もし明日、世界が終わるとしたら

天野 エル

もし明日、世界が終わるとしたら

「なあ、”もし明日、世界が終わるとしたら何したい?みたいな質問、あるだろ?」

テレビから流れるニュースの声が響き、窓から生ぬるい風が流れる部屋で、友人から提供された話題は最後の晩餐と並んで有名な質問についてだった。

「え、うん、確かにあるけど・・・どうしたの急に」

「や、別に大したことじゃないんだけどな、あれ、マジで世界が終わることになったら、特に何も思いつかないよな~と思って」

「ああ、確かにね」

急によくわからない質問をされたと思ったらそれが言いたかったのか。

確かにそれに関しては、多少野暮な意見ではあるもののよく言われていることだ。僕もこれまで、何度か聞いたことがあることがある。

「まあでも、あれって、本当に世界が終わる直前に何がしたいか聞いてるんじゃなくて、普通に”趣味は何ですか?”って聞いてるようなもんだからね。率直に聞いても面白くないから、現実味のない設定にしてユーモアを出してるというか。あと、”世界が終わる時”っていう重要なシチュエーションにすることで、その人が本当に一番大切にしている好きなことを聞き出そう、っていう意図もあると思うけど・・・、まあ、どっちにしろ、別に現実を交えて考える必要はないと思うよ」

と自分の意見を言ってみたところ

「おお・・・、お前、相変わらず返事がマジだな・・。」

と、軽く引かれてしまった。こういう時、ノリがよくわからずその場に合わない返事をしがちだと、彼からもほかの友人からもよく言われるが、どうやら今回もそれだったらしい。失敗したな。反省。

「いや、俺もそれはわかってるんだよ。俺が気になるのはその先。みんな何したらいいかわからない中、どうしてるんだろうなってこと」

僕が心の中で反省していたら、新たな疑問が彼から発された。

「うーん、どうだろうね?人それぞれだろうけど、普通に仕事してたり、ゲームしてたり、まあ、なかには有り金全部使って豪遊してる人もいるかもしれないけど、大半の人は、普通の生活をしてるんじゃないかな?」

いきなり”明日世界が終わります”なんて言われても現実味がなさ過ぎて受け止めきれないしね。

と、言ってみたところ

「はー、なるほどな。お前は頭いいよなあ、ほんと」

と、彼は感嘆の声を上げた。

「あはは、ありがとう。それで、君はどう思うの?」

と、今度は彼に質問を振ってみた。

「え、俺も言う流れなのか?これ?」

「当然でしょ。人の意見の聞き逃げなんてだめだよ」

からかい交じりに少しとがめると

「確かにそうか・・そうだな・・。いつも通りにしてるんじゃないかっていうとこは俺もお前と一緒だな。ただ理由がちょっと違う」

と彼は言った。

「へえ、それで、その理由って?」

僕は続きを促す。

「さっきのお前の意見も一理あるとは思うんだけどな、俺はもっと簡単に、それが一番幸せだからだと思うんだ。いやなこともたくさんあるけど、その中でも、誰かのために仕事したり、誰かと話して笑ったり、そういう瞬間が一番幸せなんじゃないかって思うから、かな。」

なるほど。なかなか彼らしい。僕は何というか、結構何でも理論的な硬い考え方をしてしまうから、彼の人の感情に寄り添う考え方にはいつも感心させられる。

「なるほど。じゃあ君は、僕とこんな風に過ごすのを幸せだって思ってくれてるんだ?」

「もちろん。世界最後の日の過ごし方としては最高だ!」

彼は笑ってそう言ってくれた。僕はそれがうれしくて、

「はは、そっか。それなら、よかった」

とつられて笑った。

相変わらず、窓からは外の生ぬるい風が流れてきて、テレビからは昨日から同じニュースがひっきりなしに流れていた。

「昨日、環境省からの発表により、巨大隕石が地球に接近し、明日の0時頃に地球に衝突することが判明しました。これにより地球は完全に消滅するとのことです。この現象について専門家である鈴木さんに詳しく―ーーー」

明日、世界が終わる。






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もし明日、世界が終わるとしたら 天野 エル @fuyuubutu

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