純粋魔導技術
エビリス先生が教室にやってきてからすぐに先生は黒板へと何かを書き出し始めた。
そこには魔法を発動する際の魔力の流れに関しての情報を書き込んでいるようだ。
「……早速だが、魔法を発動する際の基本的な経路に関して知っていることはあるか?」
すると、彼は生徒に向けてそう質問した。
「えっと、魔法陣や魔石を使う方法ですか」
「ああ、わかるか?」
「はい。普通であれば、魔石に魔力を流してから魔法陣の構築を始めます」
生徒の言葉に合わせて、エビリス先生は黒板に情報を書き足していく。
「上出来だ。なら、ここで一つ質問だ。魔石はここではどんな役割をしているんだ?」
「それは……調整と出力、ではないでしょうか」
「この前の授業でも言ってたことですね」
そういえば、魔石がなぜ必要ないのかと言った授業を行った時の話だ。
そこでは魔石と言うのは魔力を調整し、出力する。そう教えてくれたの思い出した。
しかし、よくよく黒板の図を見てみるとどうやらそれ以外にも役割があるように感じる。
魔力の流れ、経路と言うものが問題なのだろうか。
「そうだ。だが、それだけではない。わかる人はいるか?」
「……最短経路の構築と波長の調整」
「さすがだな、ネロ。だが、それよりももっと大きなものに目を向けるべきだ」
「大きな、もの?」
そう言ったネロは改めて黒板の方へと視線を向ける。
「あ、魔導経路などの記録」
「そうだ。魔石には大きく記録、調整、出力の役割がある。細かい点で言えば、魔力共鳴を利用した増幅なども挙げられるが、そんなものはおまけみたいなものだ」
先生はそれに加えて、黒板へとさらに情報を付け足していく。
そこには先ほど話していた魔石の役割についてだ。まさか、魔石に記録する能力があるなんて考えたこともなかったことなのだが、確かに思い返してみれば、設置魔術なんかは魔石を応用して扱う術もあるらしい。
魔石を使い捨てのように扱うことから近年では敬遠されているものの、軍の間ではかなり利用が進んでいるらしい。
「……その記録と言うものが問題なのですか?」
「ここにいる多くの生徒が魔石に無駄な魔力を使っているのはその記録が悪さをしている」
そう言ってエビリス先生は私たちの方へと視線を向ける。その表情はどこか険しいもののような感じがした。
「市場で売られている魔石は一部を除き、調整されたものだ。その時に基準となった魔力を記録してしまうんだ」
「つまり、私たちの魔力に適合していない、と言うことですか?」
「まぁそう言うことだ。君たちの魔力はどうやら普通とは違うようだ。良い意味でも悪い意味でもな」
私がエビリス先生に呼ばれた時も同じように普通とは違った魔力を持っていると聞いた。それは他の生徒も同じことなのかもしれない。私だけが特別だとは思ってもいなかったが、こうして聞いてみると確かにそうなのだろう。
「では、その基準が間違っているって言うことは考えられないのか?」
生徒の一人がそう先生に質問をする。
確かに基準を正しいものにすれば、そのような問題は解決すると考えられる。しかし、先生の表情からして、それは難しいのだろうか。
今までの作り方が基準となっているのならそれに従うべきなのかもしれない。
「基準に関しては本来作るべきものではないんだがな。いつの時代か、そのようなものを作ってしまったんだ」
「私が思うに、量産するためだと思うの。同じ性能のものをいくつも作るには何か基準が必要でしょ?」
そうエビリス先生の説明に補足するようにしてケイネ先生が説明する。
魔石は発掘してそのまますぐに使えることはない。いくつか調整をして、それでやっと扱えるようになる。
一般の人にも広く使われるように量産するには何かの基準を作るのは自然な流れなのかもしれない。そもそも、魔石を量産していなかった時代はどのような製法をしていたのだろうか。
「大昔の話になるが、魔石が一般に出回るようになる前はそれぞれの専門の職人が独自の魔石を作っていた。古くから続く貴族が持っているような特別な魔石はその頃に作られたものが多いそうだ」
それで、貴族に代々伝わる魔石が存在するわけか。
では、私たちもそのような特注の魔石を作ることができれば、それこそ魔法を扱えるようになると言うことなのだろうか。
現実的ではないと言えばそうなる。特注の魔石を作るには非常に高価なものになる。私のような庶民には到底買うなんてできないものだ。
「だから、こうして魔石なしで魔法陣を組み上げる力があなたたちには必要ってことなの」
「……自分の魔力に合った魔石を買うのは、現実的ではないってことか」
