ランキングの深層心理 🦖
上月くるを
ランキングの深層心理 🦖
司馬遼太郎さんの本に「全国の四分の一を占める天領の税率は四公六民だったが、一般の大名は最高八公二民と、両者の領民の負担に大きな格差があった」とある。
それで、ふと思い出したのは、コロナ前に通っていた博物館の古文書講座のこと。
同様なことを講師が話し始めたとき、前のほうの席の銀髪の受講者が手を挙げた。
――はい、先生。おらほの村はほれ、天領だったからさ~。( *´艸`)
最後列の橙子にも糸瓜のようなズクズクの得意満面が見えそうな口調だったので、「だから、なに?!」地肌が透けて見える頭頂部にツッコミを入れたものだ。(笑)
たしかに市の南東の一部地域に、まるで太陽が置き忘れた水たまりのようにぽつんと天領が置かれていたことは、郷土の歴史をかじった者ならだれだって知っている。
江戸時代から数えて何代目かを誇る男は、ゆえに自分の村は近隣に比べて段ちがいに豊かだったと得意そうだが、ねえ、いま何時代? ほかに自慢するもの、ないの?
🏞️
つられて呼び出されて来たのは新宿駅前のカフェレストランで受けた恥辱の記憶。
仕事の打ち合わせが延びて特急の終電ぎりぎりになり、大慌てで外へ飛び出した。
すぐそばのはずの駅までの道が分からずに焦っていると、祖父、父、自分と三代が大学教授の高齢男性に鼻先で嗤われた「きみ~、そんなことも分からんのかね~」。
同行の若いスタッフも相当ショックだったらしく、なんとか間に合った帰りの電車のなかで口も利いてくれなかった。名誉教授のルーツも同郷だったのだが……。💦
尾張藩から江戸に出た坪内逍遥(バリバリの尾張弁(笑))は同郷の二葉亭四迷の流暢な江戸弁に驚いたが、それは江戸詰の子弟だったからという話も頭をかすめた。
🌆
記憶の部屋のどこに仕舞いこんであったのか、別の場面も引っ張り出されて来る。
父親ぐらい年長の児童文学作家を車の助手席に乗せたとき、居住地の話になった。
「地方より東京、一般の市町村より県庁所在地、郊外の町や村より人口の多い都市。そんなランク付けが精神貧者の胸に棲みついてるんだよ、やだね~、みにくいね~」
そういえば、だれも頼みもしないのに県別ランキングなるものが発表され、確たる根拠もないのに順位が上がったの下がったのと大騒ぎするのが恒例になって久しい。
観光地が多いとか自治体のアピールが巧みとかの表面的なことより、土地が肥えていて豊かな作物が採れ平穏な生活を営める(e.g. 坂東・武蔵野)方が大事でしょう。
🗾
一億総ランキング好きの心理を読み解けば、年齢、性差、居住地、社会的立場などの付帯条件にとらわれない、他者への尊敬度のバロメーターということになろうか。
人は互いに尊敬し合うもの(以前は「尊重」という表現をつかっていたが、最近になってランク上げ(笑))、それができるかどうかで人としての度量が決まるよね。
少し注ぎ足せばたちまちあふれてしまうちっぽけな器ではなく「注いでも注いでも底なしに受け入れられる大器」いまなおそれを目指している小器の笛子さん。(笑)
ランキングの深層心理 🦖 上月くるを @kurutan
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
同じコレクションの次の小説
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます