第4話

また会いに来てくれる?会いに来てくれるかな。一度会えただけでも嬉しいのに。もし、覚えててくれたら、もし、思い出してくれたのなら。嬉しいな。


 平日火曜日。学校があって、朝練もある日。そんなことはどうでもいい。行かなきゃ。急いで着替えて、家を飛び出す。母にも呼び止められたが、ごめん、と一言言って玄関を開ける。学校をサボりたい、なんて毎日のように思っていたけどこんな形でサボるようなことになるなんて。最寄り駅まで走り、改札を抜ける。もともと普通しか止まらない小さい駅だし、人はそんなにいない。隣の県まで約五時間。往復十時間かかるから家についたらまたこっぴどく叱られるだろう。でも、そんなことが些細に感じるくらいに今の衝動に体を突き動かされていた。ああそうだ、これは恋だ。恋なんだ。あのドキドキも、顔の暑さも、前世からずっと忘れずにいてくれたあの子に対して向けた。今この瞬間に会いにいくためなら、なんだってできるような気がする。すべてを捨てられる気がする。

 平日火曜の水族館。人は少なく、チケット売り場も混んでいない。もう三回目で買うのは随分慣れたような気がする。短期間に何度も来ていたから。チケットを買い、ヒレじゃない足を動かす。走っちゃいけない。早く会わないと。そんな葛藤が心の中を駆け巡る。そうして再会したあの水槽の場所へとたどり着く。走ってはいけない、そんな葛藤があったのが嘘だったというように水槽へ走り寄る。どこにいる、どこにいるの!?もし会えなかったら、もし、相手がこちらに気づいてくれなかったら、もし、本当は覚えていなかったら、もし、もし、もし、

 だいじょうぶ?

声がした。幻聴かもしれない。でも幻聴だったとしても、

「また、会いに来たよ。ごめんね、いままで、ずっと、ずっど。」

しゃくりあげてしまいうまく話せない。会えたってのにかっこ悪い。

「ごめんね、ずっと、そばにっいてくれてた、のにっいえなくって、さみしかったのは、そっちの、はずっなのに。」

あの時と違って周りに人はいない。ずるずると崩れ落ちて、床に座り込む。息が上がって、呼吸がうまく出来なくて、視界がよどみ始める。すると、さっきまでいた場所よりも下に下がってこちらの顔を覗き込んでくる。水槽の壁にぶつかるかもしれないのに限界まで顔を近づけてくれた。とても懐かしい気分になる。昔も、こうやって慰めてくれたんだよね。だから、言わなきゃ。伝えなきゃ。

「好きだ。」





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シャチ 浅草萌木 @siranuihomura

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