第6話 アクティブ・エイジング

 67歳にもなって産婦人科の学会で発表しようとは思わなかった。

 しかも舞台は、若手の登竜門とも言うべき、東北連合産科婦人科学会である。


 参加の目的は、被災地の「風化」防止のアピールである。

 そこで演題は、「団塊世代の元産婦人科医が震災復興に向ける思い~岩手県陸前高田市と宮城県南三陸町における女性支援~」に決めた。


 被災地で若者たちと活動しているうちに、気持ちだけは若返ったのかも知れない。

 さらには、「アクティブ・エイジング」を自ら心がけている効果でもあろう。

 とかく後ろ向きに捉えられるエイジングであるが、筆者は「アクティブ・エイジング」を「超高齢社会を積極的に生き続ける努力の営み」と考えている。


 サミュエル・ウルマンの「青春の詩」を一部引用する。

「青春とは、人生のある期間を言うのではなく、心の様相を言うのだ。優れた創造力、逞しき意志、燃ゆる情熱、臆病に打ち勝つ勇猛心、安易な道を振り捨てる冒険心、こういう様相を青春と言うのだ。」

「人は信念と共に若く、疑惑と共に老いる。人は自信と共に若く、恐怖と共に老いる。希望ある限り若く、失望と共に老い朽ちる。」


 震災後、南三陸町職員数は年々増加しており、平成27年4月時点で350名とこれまでで最も多い。

 そのうち、町外自治体などからの派遣職員数が111名で、これも震災後の最大数である。


 そのなかには定年後に再雇用派遣された方もいて、かなりの人数になると佐藤仁町長は感謝していた。

 実感としても、「青春」の団塊世代職員と会うことが多い。

 被災地で活動するボランティアの方々も、一般に年齢より若く見られがちだと思う。


 毎月3回くらい医療相談のため、南三陸町内外の仮設住宅を回っているが、そのスケジュール調整や会場設営などは牧師さんたちのお世話になっている。

 クリスチャンでもない筆者を支援する彼らには、深い宗教心とともに「青春」をも感じてしまう。


 南三陸町の入谷婦人会が中心となって、心身の健康について勉強し合う「入谷塾」を開催している。

 開塾記念の「死ぬまでどう暮らすか」以来、これまでの五回とも大盛況で、それを支える幹事のご苦労には頭が下がる。

 回を重ねるごとに、塾長である筆者がタジタジとなる突っ込みも出て、入谷レディースのパワーには「青春」の存在を確信させられる。


 「座標」の連載は今回が最後ということで、団塊世代のご同輩に提言をさせていただきたい。

「2025年問題」というのは、団塊世代にとって喜寿を迎えられるかということでもある。

 平均寿命(男性80歳・女性86歳)から見ると喜寿は楽勝にも思えるが、重要なのは「健康寿命」(男性70歳・女性73歳)である。


 介護の世話になる前に、健康寿命の期間を利用して、これまでの人生で蓄えた能力や人脈などを持って、被災地でボランティア活動などアクティブ・エイジングを送っては如何であろうか。


 C'est la vie(セ・ラ・ヴィ)


 人生のパラダイムシフトである。


(20150602)

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👨‍⚕️ 医療で震災復興 👷 医師脳 @hyakuenbunko

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