蛇口師
結騎 了
#365日ショートショート 253
男は公園の駐車場に車を乗り入れた。
工具箱を片手に車を降りる。土曜の昼下がり、公園には走り回る子供たちの声が響いていた。
「はい、ちょっとごめんね」
子供たちをかき分け、水飲み場へ。蛇口からちろちろと水が漏れている。どこかの子供が蛇口のハンドルを閉め忘れたのだろうか。男はそれをきゅっと閉め直す。ちろっ... と水が止まり、数滴が静かに落ちていった。
続いて工具箱から何やら計測器を取り出し、計器から伸びるコード付きのゴムを蛇口に取り付ける。
「よし、締め具合はちょうどいいな」
そう呟き、公園を後にした。
車を走らせ、次の公園、また次の公園へと。蛇口を点検し、漏れている水を止める。時には破損しているものもあり、その場で工具箱を広げて修理する。黙々と繰り返すその作業によって、作業服の内側は汗だらけになっていた。
数時間後、車は水道局に停まっていた。
「ほうら、今日の日報だ」
「毎日ご苦労サマ」
受付の年配の女性は中身を確認し、金庫から現金を取り出した。
「ありがとうねェ、蛇口師さん。この市であなたを雇用してから、公園の水が流れっぱなしになることがなくなったわ。本当に助かってるの」
「ふふっ、いいってことよ」
男は現金入りの封筒をくしゃっとポケットに突っ込み、水道局を後にした。
蛇口師 結騎 了 @slinky_dog_s11
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