エピローグ
あれから三年。
ループはしていない。どうやら神様は僕たちのことを諦めたようだ。
三年という年月は僕たちの環境を目まぐるしく変えた。
まず僕は看取り人をやめた。というよりやめさせられた。
原因は――
「先生! 新聞が届きましたよ」
大きな声でドアをたたき壊す少年がドアの事なんて気にもとめることなくこちらに近づいてくる。
「ワタリ、いくら金があるからってドア壊すの何度目だよ」
「すみません。うれしくてつい」
悪びれもせずソファに腰をかけるもんだからこっちもあんまり怒る気が起きない。
「それでどんな感じで書かれてたわけ?」
「すみません。それが自分まだ読んでないすよね」
「じゃあ、いっしょに読もうか」
「はい!」
僕もワタリに向き合うようにソファに座る。
「読みますね」
――神災病に新たな進歩! 若き天才医師 國枝裕樹の活躍に注目
――神災病研究の一任者で天才医師の國枝裕樹医師局長は神災病患者を救うために研究を続ける。
「って、肝心なとこ全然書いてないじゃねーかよ」
黒いオーラを出しながら新聞を紙クズにするワタリ。
「落ち着けって。そんなに怒ることないだろ」
「落ち着いてられませんよ。先輩は今この世を握っているといっても過言じゃないんですよ」
「過言だろ……」
「いやだって、先生は僕を救ってくれた命の恩人なんです。僕の神災病を治してくれて、今じゃ神災病を治すための薬までつくることができる唯一の人間なんですよ。それをもっと世間に広めるべきなんです」
「それをクルースは認めるわけにはいかないんだよ。
クルースにとって神災病――能力者はこの世の理に反する存在なんだよ。だからこそ治療法なんてあっちゃだめなんだよ。ましてや神災の脅威がなくなった能力者なんて制御できない犯罪者が世に放たれるという最悪の事態が起こる危険性しかない」
「それはもっと研究して完治できるようにすればいい話で――」
ワタリが言い切る前に僕は手をたたく。
「はいはい。その話はもうおしまいな。それ以上するとまた目をつけられるよ」
「すみません」
シュンと分かり易く落ち込むワタリに申し訳なくなってしまう。
何か宥める言葉を探しているとワタリの――もとい、室内の電話がなる。
「先生、緊急連絡です。カタル区で神災が起きるとのことです」
「! わかった。すぐに向かう」
「先生。薬の準備を」
「必要ない。僕にはこれがある」
そういって僕は一本の水入りペットボトルを見せる。
「あーもう。わかりました。でもけがだけはしないでくださいね」
「わかってるよ」
僕は部屋を出て、走る。
この世界にはまだ難病と呼ばれるものが存在する。
そしてそれに苦しみ、希望を持てずに死んでいった人達がいる。
「彼方」
その名前を呼ぶと身体の奥底から力が湧いてくる。
僕は行くよ。一人でも多くの神災病患者を救いに。
かき氷はまだ溶けない オクラーケン @imoimo22
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