エピローグ
「そういえば、昔、私この鏡を『白雪姫』にでてくる鏡だと思ってたよね」
白いワンピースに身を包んだ少女が、懺悔室の鏡を見て告げる。それを見てとなりにいた青年は「そんなこともあったな」等といって笑った。
「今見ると、本当に唯の鏡に、唯の懺悔室なのになぁ」
「子供の想像力があってこそのそれだな」
青年に少女はうんうん、と頷く。
「結局、何時気づいたんだよ。アレン神父が『鏡』を演じてくれてたこと」
青年の問いに、少女は少し考え込んだ後、口を開いた。
「アレン神父が亡くなる一ヶ月ぐらい前、かなぁ」
「間に合ったのか」
「なんとかね。最後にちょっとだけ手紙を交換したよ」
「そうか、よかったな」
「うーん、でも気づきたくなかった気もするなぁ。夢を見たままでいたかった」
「そりゃあ、無理だろ。その年で『鏡の精』とか本気で信じてたら俺なら引くね」
「いいとおもうんだけどなぁ」
「まぁ、夢を見せてもらった分、お前も夢を見せることだな」
「鏡の精をしろと?」
「そうとはいってないだろ、そうとは」
むっと口を尖らした少女に、青年はため息をつく。少女は気にせずに鏡の前の椅子に座ると鏡に向かって声を投げかけた。
「鏡よ、鏡よ、鏡さん。久しぶりにスノーはエリックと故郷に帰ってきましたよ。これからアラン神父のお墓へ行って、挨拶してきます。……うーん、やっぱり返事がないのは悲しいなぁ」
「あるわけないだろ、ただの鏡なんだから」
ほらいくぞ、と退出を促した青年――エリックに、スノーは「待ってよ」と席を立つ。
「もう一回だけ!」
「やるだけ無駄だろ」
呆れながらも待つエリックに、スノーはありがとうと礼を告げると、鏡にもう一度向き合った。
「鏡よ、鏡よ、鏡さん! ただいま!」
――おかえり。
不意に聞こえてきたその声に、エリックとスノーが一騒ぎするのは別のお話。
ミラー、ミラー、ミラー 海波 遼 @seaisfar
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