生類憐みの霊
フレア
生類憐みの霊
広い部室に腰かけるたった二人の男女を窓ら差し込む夏の日差しが照らす。
会話もなく、ただ開いた窓から流れ込む風の音だけが響いていた部室で女が口を開く
「犬人って知ってる?」
「なにそれ?」
「なんか犬の人?みたいな」
「それただの人面犬じゃないですか?」
「違う違う!そう!犬が人の形してるらしいのよ!!」
「非科学的…馬鹿馬鹿しい」
「君なんでこの部活入ったの?」
オカルト研究部。アニメや漫画の題材になることも多い心霊大好き人間達の集い
…の筈なのだが、人を集めるために制定した『活動自由』の言葉が災いし、帰宅部原則禁止の校則から身を隠す為の隠れ種として扱われており、数多い部員に反してアクティブに活動しているのは、私と目の前の男子生徒『霊園 優希(れいぞの ゆうき)』の二人だけ…というなんとも悲しいことになってしまっている
「実質帰宅部で自由に部室が使えると聞いたので」
「うん残念だったね。私が居て」
「そうですね。先輩もお帰りになられたらどうです?」
「いや君が帰れ。私は活動してるの!!」
「言ったでしょう。家が辺境すぎて帰りのバスが夜まで来ないんです。帰れるなら帰ってます」
淡々とした口調で失礼を撒き散らす男に反論するのは無駄だと察したのか女は早々に口を閉じ、手に持ったハンカチで汗に濡れた顔をふく
「…それで何なんです?その犬人って」
「だから人間ベースに」
「そうじゃなくて、何処で現れるとか、何をするのかとかですよ」
「それなら…犬人は何か生き物を殺した人の前に突然現れて殺した人を同じ目に会わせる怪異…らしいわね」
「殺すってことですか?目撃例は?」
「あくまで噂だけど最近行方不明っていう男子生徒いたじゃない?」
「ホームルームで言われましたね」
「そう。その人が犬人にやられちゃったんじゃない?って噂になってるらしいわね」
「…単純に不謹慎では?」
「…それはそうね」
「で噂の元は?」
「知らないわよそんなの。ただ噂になってるってだけだもの」
「信憑性ゼロじゃないですか」
「都市伝説なんてそんなものでしょ」
「まあでもこれで真実が確かめられますね」
「?…どういうことよ」
「だって今顔ふいた時に蚊潰してますし」
「へ?…うわぁぁぉぁ!?最悪!!!!」
女がタオルを見ると僅かに面影を残した黒い物体…
女はすぐにタオルを放り捨てると水道へ向かうのだった
―――――――――――――――――――――――――――
「散々な目にあったわ……て言うか蚊止まってたなら言いなさいよ!」
「でもこれで検証出来るんだからオカルト研究部としては万々歳じゃないですか」
「検証…?」
「記憶飛びました?この数分で話忘れるとかどんな非科学的な頭してるんですか」
「流石に怒るわよ?」
「犬人ですよ犬人。これでオカルト先輩が潰れたら実在。生きてればただの噂でわかりますね」
「………あんたなんて恐ろしいこと考えてるのよ!?」
帰り道
「ひっ!?」
「…?」
「うわっ!?」
「…?」
「…先輩。人影見るたびに騒いでたら失礼ですし迷惑ですよ」
「いやだってぇ………」
時刻は夕方を過ぎ夜。いくら夏といえどももう既に暗い時間帯だ
通りすぎる人々は近寄るまで顔も見えず、ついつい怯えてしまう
「大体あんなのいるわけないでしょ、現実的に考えて。存在したら何人死んでると思ってんですか」
「そりゃそうだけど…」
「それに今も生きてるんですからこれが答えでしょう」
優希がそう言いきった瞬間だった
「…なにこの匂い?」
「鉄…?」
振り返る。
黒い影に水の滴る音。そうして強烈な鉄臭さ
街灯に照らされその姿は露になった
犬や牛、豚や魚の死骸が積み木や粘土のように積み重なりヒト型を成した化け物を
その手に握られた刀がギラリと輝く
「ァ………ァァ…」
耳に響くくぐもった音と共に
「そんな非科学的な………」
「言ってる…場合か!!!!」
優希の手を引いて、夜の道を駆ける
「ァァァァァァ!!!!!」
振り返らずとも、鼻につく匂いと特徴的な叫び声からあの化け物、犬人は私達を追い掛けて来ていることがわかる
