異世界召喚されたら無能力だと追放されたが、俺の力は充実のヘルプ機能とチュートリアルモードだった。世界の全てを事前に予習してイージーモードで活躍します
あけちともあき
滅びの塔編
第1話 ハズレ召喚とは失礼な
ベッドに寝転んでスマホでポチポチソシャゲをしていたら、突如異世界に召喚されていた俺である。
「あっ、それらしい能力が無い!」
「魔力も闘気もゼロ! 召喚系でも無いのか……」
「これは失敗ですな……」
「無能な巫女め」
突然、ガヤガヤが異世界語が聞こえてきたので、俺はびっくりして起き上がった。
そこは魔法陣の上である。
天井が鏡のようになっており、そこには俺が写し出されていた。
服装こそ見知った普段着だが、顔立ちがちょっぴり美化され、体格はちょっぴりたくましくなっている。
夢の中の俺かな?
周囲には大変に異世界っぽい格好をした人々がおり、みんな難しい顔で俺を見ている。
そして、先頭では水色の髪をして、もこもこふわふわの白いローブをまとった娘が、しょんぼりとしていた。
「我が国にはもう余裕が無いというのに、これだけのコストをかけて召喚した異世界人が失敗作とは! ええい、腹立たしい!」
偉そうな異世界人が、水色髪の女の子をこっちに突き飛ばす。
「だってあなた達が無理やり私を誘拐してきたわけで……きゃあ!」
もちゃもちゃと言い訳をしていた女の子が、倒れ込んできた。
「うおっ、あぶなっ!」
俺は特技の尻移動を使って、倒れ込む女の子の下に滑り込む。
これは寝ながらスマホをいじりつつ、自在に移動できるという俺の特技なのである。
受け止めた女の子は大変柔らかい。これは素晴らしい。守護りたい。
「尻で動いた!」
「オー、技を持っている」
「いや待て、あれが技というのはショボすぎる。やはり失敗作だ。ここで処分していこう」
一瞬俺の特技に驚いたものの、異世界人たちはやっぱり難しい顔をしているのである。
そして、みんなで呪文を唱え始めた。
女の子は青くなった。
「いやーん! やめてください! ごめんなさい! もう一回召喚しますから!」
「一人の巫女が異世界の勇者を召喚できるのは、一生に一度きりなのだ! つまりお前はその失敗作を呼び出す力しかなかったということ! かわいそうだが我々の腹いせのために滅びの塔へと送り込む!」
腹いせだって。
なんて素直な。
そして、どうやら俺は召喚されたのだが、彼らが望む存在ではなかったようだ。
お陰でこの水色の髪の子ともども、ひどい目に遭いそうだ。
「状況が理解できないのだが」
俺が呟いたら、視界の隅にアイコンが出た。
ステータスオープンというやつだな。
あ、いや、画面が思ったよりもかなりしょぼい。
視界の端に、『HELP』とだけ書いてある。
なんだなんだ。助けてくれる?
指でツン、と押すと、視界に画面が出る。
『よくある質問』
『この異世界はどこ? 異世界パルメディアです。これから、栄華を誇っていた魔法文明が崩壊するところで、一つの帝国が七つに分裂し人類同士の醜い争いが大絶賛勃発中! 異世界人を召喚して戦わせ合う派閥もありますよ』
「便利! ヘルプ機能があるんだなあ。あれ? これって俺の能力ですか」
どうやらそうらしい。
「検索できるのかな? あ、音声入力できる。あー、滅びの塔ってなに?」
『パルメディアの一国、ワンザブロー帝国が持つ処刑用の塔です。帝国人が気に食わない奴がいるとここに放り込んで、死ぬのをみんなで見物しますよ』
「趣味が悪い!」
俺が顔をしかめたら、その瞬間に呪文が完成したらしい。
俺と水色髪の女の子は、その滅びの塔へと送り込まれてしまったのである。
「あうあうあー」
水色髪の女の子が頭を抱えた。
「もうだめだあー。何もかもおしまいだあー。オヨヨヨヨヨヨヨヨ」
「面白い声で泣く人だなあ」
俺は感慨深く彼女を眺めた。
水色のふんわりした髪で、白いリボンの髪飾り、そしてふわっふわな白いローブ。
耳が尖っている。
「耳が! 尖っている!?」
「はい、わたし、ハーフエルフなのでー」
「ハーフエルフだ!」
「ひええ、なんだか興奮してる!」
「ハーフエルフは興奮するでしょ」
「そうなんですか」
「そうなんだよ」
「そうなんですねえ」
「そうなんだ」
納得してもらったようだ。
「ええと、つまり君は巫女で、俺を召喚したが思ったよりも遥かに俺が弱くて、怒ったワンザブロー帝国人の腹いせで滅びの塔に送り込まれて処刑されるところであると。それでよろしい?」
「えっ!? すごい!! 完璧な状況把握です! あなた、実はすっごい人なんじゃないですか!?」
「フフフ……。実は分からないことを調べられるのが俺の能力らしい。あとは……」
視界を見回す。
ヘルプ機能以外には……ああ、一つあった。
チュートリアルモード。
よく分からんのがある。
「チュートリアルというのがあるから、多分これによって、何かをする時に事前に予習できる」
「そっちはよく分からない能力ですね?」
「俺も分からない。まあまあ君、ここはまず自己紹介をし合おうじゃないか。滅びの塔をさまよって脱出しなきゃいけないんだから、ここからは協力しなくちゃ」
「あっ、それもそうですね。わたしはルミイと言います。ハーフエルフです。父がバーバリアン族で母がハイエルフで」
「ただのハーフエルフと呼ぶにはかなり個性的な生まれだった」
「あなたはどなたです? 召喚しといてこういうの聞くの、本当に申し訳ないんですけど……」
「いいのいいの。俺はコトマエ・マナビだ。マナビと呼んでくれルミイ」
「はい、よろしくお願いしますマナビさん! それで、まずは……後ろと左右から壁が迫ってくるんですけど」
ノーウェイトで、滅びの塔が俺たちを滅ぼしに掛かっている。
これを、ワンザブロー帝国の連中がどこかで眺めているわけだ。
むざむざ、腹いせの娯楽になる気はないのだ。
突然のこの状況だが、切り抜けねばならない。
「じゃあ、チュートリアルモード行ってみよう」
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