第3話
優司のお兄さんと顔合わせをした日から数週間後。
お兄さんが階段から落ちて怪我をした。
階段と言っても、住んでいるマンションのエントランス前にある数段で、幸い骨折もせず擦り傷や打ち身だけで済んだとのことだった。
「今回は入院しなくてマジ良かった、でもホントもうやめときなよ」
優司が電話でお兄さんと話す声が、リビングに響く。
ソファで膝を抱えながら、私は「やっぱりなあ……」とそっと呟いた。
優司のお兄さんは、確かに見目麗しく、頭の回転が速くて会話も面白く、心配りの行き届いた気持ちの良い、完璧な人のように思えた。
健全で真っ直ぐで、光の真ん中を歩くのが似合う人だ。
だけど、話せば話すほど、私の中である予感が強くなっていった。
それは、優司と出会った時に感じたのとは全く別の、でも同じくらい強いものだった。
「ああ、この人、恋人の趣味だけは歪んでそう」
お兄さんは、恋人に突き落とされたそうだ。そういうのはよくあることで、お兄さんが怪我をさせられるのはこれで六回目とのことだった。
でもお兄さんの方がその恋人にぞっこんで、いまだに愛しているらしい。
優司のスマホから漏れ聞こえてくるお兄さんの美しい声は、以前会った時よりもずっと嬉しさに満ちていた。
歪みのない奥山さん 惟風 @ifuw
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