで修繕に人員が回せないんやったかぁー」
顔は笑顔なのに目が一切笑っていない。怖い。
これは覚悟を決めなればならない。こんな右も左も分からない異世界の地で強制労働みたいなことになってしまうが、野垂れ死にを晒すよりはマシだ。
「で、では、是非、働かせて貰えませんか?」
「おーっ、ホンマか!? えらい助かるわ! ほな明日から早速研修や。ジブン、どこに住んでるん」
「それが、家が無くて……」
「野宿かいな。流石にそれはアカンな。ひとまずその店長の家に泊まらせて貰え」
「ちょ、ミーシェ様それは――」
「なんか、文句あるん?」
「い、いえ。何でもございません」
こうして、無事? 寝床も確保して、俺の異世界生活が始まるのだった。
<あとがき>
オレたちの闘いは、始まったばかりだぜ!!!
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