「…!離してください!自分で走れます!」
どうやら正気を取り戻したらしい優希は私の手をほどくと自身で走り始める
人を引く重さがなくなった分走りやすくなり、私も速度を上げたのだった
「誰か!!誰か助けて!!!」
大声を上げるが、周りに人の気配は無い。無我夢中で逃げている間に人里離れた所まで走ってきてしまったようだ
普段は大好きな自然に満ちた土地が今は最高に恨めしく感じる
「先輩!このままじゃもっと人がいない場所に!!」
「わかってるよ!でも引き返せない!!」
「ァァァァァァ!!!」
「犬人になんか対処法とかないんですか!?」
「対処法!?」
「口裂け女にポマードっていうと退散するみたいなアレですよ!この手の話じゃ良くあるでしょ!!」
「あーそういうのね!ごめん!聞いたこと無い!!」
「ッ!」
「ァァァァァァ!!!」
「追い付かれる!!」
「って先輩足下!!」
「え?」
犬人から逃げるのに夢中で足下にこれ以上道がない…つまり崖になっていることに気がつけなかったのだ
「先輩!!!」
焦る優希の声が木霊する中、私の意識はそのまま消えていったのだった
―――――――――――――――――――――――――――
「先輩!先輩!」
「っ……」
目を覚ました私に最初に写ったのは後輩、優希の姿だった
「あれ?私生きてる?」
「そりゃそうでしょ。この程度の高さで死んだら非科学的すぎます」
そう言いながら後輩が上に指を差す。先程私達が居た場所だろうか。そこが高々3m程度の高さに存在していた
「夜だった上に木々で月明かりも遮断されてて足下が見えなかったから底が分からなかったんでしょうね」
落ちた瞬間は流石に驚きましたが。なんて言いながら優希が笑う
落ちたとき恐怖で失神してしまったのか…我ながら情けない
「って犬人は!?」
「あの化け物は先輩が落ちたのを見たら引き返していきました。死んだと思ったんでしょうね」
「そっか…良かった…」
「いや良くはないでしょう。まさかあんな化け物が実在するなんて…もし先輩が生きてるってバレたらまた襲われますよ!?」
「ッ…」
「…とにかく人気の多いところに戻りましょう」
それなりの距離を走っていたからか、人気の多い通学路まで戻ってきた頃には既に日が昇ってしまっていた
「…明日…っていうか今日が休みで良かったですね」
「休めるか!!!!」
もう既に通学路には休日出勤のサラリーマン達が忙しなく歩いており、犬人遭遇時の静寂がまるで嘘のように賑わっていた
落ち着きからか立ち尽くしていた私達に一人の男が声をかけてくる
「あれ?お前ら今日は学校休みだぞ…って何でそんなボロボロなんだよ!?」
「あっ先生!!」
社会科担当の薫先生だ。オカルトも好きなようでたまに部室にも顔を出す
私達の服装からただ事ではないと察してくれたのか先生はとにかく一回学校へと私達を学校に入れてくれた
「で何があったんだ?」
「犬人ぉ?冗談だろ?」
「冗談ならこんなボロボロになりませんよ」
「…」
「…マジなの?」
「残念ながら」
「…警察…は信じてくれるわけねえか。その犬人ってやつについて詳しく教えてくれるか?」
「…生き物を殺した人間を殺す…つまり殺された動物の怨霊ってことか?」
「そこまではなんとも」
「んでお前はうっかり蚊を潰しちまって、その犬人とやらの怒りを食らったと」
「はい…」
「どうしたもんかねぇ」
「とりあえず蚊に謝ってみるとか?」
「一応やっとけ」
「でも先生、犬人は先輩を殺したと思ってるんだからもう来ることはないのでは?」
「あぁ。だけど実際には生きてる。もう来ないとも言い切れないだろ?対策は考えとくべきだ」
「それは…確かに…」
「なんか退散の呪文とかねえもんかねぇ…」
「それなら何かしらのキーワードを言うのが一番可能性あるんじゃないでしょうか」
「キーワード?」
「例えば口裂け女のポマード、テケテケの地獄に落ちろ。みたいに都市伝説って何かしらの発言で追い返せることが多いじゃないですか」
「なるほどな…でもどうやってそのキーワードを探すと?」
