私たちの力を信じてみる
私、セルフィンは今ケイネ先生の授業を受けていた。
当然ながら、前回の授業の続きとなっている。それもあってか、生徒の多くは彼女の解説などをしっかりと聞いている印象だ。
それに、エビリス先生が実際に実演して見せたのもあるだろう。彼の授業を受けることで少しでも自分の実力が上がると信じているようだ。
しかし、そんな空気感の中でも少なからずエビリス先生に批判的な生徒も中にはいる。
とは言っても、このクラスから逃げられるわけでもなく、仕方なくケイネ先生の授業を聞いていると言った印象だ。
「それで、この前渡した魔法陣のことだけど、まだ半分近くは苦戦しているようね」
そう言って彼女はまた別の魔法陣が描かれた紙を取り出す。
見たところ、自分たちが練習していたものと似ているようではあるが、ほんの少しだけ形が変わっているように見える。
「今日はこれでやって欲しいの」
「前の魔法もうまく発動できていないのに、次の魔法を教えるのですか?」
「ええ、そうよ。でも今回のは簡単だから大丈夫。あれからエビリス先生が改良した魔法よ」
そう言って彼女はその新しい魔法陣の描かれた紙を配り始める。
私も回ってきた用紙を見てみると確かに以前配られた陣形と少しばかり違う。それがどう変わっているのかは今の私には全くわからないのだが、それでもエビリス先生が改良したのなら確かに発動しやすくはなっているだろう。
「……これ、大丈夫なのかしら」
「どうかしたの?」
「いや、こんな複雑なもの、私たちに扱えるのかと思って」
「ああ、俺たちはそこまで強い魔力を持っていないぜ?」
周囲の反応を見ると、この魔法陣がまともに動かせるのかは不安がっている人も多いようだ。
確かに以前のものに比べて細かい模様が並べられている。
また古い本の情報ではあるが、複雑な魔法陣はそれだけで強い魔力を必要とするものだと読んだことがある。
「そもそも、前の魔法陣も僕たちには難しいものだったんじゃないですか?」
「そこまで言うのならやってみたら? 複雑なものだからと言って魔力を多く使う必要はないのよ」
「……」
まだ半信半疑ではあるものの、試すのは簡単だ。
一人の生徒がその魔法陣へと手をかざす。
すると、その魔法陣は強く輝きを放ち始める。
「どうして……」
「言ったでしょ? 効率のいい魔法陣を構築できれば、魔力なんて強くなくてもいいのよ」
その生徒を皮切りに他の人たちもその配られた紙へと手をかざす。
それと同時にその魔法陣は強くそして、明るく光り始めた。それに加えて全員がその魔法を発動できている
私もそれに倣ってやってみるも以前よりも強く光っているのがわかる。
もちろん、対象物があればすぐにでも発動することだろう。
「これでわかった? 魔法ってのは何も強さだけじゃないの。陣形の構築だけでも大きく変わってくる」
「だけど、ここまで複雑なものは覚えられないわ」
「ええ、丸暗記する必要はないわ。それに、状況に応じて変えなければいけないしね」
「だったら、厳しいだろ」
「でも大丈夫。陣形の構築はある程度法則性があるし、そこだけ覚えていれば簡単よ」
そう言って、ケイネ先生は黒板に今日の授業内容に関して書き出し始める。
それを見てみると、今日の授業はこの魔法陣を使ってその法則と言うものを教えてくれるそうだ。
私たちもその法則さえしっかりと理解できれば、自分で魔法を構築できるようになるのかもしれない。
そうすることで、どんな状況においても自分たちが優位に立てる魔法を作り上げることができると言うものだ。確かに魔術師となる上で重要なことなのかもしれない。
「まず、要素に関してだけど、大きく分けて三つに分かれるの。ちょっと難しいかもしれないけれど、じっくり教えていくからね」
そうして、彼女はその三つの要素のうち一つを丸で囲むと解説を簡単に書き出していく。
私たちはこうして魔術を勉強していくと言うことだ。
そして、これからの授業はより実践的な内容となっていくのだろう。
〜〜〜
