03
俺と沙世が婚約してから、七年が過ぎた。
もう、婚約は意味を成さなくなっていた。高校卒業後、沙世と弘が付き合いだしたのだ。
弘は三年間、一途に沙世のことを想っていた。きっとそれに心打たれたのだろう。彼女の一人称は「私」になり、髪を伸ばし、すっかり弘の「彼女」になった。
大学を卒業した俺は、故郷を離れ、遠方に就職することになった。もう、沙世や弘と会うこともないだろう。
ちなみに俺は、未だに誰のことも好きになっていない。高校在学中、女の子から告白されたが、心は揺らがなかった。きっとこれからも、そうなんだろう。
実家で荷物をまとめていると、高校の頃に使っていた財布が出てきた。この中身を気にしながら、コンビニに行った時の事を思い出す。
「一生独身かな、俺」
そう呟き、目を瞑る。まぶたの裏に浮かんだのは、彼女のセーラー服姿だった。
帰り道の婚約 惣山沙樹 @saki-souyama
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★51 エッセイ・ノンフィクション 連載中 166話
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