「簡単ですよ。口裂け女のポマードもテケテケの地獄に落ちろも、彼らの過去や成り立ちからして言われたくない言葉。という共通点があります」
「つまり犬人がどんな霊なのか具体的に調べ言われたくない言葉を探す…ってのが有効打になるんじゃないかと」
「まあそもそも例に挙げた二人も存在しているか怪しいし都市伝説ですしアレですけど…」
「君なんか都市伝説詳しくない?」
「気のせいです」
「もしかしてオカルト研究部入ったのも」
「気のせいです」
「…まあ現状そんくらいしか手立てがないのは事実だな。インターネットとか図書館で調べてみるか」
―――――――――――――――――――――――――――
「って言っても…ノーヒントで本探すとか無理だよぉ…」
「こっちもですね。マイナーすぎて都市伝説サイトにも記述がありません」
「人、動物、殺す、殺される……生類憐みの令しか出てこねえな」
「インターネットに引っ掛からないってことは最近生まれた都市伝説がここのみのご当地都市伝説なのかもしれませんね…」
「嫌すぎるな、そのご当地」
「でもご当地ならひょっとしたらここ独自の特徴や事件なんかが関わっている可能性もありますよ」
「例えばひきこさんの女子生徒事故死のような何らかの事件の被害者の亡霊とか」
「なるほど!」
「あー。じゃあとりあえずその手の事件がないか文献漁るかぁ」
「………これか?」
「どうしたんですか?」
「犬小屋だ」
「いや犬小屋がどうしたんですか」
「違う違う、御用屋敷や御囲とも呼ばれた第5代将軍徳川綱吉によって建設された犬の保護所だ」
「綱吉っていうと生類憐みの令の?」
「あぁ」
「それで、それがどうしたんですか?」
「いや何でもその犬小屋がここにも建設される予定だったらしいんだよな」
この村にあった出来事が書き記された書籍にほんの小さく記述が存在した
「へー本当だぁ」
「でも実際には出来てませんね」
「あぁ。見ての通りド田舎だからな。そんな金はなかったしそもそも場所もねえってんで当時の領主はそれを断ったんだ」
「それがどうかしたんです?」
「ここって他の県からかなり離れてるだろ?」
「はい」
「それで、作る気まんまんだったんでもう集めちまってたここらの犬を仕方なく他の犬小屋に移動することになったらしいんだけど、その距離のせいで道中で殆ど死んじまってたんだと」
「かわいそう…」
「人間の勝手で集められて死んじまったんだもんな」
「もしかしたらその犬達の霊じゃないか…ってことですか?」
「そゆこと」
「じゃあ他の部位の動物達は?」
「知らん」
「適当じゃないですか!!」
「仕方ないだろ!?こんだけ探して動物が関わってる事件なんてこれくらいしかなかったんだから!」
「まあ根拠は薄いし憶測だらけ、おまけに謎も残ってますが、考えられるのはこれくらいですね…どんだけ考えても、もし赤紙青紙みたいな理由不明の自然発生タイプだったらどうしようもないですし」
「じゃあ追い払うワードは移動とか人…かな?」
「まあ口裂け女の例に従えばそうなりますね」
「ただ追い払えない…花子さんみたいなのだったらどうするんだ?」
「そのときは御愁傷様ですね」
「見捨てるな!!」
――――――――――――――――――――――――――――
「まあ冷静に考えりゃあ単なる危険人物の可能性もあるし、警察と上には連絡いれとくよ」
「お願いします」
「って暗くなってきちゃったけど…どうしよう」
「帰りゃあいいじゃねえか」
「一人で!?」
「冗談だよ。車出してやる」
「僕家かなり遠いですけど…?」
「…まあ頑張るわ」
「流石先生!」
「ありがとうございます」
「はぁ…支度してくるから待ってろ」
そういうと先生は階段を上っていく
ほぼ全ての教室の電気が消え、日の光も無い。
夏だというのに何処か寒気を感じる廊下に二人佇んでいた
「先輩、大丈夫ですか?」
「うん…いやぁ…流石に本物をみると怖いね…」
「見たことなかったんですか?」
「霊感が無いのか一人かくれんぼやらこっくりさんやらも無反応」
「わりと色々やってますね…」
「まあ部活だからね」
