第2話 チュートリアルモードとは便利な

 チュートリアルモードが展開した。

 頭上に、『チュートリアルモードです』と表示され、点滅する。。


「わーっ、なんですかなんですか」


 ルミイが驚いている。

 今までいた場所から、突然ゲームっぽい視界になってしまったもんな。

 言うなれば、FPSのような感じ。


 世界の解像度が落ちており、明らかにリアルではないものな。

 彼女が戸惑うのも無理はない。


「なんか魔力に満ちた空間になってしまいました! これが……マナビさんの能力ということですか! なんだ、能力あるんじゃないですか!! 帝国の人達の目は節穴ですよ節穴!! ついてるだけ無駄じゃないですか! あの穴に花でも生けていればいいんですよ! ンモー! わたしここに送られ損じゃないですか!! むきー」


「怒らない怒らない。じゃあ、俺の能力の検証行ってみよう」


 迫ってくる壁は止まっている。

 というか、元の位置に戻っている。


 どういうことかと思い、近づくと説明が出た。


『壁が迫ってきて押しつぶしてきます。これを回避しながら進みましょう』


「ああはいはい、そういうモードね。じゃあ、チュートリアル進めて」


 壁が動き始めた。


「あひー! 壁が動いてきます!」


「動かしてもらったもの。ほらルミイ、逃げよう逃げよう」


「は、はい!」


 二人で小走りで動き出すと、目の前の床に矢印が出てくる。


『落とし穴です』


「焦らせてここに落とすわけね。どれどれ」


 つま先でそこを突くと、落下して、たくさんの槍が生えた穴になっている。

 幾つもの骸骨があるな。


「あひー! 落ちたら死にそうです!」


「死ぬだろうね。んで、この先は」


 壁に矢印が出ている。


『矢が飛び出してきます』


「はいはい」


 身をかがめて通過する。


 ちょっとスマホをかざしてみたら、矢がビュンビュン飛んできた。

 怖い怖い。


「あひー!」


「ルミイのリアクションは大きいなあ」


「よく言われます! グリズリーにアタック食らったときも、吹っ飛び過ぎだってパパに笑われました!」


「普通死ぬやつ」


 その後も、横から巨大な鉄球が飛び出してくる罠、天井から剣が突き出て落下してくる罠、斜め方向から巨大なギロチンが複数、交差するように飛び出す罠、などがあった。

 事前にどういうものか分かると、安全地帯などを調べられるようになる。


「あひー! 殺意高すぎですよこの塔!」


「滅びの塔だもんな。でも罠は全部出きったんじゃない? あと二回くらい繰り返して覚えようか」


「二回も!?」


「チュートリアルモード、おかわり!」


『チュートリアルモード開始します』


「あひー!」






 ワンザブロー帝国。

 滅びの塔に送り込んだ、失敗作の異世界人と外れの巫女の終わりを見届けるべく、地位の高い者たちがそこに集まっていた。


「全く、どうしようもない失敗作でしたな」


「ツーブロッカー帝国の異世界人は無数の武器を虚空から召喚するらしいですぞ。それに比べて我が国のこれはあまりにも失敗作」


「腹立たしい! 巫女もバーバリアンとハイエルフを敵に回してまで拉致してきたのに!」


「まあまあ、ここで奴らの死に様を見て溜飲を下げましょう。ほら、滅びの塔スタートですぞ。奴らはいつまで生き残れることか……」


 彼らの眼の前では、罠に満ちた滅びの塔の内部が投影されていた。

 無数の罠が、送り込まれた者たちを確実に殺す。

 これまで、第一階層を生きて抜けられたものはごく少数であった。


「私は第三の罠まで」


「俺は第四の罠!」


「賭けるか?」


「賭けましょう」


 人の命を弄ぶ賭博が始まる。

 始まるのだが……。


 いざ罠が動き出すと、帝国の者たちは呆然とした。


 まるで、何がどのタイミングで発生するか分かっているかのように、罠をわざと発動させては、二人が安全地帯を悠々とくぐり抜けていく。

 異世界人は、矢が降り注ぐ中で、そこだけ不自然に全く矢が当たらない場所に立ち、キョロキョロする。

 そしてどうやら、帝国の者たちがこの情景を見るためのカメラのようなものを知覚したらしい。


 完全にカメラ目線になり、サムズ・アップしながら歯を見せて微笑んだ。


「「「「「「「「は!?」」」」」」」」


 ここでさらに、帝国の者たちは愕然とした。

 どうして、こちらを知覚できる?


 そして異世界人、今度は巫女に目隠しさせて、わざと天井が落下してくる罠ギリギリを歩いて見せる。

 罠は発動!

 だがギリギリ当たらない。


 通り抜けた後で、また異世界人はカメラ目線になり、ドヤ顔をした。


「「「「「「「は!?!?」」」」」」」」


 もう賭け事どころではない。

 異世界人はこちらを知覚しているどころか、罠の在り処、発動タイミングまで完璧に把握できているのだ。


 そして、罠を舐めきったやり方……つまり舐めプで第一階層を完璧に突破したのである。

 最後の、ギロチンが連続して交差する罠は、巫女と肩を組んでスキップしながら、バッチリタイミングを合わせて抜けた。


 ハイタッチする二人。

 完全に息が合っている。

 まるで、何度もこの階層を繰り返して経験したかのようだった。


「……なんだ、あれは」


「あ、あんな突破などされたことがない! 何か能力を使ったのか?」


「いえ、一切の魔力も闘気も感じ取れませんでした! ただただ、罠を完全に把握して突破したとしか……」


「ええい、二階層がある! スケルトン軍団を起動しろ! あやつらは丸腰! 今度は抜けられるはずがない!」




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