第5話 サービスシーンとは親切な
最後の階層に到着したのだが。
出口らしきものがない。
螺旋構造の下り坂だから、一階層ごとにかなりの距離を下っている。
これが塔だというなら、確かにそろそろ地上辺りでもおかしくはないな。
「出口がないどころか、何か魔法陣みたいなものがあるんだが」
「あひー! こ、この魔法陣! 帝国人たちは本気ですよ! 本気でわたしたちを殺そうとしています!」
「フーン」
「あっ、今全然興味なさそうな顔しましたね! 本当ですよ! 本当なんですからねー!」
「それは分かるが、ここまできて出口が無いというのはずるいなあと俺は思うのだが」
「それはそうですけど……。わたしもお腹空いてきましたし」
「じゃあ、塔の中の休憩室で一休みしようか」
「えっ!? そんなものがあるんですか!?」
「スケルトンたちの武器はちゃんと手入れされてたし、矢だって補充されてた。あれはちょくちょくメンテナンスのために塔にやって来てる証拠だ。ということは、ここで作業しながら休憩する部屋もあるはず……」
俺はヘルプ機能で、塔の休憩室と検索する。
『第三階層の入り口脇です。色の違う岩を叩いて下さい』
「ほいっ」
そこだけ黒い岩をコツンと叩くと、ゴムの感触があった。
ゴゴゴゴッと音がして、壁面が展開する。
「あっ、ほ、本当に休憩室があった!」
「テーブルに椅子、水に食料、ベッドに風呂まである」
スマホは……繋がらないか……。
「じゃあわたし、お風呂入りますね! わーい!」
「なにっ!?」
俺の眼の前で、ローブをぽいぽいっと脱ぎ捨ててお風呂へ突撃するルミイ。
うおっ、でっか……。
俺の脳内からスマホの事が全部吹き飛んだ。
今さっき見た光景を脳内でぐるぐる繰り返しながら、食事の準備をする。
異世界飯だ。
カロリーブロックって感じの食事だな。
なんか味気ないな。
魔法帝国とか言っていたからな。
機能化が進んでこんな有様になってしまったのかもしれない。
チーズ味だったので、嫌いじゃない。
水は、保存できるように薬っぽい味がついていた。
一応ヘルプ機能で確認だ。
『魔化水です。雑菌の繁殖を抑える力があるため、百年単位で保存ができます。あまり美味しくありません』
味まで教えてくれるのは便利だな。
「マナビさんもう食べてるんですか? わたしもお腹ペコペコで……!」
「うおっ、バスタオル一丁で……!!」
「? なんでマナビさん、わたしに向かって手を合わせてるんですか?」
「素晴らしいものを見せていただきました……。俺が異世界に来た報酬はこれで十分です……」
「そういえばパパが、もう男の前で脱いだりするな、いらぬ争いを招くことになるって言ってました」
「パパさんの発言は正しいな。ルミイを巡って男たちが殺し合うぞ。傾国級だ」
「えへへ、褒めてもなんにも出ないですよう」
そしてバスタオル姿のままで席についたルミイ。
魔化水を飲んで顔をしかめた。
「うえー、美味しくないです。でも喉乾いてるから贅沢いいません」
ぐびぐび飲むじゃん。
カロリーブロックをかじる。
「チーズ味のお菓子です! おいしー!」
「そうか、異世界だと美味しいお菓子みたいな扱いになるのか」
俺も美味しく、カロリーブロックを食べた。
さっきまでは全く余裕がなかったが、しみじみと向かいに座るルミイを見ていると、相当可愛いキュートな美少女であることがよく分かる。
今まではゲーム感覚だったが、俺がこの世界でやっていくモチベーションがむくむくと湧き上がってきたのが分かる。
別のところもむくむくだが。
「それでルミイ、最下層に魔法陣があったろ。何が出てくるか分かる?」
「分かりません! でも、わたしたちを絶対殺すぞ!っていうものが出てくるのは間違いないですね」
チーズ味の粉がついた指先を舐めるルミイ。
はしたないところも可愛い。
こんななりで、桁外れの耐久力とハイエルフの頂点に当たる抗魔力があるというのは凄い。
だが、俺が一緒ならそんな力を使う必要はないからな。
全部イージーモードでくぐり抜けて守護ってやろう。
「うわあ、マナビさんがネチョッとした視線を向けて来ました! 何か悪巧みしてます?」
「俺は少しだけ傷ついた」
食事は終わり、ルミイも髪を乾かしたあと、ローブを着込んだ。
「マナビさんもお風呂に?」
「あ、そうか。次いつ入れるか分からないもんな。じゃあ……」
ほかほかになって出てきた俺。
風呂の湯も魔化水なんだが、これは石鹸なしでも肌がすべすべになるな。
製法を知りたい。
『原材料名と制作手順はこちらです』
ヘルプ機能優秀!
こうして、心身ともに健康になった俺たち。
外に出てみると、魔法陣から召喚される何者かが、その全身を見せたところだった。
無数の腕を持ち、それに武器を装備している巨人。
頭も複数ある。
「ヘルプ機能」
『ヘカトンケイル。強靭な肉体と耐魔力、そして魔化された装備を複数有するワンザブロー帝国最強戦力の一角です。本来であれば戦争に用いられる生物兵器です』
「ほー、そんなものを俺たち二人のために? 大盤振る舞い過ぎない?」
「凄く悔しかったんでしょうねえ」
「帝国人は負けず嫌いだなあ」
「でもマナビさん、あれはさすがに無理ですよ。バーバリアン軍団が束になっても敵わなくて、パパとママがタッグで挑んでやっと撃破した怪物ですよ」
「ルミイのパパとママが怪物なんじゃないの?」
素朴な疑問を懐きつつ、俺は出現したヘカトンケイルと向かい合うのだった。
「それじゃあ、帝国最強兵器vs丸腰の俺、始めますか。チュートリアルモード、起動」
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