「…にしても来るか来ないかわからないが一番辛いなぁ」
「忘れた頃に…とかですね」
「あー!やめてやめて!!」
「これならいっそしっかりきてくれた方が……」
なんて冗談を口にした瞬間。血の気が引いた
何もなかった筈の優希の背後にあの化け物か立っているのだ
「先輩?」
と青ざめた私に一言かけると同時に、奴が咆哮を上げた
「ァァァァァァ」
「…逃げますよ!!」
「っ!」
全てを察したらしい優希は前とは逆に私の手を引いて走り出す
「どっから入ってきたンですかアイツ!!」
「何もほんとに来なくてもぉぉぉっ!!」
「ァァァァァァ!!」
「ていうか!さっきの今こそ試すべきでは!?」
「…忘れてた!!」
焦っていたが優希の言葉で思いだす。何か追い返せそうな言葉…
「移動!」
「ァァァァァァ!!!」
「人!」
「ァァァァァァァァァァァァ!!!」
「駄目!!」
「犬小屋!保護!」
「徳川綱吉!!領主!!」
二人で思い付いた単語をひたすらに連ねていくも化け物に変化は見られない
「駄目…!?」
「駄目ですね!とりあえず入り組んだ学校じゃ先回られるかもしれませんし、一度外へ!」
「うん!」
外に出て早々、私達は大声を上げる
「誰かー!!誰か助けて!!」
かなりの声量で叫んでいる筈なのに民家からは誰も出てこない
明らかに不自然だ
優希も異変に気づいたのか、表情に陰が差している
「とにかく遠くまで!!」
「アイツ!どんどん早くなってませんか!?」
しばらく走り続けて優希がそう叫ぶ
確かに、私達の速度が落ちているのを加味しても、前日より早いような…
「って!危ない!!」
慌てて優希を抱き寄せると、先ほどまで優希の立っていた場所を投げられた刀が通りすぎる
「ひっ!?」
投擲。予想外の行動に慌てて対応する
「ぐうっ!?」
しかし、全力で走っていたところを無理やり引き寄せたせいで勢いよく転んでしまった
「いたた…」
「先輩!危ない!!」
優希の声に顔を上げる。目に入ったのは刀を拾い上げた犬人の姿だった
街灯が逆光に化け物の刀が光る
「ひっ!?」
「…いや待ってください!この光!」
言われて気がつく、街灯とは別に私達から見て左から犬人を照らす光とそのエンジン音に
「ァァァァァァ!!!」
それに気がつくのとドン!という轟音が響き渡るのはほぼ同時だった
「乗れ!!!」
「先生!!」
「先輩!早く!!」
慌てて車に乗り込むと、ドアを閉めた瞬間車が走る
再びライトに照らされた犬人が転がるように避ける
「ァァァァァァ!!!」
「避けられたっ!!」
「いや避けていいんだよ!!あー!初めて生き物跳ねちまった!」
「生き物ですかね…アレ?」
「っていうか先生!どうしてここに!?」
「戻ってきたらお前らいねえから、まさかと思って外出たらこんなん落ちてんだもん。そら追うわ」
っというと先生はミラー越しに目を向ける
「あっ!これ私の上履き!」
「気づいてなかったんですか…」
「てかなんだよアレ。思ったより化け物じゃねえか」
「だから言ったじゃないですか」
「それに、丸1日かけて考えた言葉はどうしたんだよ?」
「…」
「あー。駄目だったのか………ってじゃあどうすんだよ!?」
「言葉が違う可能性、そもそも正体の推測が間違ってる可能性、まず言葉じゃ不可能な可能性。色々ありますね…」
「大半が詰みじゃねえか!!」
「とりあえず誰かに助けを…」
「無駄ですよ。さっきからこの大通りに誰もいません」
「うおっ!?ほんとだ気持ち悪!!」
「何故かは分かりませんが僕達意外、誰も介入出来ないみたいですね…」
「いやでも俺は出来たじゃねえか」
「…それは…予め知ってたから?」
「曖昧だな…」
「なんも分かんないだからしょうがないじゃないですか!」
そんな会話の最中。誰もいないこの空間に咆哮が響き渡る
「ァァァァァァァァァァァァッ!!!!」
慌てて後ろに振り向いた
「犬人!?」
「早っ!!!」
「あ!?あの化け物きてんの!?」
バックミラーからではうまく見えないのか先生が声を上げる
「先生!スピードあげて!!」
「制限速度ギリギリだよ!!」
「言ってる場合ですか!緊急事態ですよ!!」
