ぺいんとぼーる!
それからは早かった。
「一体どうしたんだ!」
悲鳴を聞きつけた男が駆けつけ、俺のことを見て目を丸くする。
「て、店長、ヘンタイの泥棒ですっ!」
「……まさかドルシスさんの店に素っ裸の泥棒が入るなんていい度胸してるじゃねえか」
素っ裸の泥棒とは不名誉この上ない。
「ち、違うんです! 気が付いたら素っ裸でこの場所にいて……」
この状況では弁解の余地が無いことを頭では分かりつつも必死に説明を試みる。
「夜中のシフトに入っていたらボケたおっさんが来て、その後車が突っ込んできて気が付いたらここにいて――」
「言い訳は結構。素っ裸の泥棒には問答無用で拘束させてもらうぞ」
男は袖下から赤い色をした野球ボールほどの球体を取り出した。
「ドルシスさんに命乞いでもしておくんだな」
球体がオレに向かって投げつけれる。逃げようと思う暇もなく、球体は真っ直ぐ飛んできて腹部に直撃した。
「うごぉっ!」
胃液が飛び出るほどの強い衝撃。学生の時、1つ上の先輩に殴られた記憶が脳裏に蘇る。
だが、痛みはそれだけでは終わらなかった。直撃したボールは青白い光を放って紐状に変化し、オレの身体を拘束した。細い糸が肉体に食い込み、鋭い痛みをもたらす。これで身動きは一切取れなくなってしまった。
「な、なにすんだッ!!!」
「コイツはマジック防犯アイテム(名称変更有)の拘束ボーッる。本来は万引きして逃走したヤツに当てるものなんだけどな。ちなみに――」
「おい、なんだよコレ! 解け!」
どうにか外れないかと必死になってもがいてみるがむしろキツくなっていくようだ。
「暴れると、雷魔法が発動して気絶するぞ」
「あああああああああああああああああああ!!!!」
*
こうして、再び気を失い、次に目覚めたのは牢獄だった。
錆び付いた鉄格子。空き缶ぐらいしかない外に繋がる小さな窓。湿った空気と時々聞こえる狂気に満ちた叫び声。手足には鎖の付いた足枷。
一体どうしてこんなことになってしまったんだ。自由の効かない手足を見つめながら狼狽する。
「おい、そこの露出魔」
鉄格子を叩かれて呼ばれる。なんて酷い名前だ。事実だったけれどもさ。
「面会だ」
看守は随分と不服そうな顔をしている。
面会者? こんな見知らぬ地で誰がオレに会いに来てくれたのか。
「よう、調子はどうだ?」
看守の後ろからヌルっと現れたのはオレを拘束した張本人であるあの男だった。
「どうしてアンタが?」
「ま、詳しい話はオマエを呼んでいるあの方から直接聞くんだな」
看守は鉄格子の扉を開き、脚枷だけを外した。顎で出ろと指示されたので立ち上がって牢屋の外に出る。
おいおい早いお迎えだな!
俺のことも一緒に連れていけ!
金か! 金で出たのかよ!
牢獄に住まう者たちから旅立ちのエールを貰いつつ、一行は長い通路を進んでいく。
比較的新しい鉄格子の扉を抜けると、円柱状のこれまた長い階段を上っていく。
しばらくすると、階段の終わりに煌びやかな金属で飾られた豪華絢爛の大きな扉が現れた。
「ここは?」
「拷問部屋」
「なっ!」
「まぁ、数百年前の話だけどな」
ガハハハと男は笑う。そう言った心臓に悪い冗談は止めて頂きたい。
「いまは応接室のような形で使われている。この中でミーシェ様がお待ちだ」
「ミーシェ様? 何者ですか?」
「オマエ、ミーシェ様を知らないのかよ! どうやってこれまで生きて来たんだ!」
そんなこと言われても知らないものは知らないしな。
「とにかく、中でミーシェ様がお待ちだ」
男は扉を4回ノックした。
「ミーシェ様、例の男を連れてきました」
『……入れ』
扉の奥から女性の声が帰って来た。それを合図に扉が勝手に動いてオレを招き入れた。
<あとがき>
っぺ
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