仲良しな幼馴染が挙動不審になったんだけど、「無になって時が過ぎるのを待っている」らしい。辛いことでもあったのだろうか?
仲良しな幼馴染が挙動不審になったんだけど、「無になって時が過ぎるのを待っている」らしい。辛いことでもあったのだろうか?
仲良しな幼馴染が挙動不審になったんだけど、「無になって時が過ぎるのを待っている」らしい。辛いことでもあったのだろうか?
久野真一
仲良しな幼馴染が挙動不審になったんだけど、「無になって時が過ぎるのを待っている」らしい。辛いことでもあったのだろうか?
「おっす、おはよ。香菜」
秋の朝。俺たちがいつも待ち合わせをする細い三叉の道。
そろそろ夏の暑さも和らいできてようやく過ごしやすくなった。
「……」
いつものように幼馴染の
こうだとトレードマークのツインテールもどこか精彩を欠く。
「おい。香菜?」
「あ、ご、ごめん。おはよー、ケンちゃん」
同い歳で幼馴染である香菜とはここまで仲良くやってきた。
しかし、何があったのやら……あ、そうか。
「お前なー。ひょっとしてまた夜更かししただろ。ほどほどにしとけよー」
ポンと頭に手をおいて、仕方ない奴だななんて思う。
「そ、そうそう。ネトフリで深夜まで動画見ちゃって」
ん?こいつは普段アマプラで動画見てた気がするけど……。
「お前アマプラ派じゃなかったか?」
「え?あ、うーん。たまにはネトフリオンリーのもいいかなって」
「でも、その分お金かかるだろ。おばさん、よく許してくれたな」
まだ高校生の俺たちはクレカを持っていない。
サブスクが必要なものだと親にお願いしないといけないことも多い。
「え?えーと。かーさんもネトフリで見たいのあったんだって」
「なるほどな?」
しかし、どうにも違和感がある。
アマプラをサブスクするときにもひと悶着あったのに、ネトフリを追加契約はやけにあっさりというのは、財布に厳しいおばさんらしくもない。
「まあいいや。学校行くか」
「う、うん」
しかし、その後も挙動不審は続いた。
肩と肩が触れそうになると慌てて離れたり。
かと思えば、俺の方をじっと見てたりと。
普段の香菜なら気にしないことをやたら気にしてきて落ち着かない。
(ひょっとして家でなんかあったか?)
おばさんと香菜は別に仲が悪いわけじゃない。
でも、お小遣いの管理を含めてお金に厳しいおばさんに時折不満を漏らすことくらいはあるから、何かそれ絡みのトラブルでも起きたとか。
「なあ。ひょっとしておばさんと喧嘩でもしたか?」
「え?そんなことないけど?」
と思ったけど、至って不思議そうな返答。
「いや、それならいいんだけど。今日、ちょっと挙動不審だからさ」
「ああ、うん。ちょっと色々ね」
「悩みあったら打ち明けてくれよな」
「悩みの張本人が目の前にいるんだけど……(ボソッ)」
うん?
「ひょっとして、俺がなんかやらかしたか?もしそうなら謝る」
さすがにそれで香菜を悩ませてたなら兄貴分失格だ。
「あ、違う違う!私の問題なんだけど……ケンちゃんも関係するっていうか」
「だったら、俺にはどうしようもないけど気になることとか?」
たとえば、俺と香菜の仲の良さはよくからかいの種になっている。
今までは気にしないでいたけど……なんてこともありえる。
「どうしようもないって言えばそうなんだけど……とりあえず忘れて?」
あー、やら、うー、やら悩んだ末の言葉はそんなものだった。
「お前がそう言うんなら」
香菜も内に溜め込む奴だから、仕方ない、か。
(しばらく見守ろう)
そう決意して一週間が経過したのだけど、様子はおかしいまま。
授業中は外をぼーっと見てたかと思えば俺をじーっと見てたり。
でも、休み時間や昼休みになると俺の席に駆けつけてきて、一緒にいたがる。
じゃあ、話が弾むかと言えば、どうにもいつものような気安さがない。
(やっぱり何か悩みでもあるよな)
これは間違いない。
今までは様子見だったけど、明日はちゃんと理由を聞こう。
そう決意したのだけど、翌日はまた様子が違った。
「おはよ、香菜。元気か?」
「おはよう、健太君。私は元気です」
「お、おう。ならいいんだけど」
いつもの三叉の道で会った彼女はまた違った様子だった。
とにかく無表情なのだ。
しゃべりも抑揚がなくてグーグルホームの返答を聞いているようだ。
「そういえば、今度の祝日だけど、どっか遊びに行かないか?」
「そうだね。私も遊びに行きたいです」
いや、待て。これはさすがにおかしい。
本当にグーグルホームが返答しているような物言いだ。
大体、ケンちゃんじゃなくて健太君だったし、急に丁寧語になったのも不自然。
「じゃあさ。どこに行く?」
「私はどこでもいいですよ」
「じゃあ……久しぶりに遊園地とか」
「いいですね。じゃあ、予定に登録しておきます」
淡々と、スマホにポチポチと入力し始めた。
「予定の登録が完了しました」
「お、おう」
おかしい。いくら何でもおかし過ぎる。
先日までの挙動不審は悩んでるんだろうなくらいだった。
でも、今日のロボット対応は明らかに度を越している。
(まさか、何か精神の病気?)
嫌な話だけど、可能性の一つとしてはありえる。
だって、さすがに親しい友達にこんな対応はしないだろう。
嫌になったにしたって距離を置くとか塩対応は出来るはずだ。
(でも、口に出しづらいよなあ)
病気かもしれないから、医者に行ってみたらどうだ?なんて。
自覚があったら一番気にしてるのはこいつ当人だろうし。
(今までよりも注意してみないと)
この様子だと学校でもクラスメートや教師に変なこと言いかねない。
それで香菜が……普段は愛されキャラな彼女が孤立するのは避けたい。
と思ったのだけど、教室についた香菜はといえば。
「おはよー、カナっち」
「おはよー。アキちゃん」
「会いたかったよ―」
「私も―」
なんて言いつつ、彼女の親友である
その様子はいつも通りで、朝の妙な対応は影も形もなかった。
(取り越し苦労か?)
なんて思ったのだけど、授業中はやっぱり様子がおかしい。
昨日までと違って、ひたすら黒板の方向を向いているのだ。
やっぱり無表情で、黙々と板書をしている様はやっぱりロボットだ。
(やっぱ問いただすべきだな)
病気であれ、俺に関連した悩みであれ。
ちょっとこの状況は俺にとっても辛い。
だって、好きな女子からそんな妙な対応を取られるわけで。
というわけで昼休み。今日は二人きりで話があるということで
空き教室で二人きり。
「それでケンちゃん。話って何?」
「ようやくまともな対応してくれたな。今日のアレ、なんなんだよ」
俺としてはわけがわからな過ぎて混乱する。
「あれはね……無になって時が過ぎるのを待ってたの」
「は?」
無になって……?
あまりにも予想外な言葉だった。
「ちょっと待ってくれ。俺にわかるように説明して欲しい」
「そうだね。これ以上誤魔化すのも辛いし」
「やっぱ、抱え込んでたんじゃねえか。水臭い」
でも、まあ。これで吐き出してくれるなら。
「ケンちゃんのこと、好きになっちゃったの」
「え?ええ?」
「しかも、寝ても覚めてもいつも考えちゃうし」
「ええと、それは光栄に思ってもいいのか?」
これ、告白だよな?
「恋の病ってとっても辛いんだよ。授業だからって考えを切り替えようとしても、ケンちゃんの笑顔が思い浮かんで邪魔してくるし。早く昼休みが来ないかなーってそわそわしちゃうし。夜も声聞きたいなー、もう寝てるだろうし、迷惑かもだしとか考えちゃう。寝ても覚めてもケンちゃん中心になってるみたいなふわふわした気持ち」
「そっか……ありがとな」
ようやく、少し話が見えてきた。恋は盲目っていう奴なんだろう。
ここまで激しいのは見たことがないけど彼氏に夢中みたいな女子はたまにいる。
「でも、ほっとした。お前が病気になったんじゃ?とか気を揉んでたんだぞ」
「病気って言えば病気だよ。恋ってほんとに頭をおかしくしちゃうのがよくわかる」
「あ、そういえば俺も香菜のこと好きだぞ。そこまでになったことはないけど」
「恋の病も個人差があるのかな……ケンちゃんが羨ましい」
告白に返事を返したつもりがスルーされた。ほんと重症だな。
「あとさ。無になって時が過ぎるのを待ってたってどういう意味だ?」
「そのまま。感情を無にしてる間は恋の病から解放されるから」
う、うーむ。わかるようなわからないような。
「今朝からの妙にグーグルホームっぽい対応はそのせいか」
「あれはアレクサを真似てみたんだけど」
「どっちも同じだ!本当に心配したんだからな!」
ほんと、昔から時々こういう妙な行動をして心配させるんだから。
「ごめんね。私がちょっとポンコツで」
「いいから」
ほっとする余り、ぎゅうっとその小柄な身体を抱きしめてしまう。
「暖かいな」
「うん……暖かい」
「ところで、さっき告白の返事したつもりなんだけど」
「え?告白?私、そんなことしてた?」
「待て待て。俺のこと好きになっちゃったってさっき言ったばかりだろ」
「ホントだ……あ、私、知らない間に告白しちゃってた?」
どうしよう、どうしようとパニックに陥るのも事情がわかれば可愛らしい。
「落ち着け。俺も好きだって言っただろ。それは恋人になりたいってことだよ」
「こ、恋人?私で本当にいいの?」
目を瞬かせて信じられないとばかりの言葉。
「まあ、昔から世話焼いて来たけど、ちょっとポンコツなところも可愛いし」
「うー……確かに思い返せばポンコツかも。ごめんね」
「いや、だから。恋人になれたのに凹むなよ」
もう、ほんと仕方ない奴だ。
「でも。恋人になれたはずなのに、恋の病が治らないみたい」
「なら、思う存分甘えて来いって。彼氏としては嬉しいし」
これは本音だ。
「夜にいきなり電話かけちゃうかも」
「むしろ嬉しいぞ」
「いきなり抱きつくかも」
「人前じゃなければ」
「放課後にデートしようって言い出すかも」
「むしろ言ってくれよ」
「他にも……色々と迷惑かけちゃうかも」
「だから、ドーンと来いって。なんでも大丈夫だから」
「本当になんでも?」
「本当だって」
恋の病とはいうけど、今の香菜は本当にポンコツだ。
「だったら……」
抱きしめられたままの香菜が目を閉じて……チュッと水音。
「キスしてもいい?」
「し、した後に言うなよ。嬉しかったけど、ちょっとビビった」
「そうだね。ごめん。当面、こんな感じでポンコツのままだけどよろしくね?」
「まあ、フォロー出来るところはするから。ま、そんなところも好きだけどな」
「言わないでよ」
「なんで」
「もっと病が重症になるから」
「重症になるとどうなるんだ?」
「夜にケンちゃんち押しかけるかも」
「それは……一応、母さんたちに話は通しとくから。恋人なら不自然でもないしな」
お互いの両親のことだって知っている。
母さんなら「ハメ外すのはほどほどにしなさいよ」と言うくらいだろう。
父さんは「まあ良かったな」くらいだろう。
「ケンちゃんはずるい」
「なんでだよ」
「もっとケンちゃんを好きになっちゃう。これじゃ治らないよ」
「治らなくてもいいだろ。俺のことそんだけ好きでいてくれるんだから嬉しいぞ」
「でも、ケンちゃんは私の事好きなのに普通だよね」
「好きは好きだけど、嬉しいなってくらいだな。もっと可愛がりたいなーとか」
ちょっと反応を見てるのも楽しくなってきたし。
「うー、やっぱりケンちゃんはずるい!」
「だから、それ言われても困るって」
「こうなったらケンちゃんにも恋の病を移してやるんだから」
「俺はたぶん軽症患者だからなあ」
「だから重症化させてあげるの」
「無理だと思うけどなあ……」
空き教室で、そんなちょっとおかしなやりとりをした俺たちだった。
後日。
「はい、あーん」
それはもう恋する乙女という顔で唐揚げを口に突っ込んでくるカノジョ。
「うん、美味しいぞ」
「やったー!」
「そこまで喜ばないでも」
「手作り弁当なんて初めてだから気になるの!」
「よし。じゃあ、今度は香菜の番な」
同じように唐揚げを箸で挟んで口に突っ込む。
「美味しいか?」
「……お、美味しい」
「また幸せそうな顔をするんだから」
「だって、幸せだもん。周りの目が気にならないくらい」
というわけだけど、今は教室の中。
こんなことをして周りがどう思うかと言えば。
「あの二人、付き合い始めてからアツアツ過ぎない?」
「アツアツっていうか……健太君が苦笑いしてる感じはするけどね」
「言えてる。香菜ちゃんが押しに押しまくってるよな」
「でも、羨ましいなー。こういうのウザいと思ってたんだけど」
「香菜ちゃんが無邪気だから、見てて微笑ましいのよね」
生暖かい視線だったり、羨ましがられたり。
香菜のキャラが幸いしてか、おおむね好意的に受け止めてもらえてるらしい。
「あ、そうそう。放課後、一緒に遊びに行こ?」
「いいぞ。どこに行く?」
「うーんと。遊園地!」
「待て待て。最寄りのとこでも午後6時には終わるだろ」
「ダッシュで行けば午後4時にはつけるよ」
「そうまでして何に乗りたいんだ?」
「観覧車。二人で夕方の観覧車とか憧れだったの」
「おっけー。じゃあ、放課後はダッシュな」
ほんと、仕方ないやつだ。と思っていたら
「ありがとうね。ワガママな私に付き合ってくれて」
そんな小さなお礼。
「昔からの付き合いだろ。全部受け止めてやるからどんと来い」
「……やっぱり、私ばっかり重症化してる気がする」
「それは諦めろ」
なんてバカップル化している俺たち……いや、主に香菜が原因だけど。
でも、面倒見てやらなくちゃと思うと悪い気がしないんだよな。
俺も結局、なんだかんだで恋の病に侵されているのかもしれない。
食べさせ合いをしながら、そんなことを思ったのだった。
☆☆☆☆あとがき☆☆☆☆
「無になって時が過ぎるのを待っている」という言葉から膨らませて作った短編です。
ちょっとノリがおかしいかもしれませんが、楽しんでいただけると幸いです。
応援コメントやレビューいただけると嬉しいです:
★……もう一歩
★★……まあまあ
★★★……いいね!
☆☆☆☆☆☆☆☆
仲良しな幼馴染が挙動不審になったんだけど、「無になって時が過ぎるのを待っている」らしい。辛いことでもあったのだろうか? 久野真一 @kuno1234
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