「だー!!捕まったらお前らのせいだぞ!!」
「そもそも見てくれる人が居ないよ!!」
「ァァァァァァ!!!」
「ちょっ先生!突き放すどころか近づかれてる!」
「ハァ!?今100kmだぞ!?」
「もっと上げてください!!」
「無茶言うな!これ以上上げたら事故るぞ!?」
「ァァァァァァァァァァァァ!!」
瞬間、ドン!と車が揺れる
「ひっ!?」
「オイオイオイ!まさか今後ろに…!」
「引っ付いてます!!」
「あぁぁぁぁッ!!!」
「ァァァァァァ!!!」
「ハモるなッ!!」
皆が慌てふためく中少し、違和感に気がついた
犬と犬の合わさり目の隙間。何かが見える。それはまるで人の肌のようで…
「振り落とすぞ!!捕まれ!!」
先生の叫び声と共に車は急カーブする。それと同時に犬人が吹き飛ばされる
「今のうちに…!」
「ねえ先生!さっきの犬小屋の話だけど断った領主さんってどうなったの!?」
「あ?なんだいきなり」
「良いから!!」
「急にどうしたんですか!?」
「確か処刑されたって」
…繋がった
「先生!車止めて!」
「は!?お前ほんとに気でも狂ったか!?」
「待って!先輩、何か分かったんですか?」
「うん!!人間だよアレ!!」
「いやどうみても化け物だろ!」
「違うの!人に動物が張り付いてる!」
「はぁ…?」
「ほんとだ…」
振り下ろされ体制を立て直そうとする犬人は何ヵ所か動物が剥がれ、内部が露呈していた
「そうか…動物霊前提で話してたけど…あれって」
先輩の言葉でようやく気が付いた。アレは人間の怨霊だ。かつて徳川綱吉の政策に従えず、理不尽に処刑されたこの地の領主…いやもしかしたらその被害者達全てかもしれない
動物を殺した人間を狙うのも、かつての自分達とは違い、殺されなかったことへの嫉妬だとすれば全てが辻褄があう
最もこじつけも多い。とりあえずこの場を切り抜けて、しっかりと調べてみれば…
「って先輩?」
「アイツ何処行った!?」
「まさか…!!」
吹き飛ばされた刀の前に仁王立ちで立ちはだかる私
「ァァァァァァ!」
好機と見たか爪を向ける犬人に思い切り叫んだ
「生類憐みの令」
「ァァ…」
化け物の動きが止まる。まるで何かに怯えているように
手応えを感じた私はその言葉を何度も叫んだ
「生類憐みの令、生類憐みの令、生類憐みの令!!!」
「ァァァァァァ!!!!!!!」
一際大きな咆哮と共に犬人が何処かへ走りさる。それと同時に周りからは無数の車の音、人気が戻るのを感じ取れた
――――――――――――――――――――――――――――
「都市伝説サイトにアップロードした犬人の記事。スゴい勢いでアクセスされてますよ」
「これで少しは被害者も減るといいね」
「それにしても先輩。あの時すぐ飛び出して行きましたけど、憶測が間違ってたらどうするつもりだったんですか」
「間違ってたら?……もしかして私死んでた…?」
「…やっぱ先輩の頭って非科学的ですね」
「それより、あれから犬人は?」
「出てないよ、大丈夫」
前よりも少しだけ距離が縮んだ気がする会話。それがある程度続いたところで扉が開く
「おうお前ら。下校時刻だ」
「先生!」
「にしてもこの前は偉い目にあったわ…」
「大変でしたね…」
「そのあとだよ!家に帰らねえ生徒が何故か俺の車から…って危うくお縄だったぞ!?」
「キチンと違うって証言したじゃないですか」
「つったってビビるわ!変な書類は書かされるわ」
「犬人のこと言えば良かったじゃないですか」
「信じてもらえるか!!ドラレコにもなんも映ってねえしよぉ」
「でもあったことは事実なんですよね…」
転んだときの傷を指差しながら優希がそう言う
「傷と言えば、車もボッコボコだよ!!どんだけかてえんだよあの化け物!」
「まあまあ…」
「あっ!先生、電車賃節約のためにまた乗せてくれませんか?」
「じゃあ私もー!」
「誰が乗せるかクソガキ!!」
生類憐みの霊 フレア @freambitious
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