第13話 あれ? お前ら、賞金首じゃね?

「ふぅ……ようやく着いたな」


 俺とシャーリーが耳長小人ドゥリン族の村を出発してから、早三日。

 無事に『ルーシティ王国』の国境を越え、隣国である『ティブラン共和国』に到着。

 そして『ティブラン共和国』の最も果てにある辺境の町『コルニカ』までやって来ていた。


 『コルニカ』は辺境の町と言えど人の往来は盛んで、冒険者の姿も数多く見受けられる。

 なんだか活気があって、いい町だ。

 シャーリーは「う~ん」と背伸びして、


「さて、どうしましょうかエルト。三日間ほとんど歩きっぱなしだったし、先に宿でも取っちゃう?」


「いや、まずは冒険者ギルドに行きたい。新しい国に来たんだし、冒険者登録も更新しないと」


 確かに疲れたことには疲れたんだが、先にこれを済ませておきたい。

 俺は『ルーシティ王国』で冒険者ギルドに登録自体はしてあるのだが、国を変えた場合活動地域が変わるので登録をし直さなければならない。

 それにギルドに登録・冒険証を受け取るのは個人証明書を発行するのと同義でもあるので、あった方がなにかと便利だ。


「この国で俺は〔勇者〕を目指すんだ……。早くクエストが受けられる状態にならないと、だからな」


 ――〔勇者〕を目指すには冒険者ギルドで高難易度クエストを達成していき、ギルドからの信頼を得るのが一番手っ取り早い。

 ……と口で説明するのは簡単だが、現実は当然甘くはない。

 どれだけ実績を積もうと、〔勇者〕になれる冒険者はごく一握り。

 また〔勇者〕として国から認められるには、例えば実績以外にも並外れた実力があったり、王族や財政界とのパイプみたいな〝特別な何か〟が必要だ。

 今思えば、きっとカインはそういうパイプ作りで〔勇者〕にのし上がったタイプなのだろう。

 俺は〔勇者〕になるために賄賂とか使いたくないけど……。


 勇者パーティへの所属を目指すなら幾らか難易度は下がるけど、それでも苦難の道だ。

 実際、俺はカインのパーティに入るまでえらい大変だったもんな。

 今回もそこから始めるのもアリなんだろうが――俺は一から、本気で〔勇者〕を目指したい。

 そんな俺の気持ちを知ってか知らずか、シャーリーはニンマリと笑顔を浮かべる。


「……そっか。うん、やる気があって大変よろしい! それじゃ冒険者ギルドに行きましょう!」


 彼女は俺の背中を押し、グイグイと町の中を進んでいく。

 そうしてしばらく進むと、『黄昏の庭園トワイライト・ガーデン』という看板が下がった冒険者ギルドが見えてくる。

 中に入ると大勢の冒険者でごった返しており、ここが比較的大手の冒険者ギルドであることがすぐにわかる。


「へぇ……なんだか『ルーシティ王国』の冒険者ギルドとは結構雰囲気が違うな」


「そうね。これは建物の中に魔力――それも木属性の魔力が充填してるんだわ」


「建物に、魔力が充填だって?」


「そ、精霊からの【加護】をもらうことで物体に属性と魔力を付与する魔術の一種なんだけど、この建物全体には〝大樹の精霊ドリアードの加護〟が付いてる。『ティブラン共和国』は精霊信仰が盛んとは聞いてたけど、ここのギルドマスターは筋金入りみたい」


 ああ、【加護】に関しては聞いたことあるな。

 一般的には武器や防具に魔力を付与するために使われる魔術で、精霊からの信頼を得ている〔魔術師〕じゃないと扱えない高等魔術なんだっけ。

 俺は【加護】に関しては専門じゃないしお世辞にも詳しい方じゃないけど、それでも建物全体へってのは相当珍しいことはわかる。


「もしかしたら、ギルドマスターは元〔魔術師〕なのかもな」

「だったら仲良くなれるかもね? さて、それじゃ手早く登録を――きゃっ!」


 余所見をして歩いたシャーリーは、不意に人とぶつかってしまう。

 ぶつかった相手はかなり大柄なチャラい男冒険者で、口元には下卑た笑みを浮かべている。

 どうやら、わざと彼女にぶつかったらしい。


「おーっと、痛ってぇなあ! あーあ、怪我しちまったわぁ! 嬢ちゃんよぉ、どう落とし前つけてくれんのかな?」


「……ちょっと、今わざとぶつかってきたでしょ」


「そんなことねーよぉ? ただやたら綺麗な顔の女がいるからアレだと思って、金払って遊んでやろうとしたのにさあ。したら肩ぶつけられちまったわ、あー痛え痛え」


 チャラ男冒険者はチンピラまがいの発言を繰り返し、シャーリーを挑発する。

 おそらく――というか間違いなく彼女の美貌に引き寄せられたのだろう。

 いちゃもん付けて乱暴しよう、という魂胆が見え見えだ。


「まあ? いい声で泣いて謝ってくれたら許してあげちゃうけど? んで、どうすんの可愛い子ちゃーん? グヘヘ」


「……」


 あっ、ヤバい。

 シャーリー、滅茶苦茶に怒ってる。

 そりゃ当然だとは思うが、このままだと殺の人(キリング)な案件になりかねない。

 彼女だって元勇者パーティの〔魔術師〕、そんじょそこらの冒険者なんて束になっても敵わないはず。

 万が一にも同業者殺しなんて事態になったら、後々面倒なことになるのは必須。

 やれやれ……仕方ない……。


「ハァ……おいお前、彼女から離れろ」


「あん? なんだぁ、テメェ? なんか文句でもあんのか?」


「忠告だけはしてやる。命が惜しいなら、せめて相手を選んだ方がいい」


「あぁ? なにワケのわかんねーこと――――おい、ちょっと待て」


 俺の顔を見たチャラ男冒険者は、何故かハッとしたような顔をする。

 そして俺とシャーリーの顔を交互に見て、


「あれ……? あれあれ? お前らもしかして、『ルーシティ王国』の賞金首じゃね?」


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

『罪なき魔力の増幅者(マナバッファー)』 ~勇者パーティから覚えのない罪を着せられ追放された俺、味方を強化してたスキルの真価に目覚め最強となる。「ところで勇者よ、あなたの悪事が暴露されてますが」~ メソポ・たみあ @mesopo_tamia

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