それから一時間半後、ケイネ先生の授業が終わった。
今は次の授業が始まるまでの休憩時間となっている。
次の授業はどうやら純粋魔導技術と言うものだ。話によると、他のクラスではやらないようなもののようだ。
それもエビリス先生の独自の授業内容になるらしい。
私たちもどのようなものなのかは全くわからないが、それでも以前終業の会で見せてもらった魔法に関連するものなのだろうとしかわかっていない。
あの時、ケイネ先生が実演してくれた魔法は確か軍用魔法だったようだ。それもかなり高度な付与魔法まで組み込まれていた。そんな魔法をあの数秒で展開できる技術なのだ。
それほどに次の授業は重要なものなのかもしれない。
「……セルフィンさん、さっきの授業すごかったですね」
すると、サラが私に話しかけてきた。
先ほどの授業は多くの生徒が苦戦していた魔法をあのようなほんのちょっとした改良だけで誰でも発動できるほどにできたのだ。
それほどに魔法陣の陣形作りがどれだけ重要なのかが理解できる。
それだけでなく、魔法を構築する際の法則性や要素に関しても少し触れていた。今は魔法を教えられる身なのかもしれないが、今後私たちの中で新しい高度な魔法を構築するような研究者が現れるかもしれない。
それに、即席である程度魔法が作れるようになるだけでもそれは私たちにとって大きな意味を成すだろう。
「そうですねっ。あの要素さえ理解できれば、ある程度は魔法を自分で作ることができるのでしょうね」
「ケイネ先生の話を信じれば、そうなりますよね。本当に魔法って奥が深いです」
「ただ、あの三つの要素だけで魔法が成り立つのですね」
まだ黒板に残っているその三つを見て私はそう思った。
あんなに複雑そうに見えていた魔法陣でも、基本はこの三つの要素性に則って作られているようだ。
対象、効果、そして時間。この三つがうまく噛み合わさることで魔法と言うものが構築されているようだ。
それぞれ複雑なものではあるものの、話としては簡単なものだった。
「確かに、考えてみれば三つだけで魔法陣は構築されていると言うのは少しばかり不思議です」
「流石に軍用の強力な魔法ともなればより複雑で要素も増えると思いますよ?」
「それもそうですね」
憶測だけで決定付けるのは早いとはいえ、私たちはまだこの学院に来たばかりなのだ。その軍用魔法とやらも見たのは一回だけ、そんな私に上位の魔法に関することは全くわからないと言っていい。
当然ながら、私の読み込んでいた雑誌にはそのような魔法のことは書かれていなかったし、紹介すらされていなかった。
普通の人がそのような魔法を扱うと言うのはあまりにも危険過ぎるものなのだろう。いや、紹介したところで、ほとんどの人は扱えないのだろうか。
あの雑誌は一般の人に向けて作られたものだったはず。それなら高度なものは書かれていないか。
この魔法における三つの要素に関しても全く書かれていなかったのだから。
「えっと、そろそろ時間ですよね」
「はい。確か、純粋魔導技術でしたね」
「私たちの知らない魔導技術です。おそらくは最新の研究か何かだと思うのですが……」
「それか、今よりももっと古い技術だったりするのかな?」
「……わかりませんね。私たちももっと勉強しないといけませんね」
ほんの少し考えたサラだったが、私たちの知識量だけではどうやら結論は出ないようだ。それなら、直接先生に聞けばいいだけの話だ。ここには優秀な教師たちが揃っているのだから、質問をしてわからないことを一つ一つ消していけばいいだけなのだ。
それからしばらくして、ケイネ先生とエビリス先生が教室に戻ってきた。
「では、純粋魔導技術についての授業を始めようか」
そうエビリス先生が言った途端、いくつかの生徒の表情が一気に真剣なものへと変わる。その中にはサラも含まれている。
それほどに彼の教えようとする技術が彼ら生徒たちの興味を惹いているようだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます