第5話 ペイ・フォワード

 2010年の末、老後は沖縄の離島で医療支援をしようかと、「ゆいまーるプロジェクト」に登録申請した。


 しかし翌年に東日本大震災が起こったため、実際の支援先を東北の沿岸被災地へ変えたのである。

 3月21日に岩手県大槌町の城山公民館避難所を訪れた際、最初に出会ったのが沖縄県の伊江島診療所の阿部所長さんだった。

 ゆいまーるプロジェクトの支援先として伊江島を考えていた筆者は、単なる偶然の出会いにも考えられず、シンクロニシティ(共時性)という心理学の言葉を思い浮かべた。


 そもそも「ゆいまーる」とは、ユイ(協働)+マール(順番)が語源で、順番に労力交換すること(相互扶助)の意味である。

 おもに農家の畑仕事について言うが、転じて他の仕事にも使われるようになった。

 たとえば「ゆいまーる医師」とは、沖縄県の離島へき地医療機関で短期間でも順番で働ける医師を指す。

「情けは人のためならず」という諺もあるように、人に親切にしておけば必ずよい報いが返ってくるのである。


 「善意」と言えば、ペイ・フォワード(Pay It Forward)という映画も参考になろう。

「今日から世界を変えてみよう」という課題を出された、ひとりの少年の取り組みが描かれている。

世界を変えるアイデアというのは、人から受けた好意をその相手に対して恩返し(ペイ・バック)するのではなく、他の誰かに違う形で先贈りして善意を広げていく(ペイ・フォワード)というものである。

 映画では、善意を受けた人が新たな3人にペイ・フォワードするので、善意の輪はドンドン広がっていく。


 東北の沿岸被災地では、もともと医療サービスが十分でなかった。

 そこに復興の遅れが加わり、さらに不自由さを増した現状が目につく。


 震災直後は大規模な医療支援があったものの、4年も過ぎると被災地に対する意識の風化は顕著である。

 県外から新任の医師が来たと喜んだ施設では、それまで宮城県から派遣されていた医師が一名減らされたという話も聞く。

 このような医療資源不足の被災地復興に向けて、「ゆいまーる」や「ペイ・フォワード」という考え方を応用できないものであろうか。


 被災地からの情報発信のため、インターネットのフェィスブックで「南三陸町を勝手に支援し隊」というグループを運用している。医療介護のみならず様々な分野の専門家が、南三陸町の現状に合わせた応援を続けられるようにしたものである。

 今年の1月末には、「南三陸町を見て食べて語ろう」というイベントに全国から隊員が集結しており、6月には第二回目が企画されている。


 被災地に出かけて医療支援などできなくても、被災地で活動するグループを金銭的に応援するペイ・フォワードがある。

 たとえば、民間医療用ヘリコプターを運用しているNPOオールラウンド・ヘリコプターのサポート会員などはどうだろう。ブロンズ・サポーターは年間千円で登録でき、筆者はプラチナ・サポーターの第1号を取得した。


(20150505)

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