「そもそも、俺らの持っていた魔石が良くなかったのかよ」
クルジェや他の生徒たちも自分たちの持っていた魔石が自分に合っていなかったことにどうやら納得の言った様子ではあった。
ただ、それでも全ての人が納得した様子ではなかった。
何人かの生徒は今持っている魔石で魔法を繰り出すことに成功している人がいるからだ。多少効率が悪くとも、練習さえすれば魔法は扱えると信じている人も多いだろう。
「ですが、待ってください。私は自分の魔石で魔法を扱うことができました」
「練度の不足を魔石のせいにするのはどうかと思うが……」
そう生徒たちが新たに疑問を持ち始める。
確かに練度があれば、今ある魔石でも魔法が扱うことができる。しかし、それ以外のことを先生はどうやら言いたいのだろう。
「全て魔石が悪いと言っているわけではない。その魔石を使うことで、自分の実力が下がっていると言っている」
「実力が下がる?」
「この中で一級魔術師になりたい生徒はどれだけいるんだ? 一級魔術師になるには魔力を効率よく魔法陣に送り込む必要がある」
「そうよ。試験でその辺りもよく見られるからね」
どうやら一級魔術師になるにはそう言った試験のようなものに合格する必要があるらしい。それもそうだろう。一級魔術師と言うものは国に認められた魔術師ということなのだから当然だ。
「そこで重要になってくるのが、この純粋魔導技術というわけだ。魔力から直接魔法陣を構築するのだから最大効率で展開できる」
「……そう考えてみれば、重要な技術なのかもしれねぇな」
「ええ、私も早く学びたいものです」
純粋魔導技術を本格的に始める前にこうしてこの技術の重要性について説明してくれたようだ。
「それで、どう訓練するかだが、二人一組になって互いの魔力の流れを感じ取る訓練を始めてみようか」
「魔力の流れを感じ取る?」
「ああ、魔法を発動する必要はない。二人の魔力を互いに流し合ってそれを感じ取る練習だ」
「それをしてどんな効果があるのかしら?」
「魔力を感じ取ることができれば、制御するのも簡単になるだろう」
確かに私のような初心者にとっては魔力と言うものが一体どんなものなのか全く理解できていない。
それなら、他人と組んでその魔力と言うものを感じ取る練習が一番有効的なのだろうか。
私にはよくわからないが、先生がそういうのならきっとそうなのだろう。
私の隣、と言うことはこのシジーヴェと言う生徒のようだ。
「……よろしくね」
「はいっ」
彼は明るめの茶髪に特徴的な紫に輝く瞳を持っている。
その目はどこか異様すら感じさせるものではあるが、別に悪い人と言うわけではないのだろう。
それは彼の表情を見ればわかることだ。
「私、魔法に関しては本当に無知なものでして、優しくしてもらえると嬉しいです」
「うん。僕もそこまで得意というわけでもないからね。まずは手を合わせてみようか」
「はい。そうですね」
すると、エビリス先生とケイネ先生の手本を見ながら、魔力を感じ取る練習を始めてみる。
「じゃ、魔力を流すよ」
「いつでも大丈夫です」
そう合図を出すと彼は目を閉じて、集中するようにして魔力を流し始める。
それと同時に私も魔力を流し始める。
あれ、流れ出していかない。どうしてだろうか。
紙に書かれた魔法陣を初めて光らせた時と全く同じような感覚で流したつもりなのだが、どうも流れていく様子はない。
私は一旦魔力を止めて、感覚へと集中してみる。
すると、一気に私へと流れ込んでいる何かを感じる。どうやらこれが相手の魔力ということなのかもしれない。
つまりはこの魔力の流れで遮られてしまっているようだ。
「えっと、どうしたのかな?」
「その、シジーヴェさんの魔力が強すぎて、私の魔力が押されてしまっているようでして」
「あ、ごめんね。じゃもうちょっと抑えてやってみるよ」
「お願いします」
そう言って彼はまた目を閉じて集中を始める。
私もそれに合わせて集中する。すると、先ほどの魔力の流れが収まったような感じがする。
これから私の魔力も流れ出すことができるだろう。
自分の内側へと集中して、魔力を流し出すイメージでやってみる。
すると、私の魔力は彼の流れる魔力に合わせて流れ出していくのがわかる。この感覚をよく把握することが今回の訓練で重要なことのようだ。
私はこの魔力の流れを掴む感覚を忘れないようしっかりと覚えておくことにした。
魔法下手な私たちが魔王先生の指導で一流魔術師になる話っ! 結坂有 @YuisakaYu
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